インパクト夕闇の中5万人引退式
12月25日 日刊スポーツ
大勢のファンの声援を受けながらゴールへ向かうディープインパクト |
感動の7冠達成から1時間20分。5万人の観衆が見守る中、ディープインパクトは午後4時50分、地下馬道から姿を現した。スポットライト、フラッシュの花。薄暗い闇に幾千もの光が宝石のように輝いた。
「ディープ、ありがとうー!」
「ユタカ!」
「ディープ、お疲れさま!」
スタンドの歓声に、武豊騎手は、ゆっくりと右手を上げて応えた。
競馬場で見せる最後の姿。インパクトは首を上下に揺らした。いつも、馬場入りする際に見せるしぐさ。「まだ走りたい-」。そう訴えているのか。実際、地 下馬道でまたがる際にてこずった。池江師、池江助手、市川厩務員が3人掛かりでなだめた。「引退したくないのかもしれないね」。興奮するインパクトを見て ほほ笑んだ豊は、インパクトの鼻にそっとキスをし、最後の騎乗へ。そして10分間、最後のインパクトの背中を味わった。愛馬から下りると、クラを外しポン と首をたたいた。
もうターフを走るインパクトの姿は見られない。「もっと見たい」。ファンの心は1つ。が、それはかなわぬ願い。ファンのほとばしる思いが詰まった引退式を熱い心で見終えた金子オーナーは、これまで明らかにしなかった引退の真相を口にした。
「3冠を取ったぐらいから、来年1年無事に走ったら引退させないといけない、と…。ホースマンとして無事に種馬にさせたいと思っていた。ワンマンオー ナーが勝手に引退を決めた、と言われたが、苦渋の決断だった。日本の競馬サークルにもっと重大な使命があると考えて決めた」。
薬物問題で失格となった凱旋門賞についても初めて口を開いた。
「あそこは我慢のしどころだと思った。これまでいいことがあったんだし、(ほかの)人のせいにしたらいかん、と。オーナーの不徳の致すところ、それをのみ込んでいこうと思った」。
まだ早い-、凱旋門賞のリベンジをするべき-。さまざまな声も聞こえてきた。が、オーナーは言う。「今の気持ちは、ふぬけになったような、悲しいような、寂しいような。でも、あと1年間走りを見守るには、私のハートは小さすぎた」。
インパクトが退場するとき、流れたのは小田和正の「言葉にできない」。
『あなたに会えて本当に良かった。うれしくて、うれしくて、言葉にできない』。
5万人の拍手。そして、その心を代弁する音楽に送られて、インパクトはターフを去った。