伝世舎のブログ

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日々是好日

『遺し、伝える』ことが伝世舎の理念です。


分析後、作品の状態によっては保存へのコンサルティング。


必要なものには現状を維持したまま次の時代に遺すために修復を。




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 久々のブログ投稿です。前回アップしたのが2022年10月ということで、約1年半たってしまいました。新型コロナが、と言うのは言い訳になりませんね。

 2016年3月に、寒糊煮のことをブログにアップしたことがあります。その内容に関しては以下をご覧ください。

 寒糊を煮ました。 | 伝世舎のブログ (ameblo.jp)

 今回、再びブログにアップすることにしたのは、糊の種類などを変えたからです。

 

 寒糊煮とはどのようなものかをちょっと整理しておきます。

 修理や表装では、生麩(正麩)糊という、小麦粉澱粉を煮たものを使います。これを新糊と言い、その都度煮て使います。

 それを10年ほど寝かせて、粘着力が弱くなったものを古糊と言います。主に掛軸や巻物など、巻くものに使います。

冬の寒い時期、古糊を作るために大量の糊を煮るのが寒糊煮です。作る量は使用頻度によりまちまちですが、伝世舎では毎年1瓶煮ています。

 今年は2月10日に1日かけて寒糊煮を行いました。

 

 2016年のブログでは乾燥した小麦粉澱粉糊を煮ていますが、2020年からは生の生麩糊を使っています。以前の糊は乾燥粉末でしたが、今は乾燥させていない、しっとりとしたものを使用しています。

 これは生糊(なまのり)、沈糊(じんのり)、生沈(なまじん)と呼ばれるもので、乾燥させる前の水分が残っている糊です。

 

生糊。10kg単位で売っています。

 

しっとりと水分が残っています。

 

 生糊はよく「すぐ腐る」と言われますが、そんなことはありません。冷蔵庫で保管すれば十分持ちます。

 事前に水を張って冷蔵庫で保管しておくと、直ぐに使用できるので便利です。ただし、頻繁に水を変えないと水が腐る可能性がありますので、注意が必要です。沈糊が腐りやすいと言うのは、この管理をおろそかにしてしまうからで、沈糊にカビが生じてしまいます。

 

大きめのタッパに糊を入れ、水を張って冷蔵庫に保管します。

 

 実際に使ってみると、粉の糊と比べて糊の接着力が持続する感じがします。古糊にした場合は比較的白く出来上がるという印象があります。まだ4年目ですので、結論を出すのはまだ数年先になるかと思いますが、色々試しながらやっています。

 

 作業はいつも通り、ひたすら煮て瓶に移して、の繰り返しです。今年は女性2人で煮ましたが、さすが若いだけあって体力がある。夕方には終了しました。

 

ひたすら糊を煮ていきます。

 

 糊を煮るのと並行して、保管している古糊のチェックをします。重量、所感、pHなどを確認し、気になるところは備考欄に書き込みます。その年の作業内容もまとめておきます。

 作業は作業前・後の写真撮影、作業前・後の重量を計る、糊の状態チェック、カビなどの除去、消毒、記録を行います。

 

糊の状態をチェックして記録します。

 

記録台帳。

 

 以前は水を張って封をしましたが、2014年からはポリエステル紙を被せて保存しています。

 

今年煮た糊。ポリエステル紙を被せて保存する。

 

 最後に紙で封をして保存します。

 

紙を貼って封をします。

 

 いつものように冷暗所で寝かせます。お屋敷の床下を保管場所として お借りしています。

 

某お屋敷の台所床下で保存します。その数10瓶です。

 

 古糊はその年によって上手くできたりできなかったりします。いい糊になりますように。

 芸工展とは、東京・谷中地区を活性化させる取り組みのひとつとして平成5年に始まった地域のイベントです。谷中・根津・千駄木・日暮里・上野桜木・池之端界隈で「まちじゅうが展覧会場」と銘打って、地域に暮らす人々が様々な企画展示・イベント等を行います。谷中界隈を散策しながら、皆さん思い思いに楽しんでおられます。
 (芸工展URL:http://www.geikoten.net)

 今年で30回目を迎える芸工展。これを記念して2018年に10回目の節目で終了した「修復のお仕事展」を、今年だけ1回限りで開催します。
 今回は「シン・修復のお仕事展」として文化財修復のお仕事を、伝わりやすいポスター展示にすることで、博物館や学校での教育普及に活用できないか? という試みです。
 2020年に急逝された、お仕事展仲間の考古学者・原祐一さんの回顧展も併せて開催します。
 またこの機会に、普段は月に1度しか公開しない旧・平櫛田中邸アトリエをご覧頂ければ嬉しいです。

 谷中界隈散策がてら、是非お立ち寄りください。


会   期:2022年10月9日(日)~16日(日)
会   場:旧平櫛田中(ひらくしでんちゅう)邸アトリエ※
        〒110-0002 台東区上野桜木2-20-3
開催時間:11:00~17:00(最終日は16:00まで)

