・ギリシャの憂鬱 | 矢口新の生き残りのディーリング

・ギリシャの憂鬱


憂鬱なのは、ギリシャにとってだけではない、ユーロ諸国にとっても、IMFにとっても、また、ユーロ建てで投資をしている世界中の人々にとって、ギリシャ問題はユーウツな話だ。それで、主語をどうとでも取れる「ギリシャの憂鬱」をタイトルにした。


「当面の危機を乗り越えればギリシャは強くなる。ユーロは強くなる」という見方があるが、私はそうは思わない。ともあれ、それもこれも相場観だ。私は皆さまに私が把握しているところのものを提供する。それをどう捉えるかは、皆さまの相場観だ。



・ヘッジファンド


米司法省は2月26日付で送付した書簡で、SACキャピタル・アドバイザーズLP、グリーンライト・キャピタル、ソロス・ファンド・マネジメントLLC、ポールソン・アンド・カンパニーなどのヘッジファンドに対し、ユーロに関する取引記録や電子メールなどすべての書類を保管するよう求めた。


IMMの通貨先物の建玉では、10年来の水準のポンドショート(ドルロング)以上の、ユーロショート(ドルロング)がある。当局は昨年暮れの1.51台から、1.35割れまで下落したユーロ・ドルの動きを、ヘッジファンドなどによる「いわれのなき投機」と見ているのだろうか? ギリシャの政府当局者の中には、格付け機関と投機筋を、ギリシャ問題の主因だと述べる者がいる。


そういった当局の牽制を嫌気しての買い戻し、あるいは、ギリシャ国債の入札に見られる、目先の問題が一息ついたことによる買い戻しで、ユーロが反発することは十分に予想されるが、私にはそれが「ギリシャが強くなる」、「ユーロが強くなる」意味だとはどうも思えないのだ。



ギリシャ問題は、2009年末に突然降ってわいたものではない。


アメリカの大手ヘッジファンドは、ギリシャ国債の10年満期CDSが、まだ二束三文の安値であった2009年の春先から、大量に買い始めていた。いずれ市場がギリシャの債務の大きさに注目し始めれば、欧米の銀行を中心に3,000億ドル保有されているといわれる、ギリシャ国債のヘッジにCDSが買われると見込んだからだ。


CDS(Credit Default Swap)とは、債券が債務不履行に至れば満額を受け取れる保険のようなもので、破綻の可能性が高まるほどに値上がりするものだ。


ギリシャ国債の格付けが下がり、価格の下落が見込まれれば、債券の保有者は何らかの形のヘッジを強いられる。あるいは、ヘッジを行う代わりにギリシャ国債が売り込まれる。


ヘッジでCDSが買われれば値上がりする。また、ヘッジをせずに債券を売り払えば、価格が安く、利回りが高くなったギリシャ国債を購入すればいい。潰れるまでは高利回りを享受でき、潰れればCDSという名の保険金が支払われる。潰れなければ、安く購入したギリシャ国債への投資は額面の100%で償還される宝物となる。


現実に起きたのは、銀行がパニック的にCDSを買い始めたことだ。ヘッジファンドは安く買ったCDSを高値で売り抜け、大儲けをした。


CDSを買ったのは、銀行で自ら収益を追求するプロップ・デスクではない。CVA(Credit Valuation Adjustment)デスクと呼ばれる、ポートフォリオのリスク管理部門だ。


CDSの値上がりで注目されたギリシャ危機は、ヘッジファンドが高値に買い上げて起こしたものではない。むしろ、もしヘッジファンドがCDSの売り手とならなければ、リスクヘッジに走るCVAデスクは、どんな高値ででもCDSを買ったことだろう。




・粉飾に継ぐ粉飾


ユーロは1999年に11カ国で発足し、18カ月遅れて、ギリシャが加わった。ユーロ参加国には、政府の債務総額がGDPの60%以内、財政赤字がGDPの3%以内という安定協定(Stability Pact)という名のルールがあったが、出来るだけ多くの参加国で発足したいとの意向から、当初からそのルールは拡大解釈、あるいは、ないがしろにされてきた。


1999年に発足するために、ルールには1997年の数値が採用された。財政赤字がGDPの3%以内というルールでは、11カ国がその時点でクリアしたが、スペイン、フランス、ポルトガルの3カ国が、後になって、1997年の数値を3%以上に上昇修正した。フランスなどは、10年後の2007年になって、当時の赤字は3.3%だったと修正した。


イタリアやベルギーの債務上限は参加時点から守られていない。例えばベルギーの債務は、1995年の時点でGDPの131%あったが、「減少する方向」だということで受け入れられた。また、ユーロ圏全体の債務がGDPの60%を下回ったことは一度もない。


どの国にとっても債務の削減は困難なので、こちらの限度枠は大目に見て、ユーロ諸国は単年度の財政赤字限度枠の厳守に動いた。そして、そのことが各国政府を単発的な財源確保に急がせた。多くの国は携帯電話の電波枠を売却することで歳入を増やした。また、フランスは民営化されるフランス・テレコムの年金債務から逃れることで、50億ユーロを捻出した。また、保有資産を再評価した国もある。



ギリシャの財政赤字は1997年の時点で4.0%だった。しかし、1998年の数値が改善していたとされたことで、ユーロ諸国はギリシャの参加を認めた。1998年のギリシャの財政赤字は2.5%だとされ、1999年は1.9%になるとの見通しが立てられ、ギリシャは財政赤字限度枠を満たしたとして、ユーロへの参加が承認された。


ところが、ユーロ統計局(Eurostat)の調べで、ギリシャが国防費をほとんど計上せず、税収を多めに見積もっていることが発覚した。さらには、国営医療・社会保障費のコストは記録にさえ残さず、ユーロ政府による民間機関への助成金を政府の歳入と計上することなどにより、社会保障費の黒字化を図ってきたことが明らかになった。


