汁なし担担麺が大好き! | pontaの街場放浪記

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さすらいの街場詩人pontaのライフスタイル備忘録です。
2012年に広島のリージョナル情報誌『旬遊 HIROSHIMA』のWebページでコラムを連載しました。その過去ログもこちらへ転載しています。

汁なし担担麺が大好きだ。

先日も人気の汁なし担担麺専門店〔中華そば くにまつ〕を訪問。〔くにまつ〕名物の「KUNIMAX」に舌鼓を打った。

KUNIMAX

「KUNIMAX」は字面だけ見れば、単なる激辛汁なし担担麺のようだが、そうではない。

仕様は、ネギ多め、肉多め、花椒(中国山椒)多め、そして芝麻醤(ゴマペースト)なし、である。

辛さも、通常の〔くにまつ〕で供される汁なし担担麺の4倍程度だという。

激辛好きからすれば「4倍」では全然物足りない辛さかも知れない。しかし、店主の松崎司さんのブログでは「私の中では、味を調整できる限界の辛さです」と説明している。

松崎さんが目指していたのは激辛を売り物にする担担麺ではなく、「『麺』『花椒』『ネギ』が主役のような担担麺」。

花椒の舌が痺れるような辛さと、ラー油の刺激的な辛さとの見事なハーモニー。

四川料理ではそれを「麻辣味」(マーラーウェイ)と呼び、食べ手である僕も待ち望んでいたものだった。


広島は汁なし担担麺という料理がメジャーだからそうでもないかも知れないが、「担担麺は汁そば」という認識が、ちょっと前までは一般的だったと思う。

が、担担麺という料理自体、元来「汁そば」ではない。

19世紀半ばに、四川省で産み出された「汁なしそば」「和えそば」である。

「担担麺」というネーミングは、天秤棒に食材と道具を吊るして売り歩いたことを由来としている。

「担担」とは、四川省の方言で「天秤棒」の意味。決して「坦坦」ではない。「坦坦」では、平らな、平凡な、という意味になってしまう。

天秤棒で担いで売り歩いた料理だから、大量のスープを運べない。必然的に「汁そば」にはできない。

七輪の火力で麺を茹で、小ぶりの椀にラー油、花椒、醤油などを入れ、茹で麺を投入。上から事前に炒めた豚肉のそぼろときざみ葱(ザーサイ、ナッツなどを入れる場合もある)をふりかけ、タレと麺を混ぜてから頂くものだという。


日本で一般的な「汁そば」スタイルの担担麺は、四川省出身の名料理人・陳建民氏が広めたという説が広く知られている。

上海・台湾・香港のレストランを渡り歩いた陳建民氏は、本場のスタイルの四川料理が日本では受け入れられないことを熟知していた。

中国本土でも、四川省以外の土地では辛味の強い料理は受け入れられず、辛さを控えめに調整した経験を持っていたからだ。

だから陳建民氏は、四川料理に馴染みが薄い日本人のために、食べやすくアレンジした料理を提供した。

辛さを控えめにした麻婆豆腐。ケチャップを加えたエビチリソース・・・

担担麺は「汁なし麺」ではなく、スープをたっぷり入れた「汁そば」にした。スープにはラー油、花椒は控えめにし、ラー油の辛味を打ち消すため芝麻醤を投入した。

これが、日本で広く人気を得た、陳建民氏スタイルの担担麺である。


もちろん僕も陳建民スタイルの担担麺は大好きだ。邪道、とは全く思わない。

香ばしく煎り上げた芝麻醤の風味が、食欲をそそる。スープを最後の一滴まで飲み干したくなる
美味しい担担麺を、何度も口にしたことがある。

また、2001年に開店した〔きさく〕を嚆矢とする広島での汁なし担担麺の多くが、芝麻醤をタレに加えている。

きさく

芝麻醤のゴマ風味は、味わいをマイルドにするのでこちらも大好きだ。

また、時には五日市の〔赤麺 梵天丸〕の「梵天切りⅡ」のような激辛風味の担担麺も、食べたくなる時もある。

梵天丸

中でも「KUNIMAX」のような、「麻辣味」を純粋に味わうことができる汁なし担担麺が、自分には一番フィットする。無性に食べたくなる。

そういう時は、〔くにまつ〕〔キング軒〕など、芝麻醤なしの汁なし担担麺のメニューを置いてあるお店に、一も二もなく駆けつけるのだ。


※2015年9月現在、上記で紹介したお店に加え、〔花山椒〕〔武蔵坊〕など新鋭の人気店も増えている。

また〔くにまつ〕は、「DEATH MAX」という激辛メニューを追加している。


(2012年10月12日執筆。「Web旬遊」所収)