※旧平櫛田中邸アトリエ
 日本近代を代表する彫刻家である平櫛田中は、谷中・上野桜木に70年にわたって暮らし、数多くの作品を世に送り出しました。
 上野桜木の平櫛田中アトリエは大正8年、横山大観、下村観山ら日本美術院の画家たちの支援により建てられました。日中安定した光を得るため、北側に天窓を備えた近代的アトリエ建築の先駆けです。
 普段未公開のアトリエをご覧になれるいい機会ですので、皆様お越し頂ければ幸いです。

 会場は少し分かりにくい場所にあります。以下の記事に根津駅、鶯谷駅からの写真入りルートを紹介していますので、参考になさって下さい。

平櫛田中邸アトリエの道のり(根津駅から)
http://ameblo.jp/denseisya/entry-11361245963.html
平櫛田中邸アトリエの道のり その2(鶯谷駅から)
http://ameblo.jp/denseisya/entry-11368416676.html
※2012年のデータですので、日付は微妙に違っていますがご容赦ください。

大子町ワークショップ「ひょひ台をつくろう!」に参加してきました

 

 なんと1年7か月ぶりにブログ更新です。これもすべてコロナ禍のせい、と言い訳をしておきます。

 12月4日(土)、茨城県久慈郡大子町にある大子町立中央公民館で開催された、大子町地域おこし協力隊主催のワークショップ「ひょひ台をつくろう!」に参加してきました。

 「ひょひ台」と言われても、何のことか分かりませんよね。まずはそこから説明します。

 大子町は良質な楮(コウゾ)の産地で、那須楮として流通してきました。最近は「大子那須楮」としてブランド化しています。

 和紙は楮、三椏(ミツマタ)、雁皮(ガンピ)が三大原料と言われています。特に楮は最も多くの紙に使われているものです。

 大子那須楮はユネスコの無形文化遺産に登録されている本美濃紙や、重要無形文化財保持者(人間国宝)の岩野市兵衛さんが漉く越前奉書紙の原料です。

 大子那須楮に関しては、NPO法人 文化財保存支援機構のセミナーで大子町を訪れたこともあります。詳しくは以下をご参照ください。

「NPO JCPのブログ」

https://ameblo.jp/jcpnpo/entry-12443790457.html

https://ameblo.jp/jcpnpo/entry-12443792783.html

 

 大子那須楮は製品としては黒皮、甘皮(緑皮)を取り去って、白皮で納めるのが特徴です。

 この皮を取る時に「表皮(ひょひ)取り台」「表皮台」という、大子町独特の道具を使って作業をします。これは大子町でしか見られない道具で、座る部分と作業をする部分が一体になっている、非常に効率のいいものとなっています。

 

これが表皮取り台。各自、自分がやりやすい形に作ります(2017年撮影)。

 

斜めの部分を使って楮の皮をはいでいきます(2017年撮影)。

 

 11月のある日このワークショップの情報を見つけ、自分の手で表皮取り台を作れるなんて、とすぐに応募した次第です。最小開催人数をクリアしたようで、無事開催が決定しました。

 

 前日に大子に行き、当日9時前に会場へ。以前お世話になった大子那須楮保存会会長の齋藤さんがいらしたのでご挨拶。ベテランの方と3人で教えて頂けるとのこと。

 すでにわらの束が用意されていて、これを使って作っていきます。

 

束ねた藁。事前に湿らせ、木槌や砧で叩いて柔らかくしておきます。

 

 束ねた藁の太い切断面をそろえて縛ります。かなりしっかり縛らないと形が崩れてしまうので、力を使います。

 

15~20cmのところをきつく縛ります。

 

 縛ったところから藁を折り返すように畳んでいきます。この時に藁を引っ張ると作業面が凹んでしまいます。

 

一度にやらずに、少しずつ折っていきます。なるべく固くまとめるのがコツです。

 

 半分以上折り込んだら、織り込んだ部分全体を3カ所きつく縛ります。これは後で縛り直せますが、最初からしっかり作っておくほうが後々やりやすいです。

 

藁を折り返した部分。木槌などで固めたほうがいいようです。

 

3カ所を紐で縛ります。結び目は下になる位置にします。

 

 台の先の方を斜めに切ります。作業するところなので、なるべくまっすぐきれいになるようにします。

 

斜めに切っていきます。

 

切ったところです。これはお手本、中々このようにはなりません。

 

 余った後ろの部分を5束の三つ編みにして、座るところを作れば完成です。

 

 完成した表皮取り台。思ったより大きく、全長約90cmほどあります。使わないときは紐で吊るしておけます。さっそく飾ってみました。

 

壁にかけてみました。インテリアとしても使える?

 

 以前から「作るのは簡単」とは聞いていましたが、実際に素人でも1時間あれば作れそうです(出来は別として)。

 今まで、「表皮取り台」の作り方をまとめたものが見当たらなかったので、実際に作り、記録できたのは幸いな事でした。

長い時間をかけて今の形になったと思われますが、今までは大子町でしか使われていませんでした。聞くところによると、越前でも使い始めたとのこと。この機能的な道具がもっと活用出来たらいいな、と思いました。

 

 今回、こういった機会を作ってくれた、大子町地域おこし協力隊の石川さんに感謝申し上げます。

 ところで、フルサイズの表皮取り台は、材料が無くて作れませんが、今度ミニチュア版を作ってみようかなと思っているところです。