ついに電力が地震動と津波予測を変えさせていたことが明るみに
石巻平野、仙台平野、相馬地域の発掘調査により、いままでの宮城県沖地震による津波の想定よりもずっと内陸まで津波が達した痕跡が発見されていた。津波堆積物は、およそ1000年おきに堆積していたことから、巨大津波は約1000年おきにくりかえされていた。最新のものは、朝廷の古文書に当時の蝦夷地の最前線基地が巨大津波に襲われ、兵士1000人が溺死したことが記された平安時代の869年の貞観地震津波に相当すると考えられた。
にもかかわらず、その情報が今回の2011年東北地方太平洋沖地震津波に生かされなかったのは、地震の直後から、その評価が近いうちに公表される予定だったが間に合わなかったと説明されてきた。
一方、当時の文部科学省地震調査研究推進本部の地震調査委員会長期評価部会長だった島崎邦彦さんは、学会や一般向けの講演の中で、長期評価部会ではすでに巨大津波が繰り返されてきた可能性を指摘する評価を完了していたが、事務局により文面が薄められたこと、その背景に原発の存在があることをくりかえし述べていた。
事務局が付けくわえた文面は、「繰り返し発生しているかは適切なデータが十分でないため、さらなる調査研究が必要」というものである。
政府の地震本部により巨大地震の繰り返しが指摘されたならば、東北地方の原子力施設は、津波に対する再評価を求められる。保安院や安全委員会が怠慢にも求めなくても、市民からは求められるであろう。じつは東京電力の内部では貞観規模の津波を仮定した再評価を行っていたが、今その対策を行う必要はないという決定がされていたことが、すでに明らかになっている。
「さらなる調査研究が必要」という一文が加われば、評価が確定したわけではないとして、批判をかわしやすくなる。
私は、政府の地震の評価には、原発を続けるための配慮がされているだろうと思っていた。たとえば、中央防災会議の2001年の東海地震の再評価では、強く鋭い地震動を含む揺れをシミュレーションするために、プレート境界面の震源断層面に6か所のアスペリティと呼ばれる強い地震波を発生する小領域を設定した。ところが、その配置は浜岡原発直下を避けるように設定された。そのため浜岡原発は震源域の中に位置するにもかかわらず、地下の工学的基盤と呼ばれる岩盤での揺れは、周辺に比べて明らかに低く評価されている。工学的基盤の揺れは、耐震設計の出発点になるものである。
しかし、一般に公表される震度予測は、地盤の良し悪しの影響を加えたものになるため、この操作は見えにくくなる。
われわれがこのことに気付けたのは、社民党の福島みずほ議員(党首)による請求で、工学的基盤の地震動評価を入手できたからである。
これが中央防災会議が浜岡原発に配慮してアスペリティの配置を決めたかどうかは想像の段階である。しかし、この評価では浜岡の揺れは最弱のものにしかならないという批判を受け、とりわけ柏崎原発の損傷を受けて保安院も再評価を求めたことから、中部電力はアスペリティを浜岡原発直下に置くモデルで再評価したとしている。
しかし、じつは中央防災会議モデルは浜岡原発の下の、地震波の発生源であるプレート境界面を、2001年当時の諸説の中で最も深く(=遠く)したモデルである。
その後の研究の進展により、浜岡原発の下のプレート境界面は14kmの深さにあるというデータが得られており、今中央防災会議が見直している南海トラフ地震の震源モデルもそれを採用することになる。
中部電力はプレート境界面を浅くしたモデルでも再評価を行った。しかし、アスペリティを直下に置いたモデルでは評価していない。つまり、原発の運転にさしつかえない範囲でしか再評価していない。あるいは運転に差し支える評価は公表していないのかもしれない。
私はいままで、地震の想定が原子力施設への影響が少ないものにする「さじ加減」は、担当省庁の側でアウンの呼吸で行っていると想像していた。また、防災行政に関わる中央防災会議よりは、文部科学省の地震調査研究本部の方がさじ加減が少ないだろうと思っていた。
しかし、その地震調査研究本部の事務局が、直接に東京電力、東北電力、日本原子力発電と会合を開き、その要望を文面に反映させていたことが明らかになったことは、きわめて重大である。おまけにその会合は、東北沖地震発生の8日前に開かれていた。
これには2つの意味がある。
1、電力側からの要望で評価を落としたことで、今度はそれが政府からの、それ以上の対策をしないで良いお墨付きになる。他の原発に関わる地震評価についても、同様な「さじ加減」がされていると疑わざるを得ない。
つまり日本の原発の耐震設計、耐震評価の前提となる地震の評価が信用できないということになる。
2、原発に関わる評価だけでなく、地震・津波防災の前提になる各地域の地震の評価が、原発のためにゆがめられ、信用できないということになる。
これは地震被害軽減を願う地震研究者や防災担当者にとっても、許しがたいことのはずである。
もし、原発に対する配慮など行わず、地震調査委員会長期評価部会の答申が直ちに公表されていれば、たとえハード面の対策は間に合わなくとも、住民には今までに想定されていた津波到達範囲を超える巨大津波が繰り返し発生していたことが認識され、より高いところへ逃げて、多くの人命が救われたかもしれないのである。
これは犯罪である。
この事実は、共同通信社による情報開示請求で明らかになった。共同通信社から配信を受けている地方紙(地方紙のすべてではないかもしれないが)に掲載された。私が購入している新聞では、信濃毎日新聞に掲載された。全国紙の朝日新聞には掲載されていない。
今後、全国紙やテレビ局がどのように対応するか注目しよう。これを取り上げなければ報道の責任放棄としか言いようがない。
長野県大鹿村在住、河本和朗

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巨大津波警戒の報告書修正 電力会社の注文受け文科省
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