再会の果て 8 | 脱!マイナス思考。~私の母はパチンコ依存症~

再会の果て 8

再会の果て 7 からの続きです。





「話があるの。」


「なんだ?改まって。」






なかなか口には出せない。


この話は別れ話になるのだから。


沈黙が続く。


彼はその間に何かを悟ったようだった。




「・・・・昨日携帯に、借金取りから電話がきたの。」


「はぁ!?借金取り!?でも・・お母さんはもう・・。」


「ブラックリストに載っていても借りられるところから借りてるみたいで・・。」


「マジかよ・・・それって良くないところってことだろ。」


「うん・・・返さないなら家や会社に乗り込むって言ってた。」


「・・・で?お母さんには何て?」


「何も言ってないよ、伯父さんには相談したけど。

来週の日曜に親戚で集まってお母さんを問い詰めるよ。」


「・・・俺もその集まりに行くよ。」


「ええ!?何言ってるの?」


「俺も行く。お母さんに一言言わないと気が済まない。」


「・・・・騙したことになるからね・・貴方を。」








結婚申し込みの挨拶の時、彼は母にこう言っていた。




「僕はゆずさんを幸せにします。それは約束します。

だからお母さん、貴方も僕達を裏切らないと約束してください。

もう借金はしない。パチンコはしないと。」





この言葉に涙を流しながら頷いた母。

が、この時点ですでに「闇金」から借金をしていたかも知れないのだ。


腹立たしいだろう。

彼の言い分ももっともだった。


あまりの急展開でバタバタしていた私も・・

彼と話すことで母への憎しみが湧いてくる。




「貴方の気持ちも分かるけど・・でも親戚だけで集まるから。」


「俺だって家族だろ?違うか?」


「・・・・結婚・・出来るわけがないじゃない。」


「なんで?」


「なんでって・・・・結婚は私達だけの問題じゃない。

貴方の両親、親戚も巻き込むものなのよ。

私の親のせいで、貴方や貴方の両親に迷惑がかかるかもしれない。」


「俺はゆずのお母さんが借金を抱えてることを知った上でプロポーズしたんだよ?」


「それはお母さんが一生懸命頑張って借金を返しているという話の時でしょ!

結局お母さんは・・・私どころか・・貴方や貴方の両親まで裏切って・・・

影でコソコソ借金を増やしていたことになるんだから!」


「そうだけど・・・じゃあゆずはどうするんだよ!?」


「どうするんだろうね・・とりあえず会社の退職願出しちゃってるし・・

分からないや、ははは。」


「俺は別れる気はないよ。」


「・・・・・どうしてよ。。どうしてそういうこと言うのよ。。

ダメなものはダメなの。結婚出来るわけないの!」


「俺の親が反対すると思ってるのか?」


「当たり前じゃない。どこの世界に「闇金」から狙われてる家族と親戚になろうとする

人がいるのよ。息子の幸せを願う親なら反対するに決まってるでしょ!」


「ゆず・・・俺の親はそんな親じゃないよ。」










正直この時、彼のことを「あまい」と思った。


好きだの愛してるだのだけでは結婚は出来ない。


そんな危険な状況になっている女を嫁にして迎えるわけがないだろうと。




「とりあえず・・親にはまだこの話を伏せておくから

親戚の集まり、参加させてくれ。」


「どういうこと?」


「何かいい案が浮かぶかもしれない。まだ何とかなるかもしれない。

そしたら・・別れる理由も無くなるだろう?」


「貴方の両親を騙すことになるじゃない。」


「解決した後に言えばいい。違うか?」


「・・・それじゃ私まで貴方の両親を騙しているような気がする。」


「えっ?」


「両家の顔合わせの時・・母は言ったわ。

「もうパチンコはしません。借金も完済します」と。

普通ならその時点で関わりたくないと思う人もいるだろうに・・・

貴方の両親はそれを全部引き受けてくれた。理解してくれた。」


「そうだよ。」


「でも母は裏切った。」


「・・・・・・・・・・・。」


「私はすべてのことを話した上で結婚するなり、別れるなりしたい。

母がこんなことをしたからこそ、余計に。」


「・・・・分かった。じゃあ一緒に実家へ行こう。」


「いや、一人で行く。貴方は来なくていい。」


「どうして?」


「ご両親だって・・貴方の前じゃ言いにくいことだってあると思うの。

一緒に言って話した時は理解してくれても、後からやっぱり・・ってことだってあると思う。

私、1人で全てを話してくる。それがせめてもの誠意だと思うから。」


「・・・・・・・・・・・・・。」






本当は・・怖くて怖くてたまらない。

彼が横にいてくれたらどんなに気が楽だろう。


母がしでかしたことを・・1人で説明するなんて。

責められるだろうか。ののしられるだろうか。


私はどんな言葉で詫びれば良いのだろうか。





「分かった。1人で行ってこい。」


「うん。ありがとう。」


「でもな、これだけは言っておく。

俺の両親はこんなことでガタガタいう人間じゃない。

だから・・きっと分かってくれるはずだ。」


「・・・・・・・・・・・。」






そして―


彼の実家へ車を走らせる私がいた。



つづく。