再会の果て 1
妹との共同生活。
顔を合わせばケンカばかりの毎日にうんざりしていたある日。
「お姉ちゃん・・。病院、連れてって・・」
風邪のような微熱・倦怠感が2週間以上も続き、会社を1週間も休んでいた妹。
病院嫌いの妹がこんなことを言うなんて・・よほど具合が悪かったのだろう。
日曜日だった為、当番医となる病院へ2人で行った。
「黄疸が出始めてますね。すぐ、入院して下さい。」
医師の言葉に私達は驚いた。
「た、ただの風邪じゃないんですか?」
「詳しくは検査をしてみないと・・
体がかなり衰弱してますので。ご両親はご一緒ですか?」
「・・いえ。私だけです。」
「ではご両親に連絡してください。入院の手続きをしますので。」
「・・・・・・・・・・。」
両親じゃなきゃダメなのだろうか。
いっそ「両親は他界しました」とでも嘘をつこうか。
私は突然の出来事に動揺した。
「お姉ちゃん・・。」
病院に掛かったことなど今までほとんど無かった妹は不安がっていた。
「分かりました。連絡してきます。」
病院のロビーから懐かしい電話番号を押す。
呼び出し音が鳴ると同時に私の胸の鼓動が早くなるのが分かる。
「・・はい?」
9ヶ月以上聞くことの無かった母の声はどこか怯えていた。
「・・もしもし?お母さん?」
私の声を聞いた瞬間、母親の勘とでもいうのだろうか。
「どうしたの?何かあったの!?」
こう言ったのだ。私は母が卒倒でもしたら大変だと、妹のことをゆっくり話した。
「今から行く。場所は何処?」
「仕事は?終わってからでいいから迎えに行くよ。」
「自分の子供が大変な時に仕事なんて行ってられないでしょ!
場所は?すぐ行くから!」
「落ち着いて!お金無いんでしょ?
車で迎えに行くから。ね?無駄にお金を使わないでよ。」
この慌てぶりじゃ、母の方が心配だ。
私は実家まで母を迎えに行った。
久しぶりに逢った母は・・細かった体が更に痩せ、骨と皮のような状態だった。
髪はボサボサで血色も決して良いとは言えない。
この逢わなかった9ヶ月間の生活が垣間見れ・・私は泣きそうになった。
「・・・・・・・。」
「・・・・・・・。」
何から話せばいいのだろうか。
思ってもいなかった再会はお互いを無口にさせる。
病院へ着くとすっかり病人となった妹に、母はすがって泣いた。
「私が・・私がいけなかったんだ。
私がこんな母親だから・・だからこんなことになってしまったんだ・・。
ごめんねー、ごめんねー。
貴方達をこんな目に遭わせたのはお母さんのせいよー・・。」
医師や看護士が大勢いる中、母は叫ぶようにして言った。
プライドの人一倍高い母が病院中に聴こえるかのような声でわんわん泣く。
私は胸がいっぱいになり、母を黙って見るだけだった。
入院の支度をしなければならない私は一旦家へ帰ることになった。
「お母さんがいるから、安心して寝てな。
また戻ってくるから。」
「・・・・・・・・・・・。」
「お母さん、悪いけど宜しく。」
「分かったよ。」
その時、妹の目から涙がポロポロとこぼれ出した。
普段から意地っ張りで泣くことの無い妹が見せた涙に驚く私。
「ど、どうした?痛いの?」
「お姉ちゃんがいなくなるのが心細いんでしょ。
大丈夫だって、また戻ってくるんだから。ね?」
「・・・・・・・・・・。」
とめどなく溢れる涙。
「な、なーに泣いてんの!大丈夫だって!」
照れくさくなって病室をそそくさと出た私。
私のことをそんな風に思ってたの?
私がいないと不安だなんて・・。
嬉しい反面、そんな心境にさせるほど体の状態が悪いのかと心配にもなる。
そして私の心配は現実のものとなるのだ。
「お医者さんに言われたんだけど・・
あのコ、血液の病気かも知れないんだって・・・。」