*この記事は棋譜および三村九段の解説記事、「幽玄の間」の王メイエン九段の解説を参考に記述しております。他のプロ棋士の方の解説などは参照しておりませんので、予めご了承ください。



どもです。


2局目もAlphaGoが勝ちましたね。

正直、思いのほか、感動しました。


俺は無神論者です。無神論というのは、特定の宗教観を持たないという意味ではなく、「神はいない」という宗教観ということですが。


囲碁は宇宙に例えられることが多いです。

変化が非常に大きく、人間では知覚しきれないほどの情報量を秘めているから、というのが論拠である場合が多いのですが、単純にロマンを言い表していることもあるかな?

宇宙と神を同一的に見る考え方も、一般的というほどではないかもしれませんが、聞いたことがあります。


今、プロ棋士をはじめ、囲碁というものに情熱を持っている人たちにとって、イ・セドルという人は、囲碁に関しては限りなく神に近づいている求道者で、大げさにいえば「神の代弁者」とすら言えます。

そのイ・セドルが敗北したということは、多かれ少なかれ、囲碁を知る人にとって「信奉する神を殺された」程度の衝撃を与えていると思います。

茫然、自失。


今まで神だと思っていた何かがそうではなかった、というのは、なかなか受け入れることに時間が必要です。

ただ、考えようによってはチャンス。一歩奥の深淵をのぞきこめるかもしれません。

AIが囲碁の神性を偶像化したとするなら、もう一度鍛えなおして、殺しに行けばいい。

「バベルの塔」の逸話のような、傲慢な考え方でしょうか?


無神論者である俺が神さまを語るのは矛盾していますし、哲学なるものを何も学んだことがないのでてきとーですが、あえてニーチェの言葉を借りましょう。神は死んだ、と。


・・・・・・

なーんちゃって、妄想しちゃったよー。うひょひょーい。



棋譜は以下をご参照ください。

http://gokifu.net/t.php?s=8961457611562006


黒 : AlphaGo

白 : イ・セドル


まず、黒3の左上隅小目。なんの変哲もない手です、が。


人間同士の慣例に従えば、この手は右下隅に打ちます。

黒1の右上隅星に対し、白2の左下隅星は完全に対角線で対称なので、左上と右下に差はまったくない。

慣例というものを人間が知っている以上、それを外す黒3という着手は打った人間も、打たれた人間も、ほんのわずかな神経のささくれができると思います。ただ、それはイーブンの話。

これを打ってきたのがAlphaGoだから、ほんのわずかでも神経がささくれたのは、イ・セドルだけ。

AlphaGoは間違いなく意図していないのに、にわかに心理戦の様相を見てしまうのは、人間の性でしょうか。


黒13は全局的に見れば、ほとんど見たことがない布石。


図1(右下の交換をしないなら、見たことのあるタイミング)


図2(実戦の派生図。右下の手抜きを咎める)


図3(図1の派生図。図2と同じ場所に白がはさんだら、黒は違う手を選ぶはず)


図2の展開となるリスクが黒にはあるので、これまでの常識に照らすと違和感があります。

ただ、本当に悪いのかというと、一概には言えない。。。


白14は選択肢が多いところでしたが、まずは左辺を割りました。


これに対し、黒15もちょっとした驚き。

でもさすがに、ちょっとネガティブかなぁ。

Twitterでは「予言:黒15のノゾキ、後にシチョウアタリとなって高評価となる。」などとつぶやいてみましたが、見事に外れました。

でも、けっこうこういう形を決める手は、俺は好きです。


黒17から白28までは定石の進行。

部分的には、俺は黒が好きなんですよね。黒9、23の石が働きを失いきっていないので。


黒29は、ある程度の棋力がある人にとっては自然の手。一般的な定石からは、位置関係がずれているのですが。


図4(定石の場所だが・・・)

この局面では、以下2点の理由により不適切です。

・左辺の白は比較的強く、厚みと言ってよい。厚みに近寄るのは相対的に黒が薄く、近づかない方が良い。

・下辺は黒地、白地のいずれも大きくなる余地がほとんどなく、広く開いて隙を残すより、狭く開いて確実に根拠を確保する方が良い。


白32に対して、黒33のコスミツケは、これも一般的な常識では悪手に分類されますが、この局面ではありうる手。

というのは、前述の黒15、白16の交換は、右下の黒を強化する代わりに右辺の白の発言力が強化される、トレードオフの関係です。

したがって、黒15を打つ時点で右辺は白の勢力圏とみなしており、右辺に打ち込んでいくようなイメージは黒は持っていない。

それなら、黒33のようにコスミツケて、白を右辺に偏重させ、石の効率を下げるように黒が画策するのは理にかなっています。


さらに、この流れを踏襲するかのように黒37とカタツキ(?)をしたのがかなりびっくりの作戦。

白40までしっかり受けて、上辺の黒模様がやや削減されてしまい、冷静にみると悪手に見えますが・・・。


黒41に対して、白42と抵抗しましたが、これで黙って以下のように受けていて良かったのでは。


図5(冷静に受けておいて不満なし?)

というのは、実戦の進行、白が悪くないという評価がほとんどで、俺も第一印象はそのとおりでした。


図6(実戦図。白62まで)

これ、手割(*)という考え方を使うと、黒悪くないんじゃない?という・・・。

* 複雑な局面を簡素化し、評価しやすくする手法。


図7(手割の考え方を適用)

この局面で手割を適用するのはちょっと乱暴なんですけど、もしこの図7だけ見ると、黒がメチャクチャ白を利かしているんですね。

まぁ、とっぱらってしまった双方の石たちは、厳密に言えば白が得をしているので、この黒にとって都合の良すぎる図7よりは優劣の差は詰まっています。

ただ、第一印象の「この流れは白が間違いなくいいだろう」というのは、ひょっとするとミスリードではないか?という考え方です。

・・・ちょっと乱暴かな。論破されそうだな、これは。


白64と白70~72が、後の評価を見る限り、あまりにすましすぎていたのかな、と思います。

リアルタイムで見ているときは、イ・セドルの剛腕がさく裂する気配を感じていたのですが・・・。


白80の打ち込みに対して、黒81がまったく気が付かない応手。

一見して、少し戦線離脱をしているように見えたのですが、実は大きく攻めているといえるのか・・・?

これ、今のところ俺には真意がはっきり理解できていません。


白80以降の戦い、相当に複雑な変化、読みのせめぎ合いがあると思え、俺の棋力で詳細を説明するのは難しいので、他のプロ棋士の方の記事等に譲ります。


1点だけ。

1局目、2局目ともに、大きなコウ争いというものが発生していない、という議論があるようです。

モンテカルロ手法を採用しているAIの弱点として「長手数で一本道の攻め合い、シチョウ等が正確に読めない」や「コウ争いで損をする」などの負の特徴があり、これらがAlphaGoも特徴として持ち続けているのか、棋譜からは判然としません。(理論上は、持ち続けているはず)


図8(非勢のイ・セドルがコウを仕掛けるチャンスだった・・・?)

本記事で説明を割愛した白80以降の折衝は、世界のトッププロに引けを取らない読みの深さと形勢判断力を兼ね備えていることを証明しているようです。

本物の有識者たちの研究結果を待ちたいと思います。


3局目は1日はさんで、土曜日ですね。

広島にイベント対応で行っているので、当日中の更新は難しいと思いますが、Twitterでいろいろつぶやければ。(公開対局の記録係をしてるけど・・・)


カド番に臨む、イ・セドルの姿勢、表情が一番の関心事かも。




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