SPECIAL INTERVIEW~「砕ける月」完結によせて~ | 水の中。

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じゃじゃん!


予告しておりました、えいみすさんのところの「砕ける月」 の完結をお祝いして、ちょー個人的なインタビューをさせていただきました!


何がどう個人的かと言いますと、
「ふつー聞くだろ」という問いでなく、 「わたくしが聞きたいこと」のみを送りつけたという……。

えー、ご本人からは寛大にも「答えは意訳して結構ですよー」という了解をいただいたのですが、
そこはそれ、たった三行のあらすじにさえウソを盛り込む(本当に申し訳ございません……)私ですので、超訳(ていうかウソ)になりかねないと思いまして、原文のまま掲載させていただきます。



Qはもちろんわたくし。問いにお答えいただいたのは作者えいみすさんでございます。
ではでは、スタート!



Q1 ずばり、一番思い入れのあるキャラクターは? そしてその理由は?


それぞれに思い入れはありますが、一番と言うことであればやはり榊原真奈ですね。初の完結作の主人公ということもありますが、これまで書いたことのないタイプの主人公なので。




Q2 本筋以外で、「ここに一番力を入れたんだよー」というこだわりポイントは?


小道具、大道具のセレクトと、そのディテールですね。服装や持っているアイテム、クルマ、タバコ、酒など。それらによってキャラクターのイメージを補強するのはハードボイルドの常道なので。
ただ、細かすぎて伝わらなかったり、説明過多になるのを避けたために充分な効果を上げられなかった部分もあります。

細かすぎた例を挙げると、最後の対決の場面で徳永麻子が拳銃自殺をしようとするところ。
実はこのシーン、作中で触れているグリップセフティという機構のある銃でないと成立しないんですね。普通の拳銃だと村上による陽動射撃で銃口が離れても、銃そのものを取り落とさない限りは真奈が踏み込む前に発射が間に合ってしまい、ブラジリアン・ハイ・キックを叩き込むチャンスは生まれないのです。
そのためにあのヘッケラー&コッホM7P8というドイツの拳銃を持たせたというわけですが……一人称でこんなことウダウダ書けませんよね。



Q3 腕に覚えのある人物がたくさん出てくる本作ですが、作者が最強と思われる人物は?(試合ではなく、ストリートファイトで)


作中の”主要”登場人物のランキングは以下のとおり。(その他の警察、元警察関係者は除外)

1 大沢隆之(空手)  2 村上恭吾(ボクシング)  3 熊谷幹夫(柔道)  4 榊原真奈(空手)
5 梅野浩二(空手)  6 三村美幸(空手)

ですが、最強は途中で作品から消えてしまった真奈の師匠、工藤師範代です。(なんだ、そりゃ?)




Q4 「こんなはずではなかった!」と思う部分がありましたら。


こんなに長い話になる予定ではありませんでした(笑)。
まあ、あとはQ3とも微妙に絡みますが、もっと格闘シーンやアクションを入れる予定が、思った以上に謎解きに時間と文章量をとられた関係で入れられなかったこと。おかげで真奈と大沢のリターン・マッチがやれなかった……。




Q5 書き終えて、自分にとってプラスになったと思うことがありましたら、こっそり教えてください必要以上に格闘技に詳しくなったとか、女子高生事情に異常に詳しくなったとか←プラス……?)


知識面ではそれほどの上積みはありませんが、何と言っても”女性の一人称にまったく違和感がなくなったこと”でしょうか。逆に男性一人称が書きづらくなるというマイナスもありますがね(トホホ)。



Q6 村上さんの今後が気になりますが、彼に幸せは訪れるのでしょうか?(個人的な質問……)


(書くかどうかは分かりませんが)私の脳内年表では、「砕ける」の2年後に起こる事件で彼に人生の転機がやってくることになっています(でないと”テネシー~”と整合がつかないので)。
そこでひょっとしたら幸せが訪れるかもしれません。まあ、逆にもっと不幸せになるかもしれませんが。



※文中の「テネシー~」とは「テネシー・ワルツ」という村上さん主役のハードボイルド小説。未完。しかしあの作中で彼は幸せそうなカンジではなかったので、転機は不幸にころがったかと思われます。←よけいなお世話




Q7 本作のような長編を完結させるために、書き手に必要なものは何であると思われますか?


熱意と根性……というと何だか格好いいのですが、実際は「自分自身が楽しむこと」ではないかと。楽しくないと続きませんし、自分が楽しめないものを他人が読んで楽しめるはずはないので。
また、こういう言い方が適切かどうかは分かりませんが、「自分には美しい文章や華麗な言い回しは書けない」と諦めてしまうことも重要です。実際、長編小説を全部、美文で埋めてしまうことは不可能ですし、仮にできても恐ろしく読みづらいものになること請け合いですから。シンプルな表現に徹すること。
それと(まだあるのか)毎日1行でもいいから書くこと。そうやって書いたものをずっと眺めていると、最初のうちは書いたものすべてがゴミに見えるのですが、そのうちに「悪くないかも……」と思える1行が見つかります。
どんなに長い小説も、その1行の積み重ねでしかないです。



Q8 最後に、次に書いてみたいテーマなどがありましたら、ちょっとだけ教えてください(ライトノベルちっくなホラーだとか、韓流的ラブストーリーだとか、興味のあるジャンルがありましたら)。


書いてみたら面白いかもなと思うのは、いわゆる剣と魔法の世界のお話ですね。特にアイデアがあるわけじゃないですけど、ハードボイルド・タッチで書かれたファンタジーというのが成立するのかどうかは、試してみたい気はします(でもストーリー考えるのが面倒……)
それと、「砕ける」にしても、それ以外にしても、私は語り手の視点を事件の外に置きたがる傾向があるので、事件が自分の身に降りかかるサスペンス色の強いものも挑戦してみたいです。
あとはそうですね……、冗談でも何でもなく、自分が書きたいものよりも「こういうのを読んでみたい」というリクエストに応えて書いてみたいですね。そういうチャレンジが自分の文章力を上げることに繋がるのは、今回の「砕ける月」が証明してますから。




……以上、スペシャル・インタビューでした。


なるほど、梅っちその位置かー!とか、真奈と大沢のリターン・マッチは見たかったなーとか、
あれこれ感想はありますが、お聞きしたかったことが分かって満足です!

と、ここで終わりたいところなのですが、Q7によい回答をいただいているので注目を。



>長編小説を全部、美文で埋めてしまうことは不可能ですし、仮にできても恐ろしく読みづらいものになる



これはまったく同感ですね。
物語とは文章というパーツによって構成されているわけで、この部品がいちいち自己主張するのもな~、読みにくいのですよ。決めの部分はかっこよく決めてもらいたいところですが、それ以外にまで完璧を求めなくてもよいのですよね。




最後になりますが、このような質問に快く応じてくださったえいみすさんに感謝を。
ありがとうございました!
あれこれコメントするつもりでいたのですが、回答が素晴らしいので読んだら満足してしまい……、特に補足する必要もないなーと、そのまま掲載させていただきました。

なかなか創作する方の内側に入っていく機会というのがありませんので、語っていただいて、大変勉強になりました。


(でもあのー、ハードボイルドタッチのファンタジーって、たとえばどういう……成立するのでしょうか。ああ、小道具が変わるだけかな。いや待てよ。だけって言ってもな……)