また、ギリシャは2001年にゴールドマンサックスと結んだ通貨スワップで、その年の財政赤字をGDPの0.1%分少なく見せることに成功した。


以上のような手段を講じても、ギリシャが公式発表の財政赤字をGDPの3%以下に押さえこめたのは2006年だけで、債務総額は常にGDP比80%を上回っている。


また、ギリシャは1997年以来、毎年例外なく過去の財政赤字の数値を上方修正してきた。確定値が速報値の3、4倍になったのも、1度や2度ではない。


2009年暮れに発表された、2009年の財政赤字予測が、当初のGDP比3.7%から12.7%に引き上げられたことが、今回のギリシャ危機の引き金となった。このことは、政権交代による見直しだと説明されたが、他の例では、18カ月前の報告時に260億ユーロだった赤字が、880億ユーロだったと判明したものもある。



とはいえ、財政赤字限度枠が守れなかったのはギリシャだけではない。フランスとドイツは、2002年、2003年、2004年と、3%枠を超えた。2003年はオランダとイタリアが超えた。初期の12カ国中、財政赤字限度枠を一度も超えなかったのは、ベルギー、ルクセンブルグ、フィンランドの3カ国だけだ。そして、2005年からは、景気後退時には、財政赤字枠を超えることが容認されるようになった。


債務枠に関しては、ほとんどの国が守れていない。




・再生案


ギリシャの2009年のGDPは2,463億ユーロ。財政赤字は313億ユーロで、GDPの12.7%を占める。これを歳出削減と増税で、2010年には8.7%に、そして、2012年までにユーロ規約の制限の3%以内に収める計画だ。


主な歳出削減は、賃金や社会保障費、公務員年金などの1年間の凍結、公的部門労働者が取得してきた2カ月分のボーナスの30%カットなどだ。歳入増では、付加価値税の2%の増税と、タバコ、酒類、ガソリンに対する段階的課税などを発表した。



ギリシャのパパンドレウ首相は、ギリシャはやれることの限りを尽くしたとし、最終的な支援はIMFに仰ぐとしながら、ユーロ政府に支援を求めた。


トリシェ欧州中銀総裁は、欧州の問題は欧州で解決すると語った。


ほとんどのユーロ圏諸国の政府は、ギリシャ問題をIMFに頼らず、ユーロ圏内で解決したいと望んでいるとの観測がある。


例えば、フランスでは、IMFのドミニク・シュトラウスカーン(Dominique Strauss-Kahn)長官が、ニコラス・サルコジ大統領にとって有力な政治的ライバルであることから、2012年のフランス大統領選挙を前に、IMFに活躍の場を与えたくないと望んでいるという。



オリンピックではないが、通常、イベントは国としての団結を促し、政権を執る者に有利に働く。少なくとも、イベントをそのように利用する政府も多い。


ギリシャ問題は負のイベントだが、それでも、欧州各国の政府は転んでもただでは起きないように動いている。そのことを知るギリシャは、IMFカードを使って、ユーロ諸国の支援を引き出している。


先週、ユーロ政府はギリシャの資金繰りの緊急時に備えて、250億ユーロの支援金拠出を表明した。



そして、ギリシャ政府は4日、ユーロ建て10年物国債の入札を実施し、50億ユーロの資金調達に成功した。同国政府は前日に増税など追加的な財政再建策を発表、ユーロ政府の評価も得た。


応札額が160億ユーロを上回ったことで、発行利回りは、一時流通市場で7%まではねあがっていた水準を大きく下回り、既発債に0.32%上乗せの6.25%となった。


4月、5月には、230億ユーロの債務が期限を迎えるが、250億ユーロの支援金が明らかなこともあり、無事に借換えを済ませるものと思われる。ちなみに、ギリシャは2010年に530億ユーロの債券発行を行う必要があるようだ。




・恐い、広域通貨


2010年相場展望(http://ameblo.jp/dealersweb-inc/entry-10422313277.html )でも述べたが、ユーロは構造的な問題を抱えている。


1つの金融政策で、多民族、多言語、多財政、多社会保障などなどの地域をカバーするのは土台無理な話なのだ。ギリシャが自国通貨と金融政策を維持していたなら、おそらく通貨が3分の1や4分の1になることで、輸出が増え、観光客が殺到し、それほど時間をかけなくても立ち直ることができただろう。


これまで、私はユーロは時間の問題で破綻すると、発足前から言い続けてきたが、ギリシャの粉飾に継ぐ粉飾を見ていると、本当に「発足前から破綻していた」といえる。


今回の再生案で、ギリシャの財政赤字が、2012年までにユーロ規約の制限の3%以内に収まると、本気で信じる人がいるのだろうか?


恐いのは、おそらくギリシャだけではないことだ。ユーロ諸国は無理に無理を重ねている。スペイン、ポルトガル、イタリアなども同様の問題を抱えており、今後、様々な数値の上方修正があっても驚かない。



ドイツのブリューデレ経済技術相は5日、ドイツ政府はギリシャ支援に「1セントも」拠出するつもりはないと言い、ドイツの与党議員は、「エーゲ海の島々を売ればいい」と語った。



日本の2007年の政府債務残高はGDPの187.7%ある。G20で最悪水準だ。2010年の日本の可処分所得に占める家計貯蓄率は、前年比0.2%減って2.6%となる見通しだ。主要24カ国中23位となる。ちなみに、1992年は14.6%だった。


そんな日本が、広域通貨を主導するなど、とんでもない話だ。日本は島国だ。いざとなれば、尖閣諸島、竹島、千島列島などの領有権を放棄すればいいというのだろうか?





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