せんべろの真髄、ここにあり -市民酒場みのかん(神奈川) | 丁稚烏龍帳

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today,detch stood live on the earth,too…

                                        11月17日(火)一軒目
 雨の横浜。

丁稚飲酒帳-熊野神社の狛犬  降り立ったのは東神奈川駅。目指す酒場は、第一京浜のすぐ近く。最寄は京急神奈川、仲木戸、またJRならば東神奈川と、いずれの駅からも歩いて10分程の住宅街の中にあります。今日は東神奈川駅からのんびり歩いてうかがうとしましょう。行く道すがらには、大きな狛犬の鎮座する神社や広い境内に銀杏の高木のそびえるお寺など、このあたりは古い寺社仏閣が多いのですね。散歩して初めて気づく、歴史の重み。


 さて、滝の川にかかる土橋を渡れば、向こうには今日も昼からのれんがはためいています、ここが今日の昼食会場、市民酒場みのかんさんでございます。



丁稚飲酒帳-雨の市民酒場  築何十年という佇まいは思わず見ほれてしまうほど、みのかんと染め抜かれた紺地の暖簾は、時の重みか、下半分は向こう側がうっすらと透けて見えるほど。さらに中に一歩踏み入れば、まさに本物の昭和の空間が、当時のままに残っています。銚子屋にも通じるこのゆるい時間の流れは、ここだけ時が止まっているかのよう。

 傘の雫を払って、こんにちはとお邪魔すると、今日も「いらっしゃいまし」と塩辛声のご亭主の声が出迎えてくれます。なんとも、背筋が伸びますなぁ。


 
 冷たい小糠雨に打たれて、少し寒さを感じる今日は思わず熱燗と叫んでしまいそうですが、まずはチューハイから行きましょう。この酒場は寒いときも熱燗でなくていいんです、チューハイがいいんです。丁稚飲酒帳-9割酎ハイ何故って…ほら見てくださいな、グラスには氷も入っていますが、実に八割の焼酎。これを味わえばどんなに寒くても、飲み進めるほどに温まろうて寸法です。

 

 さらにお通しにはコンニャクとがんもどき。時にはジャガイモがあたったりもするのですが、今日の二品だってボリューム満点。特濃チューハイをやっつける前に、胃にものを入れて悪酔いしないようにというご配慮でしょう。これがまた良く出汁を含んでおりまして、卓上の辛子をつけて食べるとうまいんだぁ。ちなみにこの辛子も特辛でございまして、この日もよく泣きました(^^;。しかもこのお通し、なんと無料、本当に頭が下がります。

 さてさて、折角の横浜お邪魔、今日はできるだけ廻りたいと思ってますから、スタートは軽めにね。短冊をざっと見回すと、お、今日はありましたよ、親分おすすめの煮込みがありました。それと焼酎で温まってくるとはいえ、やはり寒いですから、湯豆腐をお願いしましょう。


 厨房の小窓にお母さんが顔を出されたタイミングをはかり、「すいません、煮込みと湯豆腐、お願いします」とオーダーを入れておいて、さてチューハイを味わいながら待つとしましょうか。

 カウンターにはサラリーマンのお父さんが、午後のアイドルタイムを一人ゆっくり過ごしています。奥の四人掛けはご近所の寄り合いでしょうか、叔父様方が三人で「誰それさんは最近どうだ」…なんて話をされています。そのうちには、お話しが盛り上がったようでもう一人の方に、お電話されてますね。「いま、せんべろなんだけどな、すぐ来いよ」…なんて、みのかんさん、土地の方からも「せんべろ」って呼ばれているんですねぇ。

丁稚飲酒帳-煮込み300円  せんべろ、もちろん千円でベロベロになれるお店のことですが、こちらの創語者はやはり中島らもさんですかね?名著「せんべろ探偵が行く」以前から、この言葉はあったのかしら…なんて思いを馳せておりますと、揃って出てまいりました、煮込みに湯豆腐。

 みのかんさんの煮込みは、いわゆるどて煮に近い八丁味噌の甘辛いタイプ。お鉢の中には、分厚く着られたシロやフワがたっぷりと、しかもこれが固さなんて感じないふわふわの食感なんです。噛み締めると味噌の甘味ともつの旨味が、口の中にじゅわー。これで300円ですから、売り切れ必至なのもよくわかります。

 さらには湯豆腐も豆腐がたっぷり一丁分、出汁醤油掛けまわされて、その上に花鰹が踊っています。このフルフルの食感もいいですねぇ、温まります。



丁稚飲酒帳-湯どうふ180円!  と、まだお若いカップルさんがご登場、こちらもおなじみさんのようで、いつものような感じでお父さんとオーダーのやり取りをされています。お兄さんの方はみのかんで一番お安いハイボール、そう特濃チューハイは280円なんですが、ウィスキーハイボールは200円という価格破壊。作り方を見ていますと、ショットグラスに並々注ぎいれたウィスキーを炭酸で割ってくれるのですが、これまた十二分に濃い。さらにはダブル(340円)ってあるんですが、あれ頼んだらどうなっちゃうんだろ(^^; 

 お姉さんの方はウーロンハイですが、こちらはビアタンに入れた焼酎をグラスに注ぎいれる前にお父さん、「全部じゃ多いから、半分ずつにしますね」とビアタンの半分ほどを注いで、残りはそのままお持ちになります。なるほど、半分ずつでオーダーすれば通常の…それでも濃い目のチューハイになるかぁ。お父さんの細やかな心配りを見るにつけ、いいなぁ、そんな注文の仕方が出来るくらいに馴染みになりたいなぁ…と思います。若干傾いた格子戸の曇りガラス越しに、表の光が漏れ射す様子がまたなんともまったりでいいですねぇ。


丁稚飲酒帳-格子戸の向こうの光  さて、ゆっくりと飲み干したところで、このあたりで腰を上げるとしましょう。

 お会計をお願いしますと、チューハイ二杯に二品いただいて、「1060円です」とお父さん。思わず、「本当にすいませんでした」と、心から頭を下げてしまいました。

 焼酎に酔い、さらに雰囲気にも酔って、もうかなり気持ちいいんですよ。それなのにお会計千円ちょっと、さらには先ほどのカップルさんへの接客だけでなく、僕らのような日の浅いお客にも丁寧な凛とした接客をしていただいて。ただ安いだけの居酒屋は数あれど、質の高い酒場をさらにお安い値段で味わえる、まさにセンベロ酒場の鑑ですね。だからこそ、雰囲気を壊すような飲み方はできなくなる…そういう好循環が果たして今の酒場環境にどれだけあるのか。
丁稚飲酒帳-土橋に雨がふりしきる 確かに安い居酒屋は増えました。大きな駅前に行けば一品300円均一とかの大箱系低価格居酒屋をよく見かけるようになりました。でもどうにもそういうお店には入る気がしないのですね。そこには、お父さんのような人の顔がない。また、お客の側もお金を払っているのだからと、お客様になりたがる…そうじゃない、酒場はやっぱりお店とお客と両方でつくるものでしょう。お金を払っているのだからとお客が居丈高になる道理もないし、自分の店だからとお店が押し付けるものでもない。お互いがほっこり共存できる関係をつくりたいものです…なんて、へべれけてるあたしが言えた義理じゃないんですが。


 表に出ると粉糠雨はだいぶ小降りになりました。これなら傘もいらないかな。

 また、近くによりましたら寄らせていただきます。どうぞ、お父さん、お母さんお元気に続けてください。ごちそうさまでした。


市民酒場みのかん 10:00~20:00  日曜定休