潤side―
「ねぇ…」
『ん…?』
とあるホテルの一室。
彩を後ろから抱きしめながら窓の外を眺めている俺。
今夜のワインはいつになく甘く感じる。
そんなに飲んでないはずだけど…もう酔ってんのかな?フフ
「潤くんは…何で私を選んだの…?」
『何、急にどうした?フフ』
「聞きたいの♪だって結婚記念日だもん。潤くんは聞いたって結局いつもはぐはかすんだから。」
『そうだっけ?フフ』
「そうだよ。」
何で…ねぇ?
初めての結婚記念日。
ベタだけど、いつかの記念日にも来たことのあるこのホテルで彩と向き合い乾杯をした。
派手なことも何も無いけど、今日のこの日をこうして二人で過ごせる幸せを噛み締めていたんだ。
「今でも不思議なの。潤くんとあの日同じ舞台を観に行かなきゃ出逢わなかったんだもん。」
『そうねぇ…フフ』
「潤くんの周りにはいつも綺麗な女の人がいっぱいいるから…今だって素敵な女優さんたちに囲まれて毎日楽しそうだし…」
『そう…?フフ』
「潤くんが私を見付けてくれなかったら…今頃私はどうしていたんだろうなぁ…?」
高層階から眺める夜景。
窓には俺たちの影も映っている。
今の俺たちは…ちゃんと幸せな顔してるだろうか?
『彩はだんだんとママの顔になってきたかもな…フフ』
「そうかな?潤くんは…?」
『俺もちゃんと父親の顔してんのかな…?まだ自信ねーな…フフ』
ゆっくりと少しずつ進んで来た俺ら。
ホント、色々あったよな…フフ
『改めて…結婚記念日おめでとう。一年間ありがとな。フフ』
「うん♪二年目もよろしくお願いします。フフ」
『こちらこそ。フフ』
上手く言葉で説明出来たならどんなにいいだろう。
いや、仮に上手く言葉で説明出来たとしても恥ずかしくて言えねーけど///
彩を選んだ理由…
あの時の俺は…
『やっぱ恥ずかしくて無理だわ。フフ』
「ん?なに…っ…ン!」
照れ隠しに彩にキスをしたんだ。
ひいろが女の子だと聞かされた。
そっか、女の子かぁ。
男でも女でも元気に生まれてくれればどちらでもいいって思ってたけど…
『女の子かぁ…フフ』
自分の顔が緩んでいくのがわかる。
またまーにニヤニヤしてるって突っ込まれそうだな。フフ
臨月近い彩の腹。
ぺたんこな状態からどんどん大きくなっていくのを見てきた。
ずっと前に彩に「気持ち悪くない?」って聞かれたっけ。
世の中の男がどうかはわからないけど、少なくとも俺はそんな風には思わないよ。
腹が大きくて時々無意識に「よっこいしょ!」って言う彩を可愛いと思う。
一緒に風呂に入るのも妊娠前と何も変わらず。
俺は彩という人間そのものが好きだから…
なんてな。フフ
1年前の今日、俺らは婚姻届を提出した。
正真正銘の夫婦だよ?
でもこれは世間には知られてはいけないもので…これからもずっと隠すって…きっと彩が抱えたその負担は物凄く大きい。
俺らが選んだ道は簡単じゃない。
1年…また1年と…積み重ねていくしかないんだ。
俺の隣でぐっすりと眠る彩。
『ごめんな…』
寝顔にそう呟いた。
でも彩となら大丈夫。
だって俺が認めた女だから…
って…どっかで聞いたセリフだな。フフ