再会の果て 9
再会の果て 8 からの続きです。
彼の両親と彼抜きで会うのは初めてだった。
彼の実家が近づくと共に心臓の鼓動が早くなる。
ハンドルを握る手には緊張からか汗がにじんでいた。
「いらっしゃい。あら?○○(彼の名前)は?」
「あ・・・今日は私だけです。彼抜きで話をしたくて。」
訪問することを伝えてはいたが、私だけだということを言わなかった為
出迎えた彼の母は明らかに動揺していた。
「いらっしゃいゆずさん。・・・・○○は?どうした?」
「それが・・ゆずさんだけで来たんですって。」
「・・・・・・・ま、どうぞ。どうぞ。」
私の思いつめた顔を見て、彼の父も何かを察したようだった。
淹れてもらったコーヒーを震える手で一口すする。
喉を通るコーヒーがやけに苦く感じた。
「最近めっきり寒くなってきたわね~。○○やゆずさん、風邪ひいたりしてない?」
「はい・・・・おじさまやおばさまは?」
「俺らはもう年だからなぁ。気をつけないとすぐ病院行きだ。ははは。」
「・・・・・・・・・・。」
すぐにとぎれる会話。
いきなり一人で来た私に、彼の両親も何を話してよいのか分からなかったのだろう。
結婚は決まっていたものの、私との接点はあまりなかったのだから。
「・・・・あのっ。」
「うん?」
「今日は・・・今日はですね・・・お話があって伺いました。」
「何かしら?」
泣いてはいけない。
決して泣かずに話を済ませようとあれだけ思っていたのに・・・
次の瞬間からは涙声になっていた。
「わ、私は・・・・お二人に謝らなければならないんです。。。
本当に本当にっ・・・申し訳ないです。すみませんっ・・・・。」
「ど、どうしたのゆずさん!?」
「何があったんだ?」
「・・・・・母がお二人を裏切ったんです。
パチンコを辞めた、借金はきちんと返しているというのは嘘で・・・
新たに借金を作っていました。」
「ええっ!?でも借金は借りられなくしたって・・・。」
「・・・つまり、そういう人でも借りられるような所にってことか?」
体がビクッとした。
そして私は・・・こくんと頷くと再び息を整えながら話を続ける。
「そうです・・。良くない所から借金をしているんです。
どうやらそれは、最近の話ではなさそうで・・・。」
「お母さんは?何て言ってるんだ?」
「母とは話していません。」
「じゃあどうして・・・・。」
「私の携帯に借金取りから電話がありました。
金を返せ。返さなかったら母の勤め先へ乗り込むぞ。と・・・。」
「・・・・・・・・・。」
「母はお金を借りる為に・・・・わ、私や・・・妹の携帯番号・勤め先、
親戚の住所などをすべて相手に教えました。
いつ私達のところへ電話がくるかわかりません。
私は・・・・母が、母が許せません。
自分の道楽の為に、皆を巻き込む母が・・・・。」
沈黙が続く。
淹れてもらったコーヒーの波紋も、もう消えていた。
「○○さんやお二人にもご迷惑をかけることになるかもしれません。
いや・・・現時点ですでにもうかけてますね。。
本当に・・・申し訳ありません。
母のっ・・・母のせいで・・・・。」
「ゆずさん。」
「はい。」
「迷惑なんかかかってないよ。」
「・・・・・かけてるじゃないですか。
結婚を祝福して頂いたのに私は裏切ったんです。」
「ゆずさんじゃない。お母さんだろ?」
「でも私の母です。このまま結婚なんて出来ませ・・・・」
「ゆずさん!ゆずさんの気持ちはどうなんだ!?
○○とはもう、結婚したくないのか?」
「私の気持ちとかの問題じゃ・・・。」
「○○はどう言ってるの?」
「○○さんは・・・・一緒に乗り越えようと言ってくれました。」
「なら・・・・それでいいじゃないか。」
「でもっ!」
「結婚は本人達の気持ちが一番大事なんだよ。
ゆずさんも○○も、お互いを思う気持ちは変わらないんだろう?
それならいいんだ。俺達は・・自分の子供が幸せになることが一番なんだから。」
「・・・・・・・っ。」
「結婚したいと思う気持ちは変わらないんだろう?」
「・・・・はい。」
「なら気にするな。これからの事は、皆で乗り越えればいいじゃないか。」
「おじさま・・・・。」
涙で・・・前がよく見えなくなっていた。
これは夢ではないだろうか。
私の頬をつたう涙は・・・悲しみの涙になるはずだったのに。
心が・・温かいものでいっぱいになる。
私の冷たくなった手を、さすりながら彼の母は言った。
「貴方・・・ここまでどんな想いで一人で来たの?
辛かったでしょう。心細かったでしょう・・・・。
こんな想いをさせて・・・お母様も早く立ち直って欲しいわね。
本当に・・・私までせつなくなるわ。。。。」
「わ、私・・・・。」
温かい手。
こらえていたものがあふれ出す。
大声をあげて泣いた。
一緒に泣いてくれる人がいる。
一緒に辛さを分かち合う人がいる。
私はもう、ひとりじゃないんだ―
帰宅した私を彼は満面の笑みで迎えた。
彼の言うとおりだった。
「貴方のご両親はすごい人ね。羨ましいわ。」
「・・・ゆずの親にもなるんだよ?」
嬉しくてまた涙が溢れた。
ああ、私は世界一の味方がついたかもしれない。
神様は私を見放してはいなかったのだ、と。
そして母との話合いが始まろうとしていた。