暗いトンネルの先に見えたものは 6
暗いトンネルの先に見えたものは 5 からの続きです。
あの真っ赤な血は未だに脳裏に焼きついている。
人というのは面白いもので、受け入れ難い現実に直面すると笑えてくる。
「あはは・・・
いや、きっと気のせい。気のせい。」
気のせいじゃない。
頭では分かっていても素直に受け入れることが出来なかった。
翌日同じ病院へ行った私と夫は、その場で「入院」を言い渡された。
相変わらず続く腹痛と高熱。
頭痛や関節痛まで出てきた体は、
病衣を着てベットに横たわったとたんに「病人」と化していた。
治療を受けても一向に良くならない。
時を関係なくして襲ってくる腹痛によって眠ることが出来ず、体力が消耗し続ける。
医師から「脱水症状になりかけてるから水分だけはとって」と言われていたが
口から摂ったものがそのまま出てしまうような状態だった為、
怖くて飲むことが出来なかった。
「ゆず!あんたどうしたの!?」
「ゆずちゃん大丈夫かい!?」
夫からの連絡を受けて母と義父母がやってきた。
母と義父母が会ったのは結婚式以来。
久しぶりに会った義父母に対し挨拶もろくにしない母にイライラしながらも
忙しい合間をぬって駆けつけてくれたことに感謝する。
「原因は?医者は何て言っていたの?○○さん。」
「それが・・・まだ検査をしてないから何とも・・・。」
「ゆず・・・あんたは体が弱いからね~。
大したことがなければいいんだけれど・・・・。」
母は時間を見つけては見舞いに来るようになった。
「ゆず、お風呂は許可されてるの?」
「無理だよ。絶食でずーっと点滴だもの。
体拭いてもらってるよ。」
「毎日?」
「いや、曜日が決まってるから。
自分で届くところはやるけど・・・。」
「早くいいなさいよ!こんな暑い日が続いてるのに気持ち悪いでしょ?
石鹸は?タオルは?」
「あー・・・。」
「いいわいいわ。お母さん買って来るね!」
母は買ってきたタオルと石鹸を使い、私の背中を丁寧に拭いた。
「こうやって世話するのも何年ぶりだろうねぇ・・・
ゆずは本当に体が弱いから入院ばかり。お母さんのせいだね。」
「お母さんのせい・・・・とは?」
「弱い体に生んでしまったこと。心配ばかりかけたこと。
でももう心配することはないんだから。だから安心して療養しなさい。」
「・・・・うん。ありがとう。気持ち良かったよ。」
「こういうことは親の方が頼み易いでしょ?」
「だね。あ、さっきの買い物のお金・・・・。」
「何言ってるの!いらないよ!」
「だって・・・大丈夫なの?」
「2千円やそこらのお金くらい、お母さん持ってるわよ。
今は親戚からの借金だけなんだから。」
「だけど・・・。」
「あんた・・・本当に心配症だね。
そんなんじゃ何時まで経っても治らないよ。ね?」
「うん・・・じゃあ払わないからね。」
以前の母だったら財布に2千円も入ってなかっただろう。
買い物を頼んでも先にお金を渡さないと買ってこれないような状況だったのに。
大丈夫だ。
お母さんは大丈夫だ。
このことを夫に話すと
「お母さんがお金を受け取らなかったのか・・・・。
本当に立ち直ってくれたのかもしれないな。」
「うん。断るなんて今まで無かったからね。
なんだか安心したよ。」
「あとはお前が元気になるだけだよ、ゆず。」
「なんだかお腹がすいてきちゃったかも。」
笑顔の私達の元へ険しい顔をした担当医師がやって来た。
「あっ、旦那さんもいましたか。
検査の結果なんですが・・・・・
どうやら難病の可能性があるんです。詳しい話はまた後日しますので。」