低線量内部被曝について 議論が盛り上がっています | 脱原発の日のブログ

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12月8日は1995年、もんじゅが事故を起こして止まった日。この時、核燃料サイクルと全ての原発を白紙から見直すべきだった。そんな想いでつながる市民の情報共有ブログです。内部被ばくを最低限に抑え原発のない未来をつくろう。(脱原発の日実行委員会 Since 2010年10月)

<低線量放射線・内部被曝>についての意見から 


再処理工場・原発の事故は、起こると大変だよと言っても、
飛行機に乗る人に、自分の乗る機体は落ちないという
心理(防衛機制というのでしょうか)が働くのと似て、まさか
と受け流してしまう人が多いのではないでしょうか。

核施設が恒常的に放射能を放出しているのだということ、
どんなに微量でも体内に入れば危険なのだ
ということを知ってもらうことがとても重要だと思います。

この微量=低線量でも危険、むしろ低線量のほうが危険なのだと
わかってもらうことが最重要だとおもいます。でないと100人中99人までは
ちょっとぐらいはだいじょうぶでしょ、と思うであろうからです。
 
低線量被曝の危険性の根拠ですが、“加熱したので水の温度が上がった”
というような、誰の目にも明らかな証明はできません。当該癌(など)は被曝
によるというほんとうに厳密な意味での証明をするためには
731部隊さながらに、生体実験でもするしかない。

根拠は、疫学的考え方しかありえません。
水俣病も、初期は風土病だなどといわれていました。
疫学とは、そういう状況でそういう症状が出たとすればその原因はそれしか
ありえないという考え方です。訴訟法的に言えば立証責任の緩和、
ないし一部転換と言っていいと思います。そういう疫学の考え方が採用され、
はじめて有機水銀垂れ流しの被害者たち(の一部)は賠償を獲得できるように
なったのです。

では低線量被曝について疫学的データはあるか。
あるのです。それが広島長崎及びチェルノブイリの惨事の後
収集されたデータです。

このことを科学的に書いた書物があり、それを原告側が
提出し、裁判官が熟読して理解してくれたからこそ大阪高裁
2008.5.30の、原爆症認定申請却下処分取消を求める
原告側請求を認めたのです。

(訴訟を起こしていた人たちはそれまで、
原爆投下の日に居た場所等から機械的にした計算により、
低線量しか浴びてないはずだから身体の不調は原爆症ではないはずだ
といわれていました)

その書物とは:
1)ケンブリッジ及びマサチューセッツの原子放射線研究センターの
ドネル W.ボードマンの著書
『放射線の衝撃 低線量放射線の人間への影響(被爆者医療の手引き)』
(肥田舜太郎訳)
 
2)ジェイ M.グールドとベンジャミン A.ゴールドマンの共著
『死にいたる虚構 国家による低線量放射線の隠蔽』(1994年10月肥田舜太郎ほか訳)
  
判決の核心部分(『死にいたる虚構』の引用部分):

広島長崎の経験に基づく高線量域から外挿した(機械的に当てはめた)
線量反応関係(被曝線量の増加に応じて、被害が増加する相関性)に
基づいて、フォールアウト(放射性降下物)や原子力施設の放射能漏れ
による低線量の危険は極端に過小評価され無視することができるほど
小さいと信じられてきた。しかし、医療被曝や原爆爆発のような高線量
瞬間被曝の影響は、まず最初に、細胞中のDNAに向けられ、その
傷害は酵素によって効果的に修復されるが、この過程は、極低線量での
傷害に主として関与するフリーラジカル(遊離基)の間接的、免疫障害的な
機序とは全く異なっている。このことはチェルノブイリ原発の事故後の
ミルク中のヨウ素131被曝による死亡率が、ヨウ素131のレベルが
100pCi以下で急激に上昇しているのに、高線量レベルになると増加率
が平坦になってしまうことから裏付られた。チェルノブイリの経験から
言えば、この過程は最も感受性のある人々に対する低線量被曝の影響を
1000分の1に過小評価していることを示している。  <後半へ続く>

以上の判決理由は「PKO「雑則」を広める会」さんの“参考資料” 
(A4の半分の大きさで32ページ。¥100+送料)から転記しました。
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『内部被曝の脅威』肥田舜太郎・鎌仲ひとみ著(ちくま新書)をご紹介したいと思います。

p114~120

乳がん死亡増加の原因の隠蔽

1950~89年の40年間にアメリカの婦人(白人)の乳癌死亡者が2倍になったことが公表された。その原因の究明を世論から要請された政府は、膨大な統計資料を駆使した調査報告書を作成し、乳癌の増加は「戦後の石油産業、化学産業などの発展による大気と水の汚染など、文明の進展に伴うやむを得ない現象」と説明した。統計学者のJ.M.グールドは報告に使われた統計に不審を抱き、全米3053郡(州の下の行政組織で日本の郡に同じ)が保有する40年間の乳癌死者数を全てコンピューターに入力し、増加した郡と横ばい並びに減少した郡を調査した。その結果、1319の郡が増加し、1734の郡が横ばい、または減少しており、乳癌死者数には明らかに地域差のあることが判明した。
 グールドはコンピューターを駆使して、増加している1319郡に共通する増加要因を探求し、それが郡の所在地と原子炉の距離に相関していることを発見した。即ち、原子炉から100マイル以内にある郡では乳癌死者数が明らかに増加し、以遠にある郡では横ばい、または減少していたのである。乳癌死者数の地域差を左右していたのは、軍用、民間用を問わず、全米に散在する多数の各種原子炉から排出される低線量放射線だったのである。
 1996年にグールドはこの調査結果をニューヨークの「四つの壁と八つの窓(Four Walls Eight Windows)」という小さな出版社から『内部の敵』という書名で出版した。書名は、人間を体内からゆっくり破壊する低線量放射線という敵と、データを改ざんしてまでそれを隠蔽し続ける国内の敵を意味している。
 2002年に私はグールドに倣い、日本に52基ある原子力発電所ではどのようなことになっているのか、調べてみた。ところが日本全土が原発を中心にして100マイルの円を描くとすっぽり入ってしまい、原発のある県とない県を比較することができなかった。同時に、戦後50年間(1950~2000年)の日本女性の全国及び各県別の乳癌死亡数をグラフ化し、次の事実が明らかになった。(死者数は10万対)
 
 1)全国死者数は1950年の1.7人から2000年の7.3人まで一定の勾配で右上がりに上昇し、
    4.3倍になっている。(図6、省略)
 
 2)1997~1999年の3年間は、青森県15人、岩手県13人、秋田県13人、山形県13人、茨城県14人、
     新潟県12人と、六県の乳癌死者数が12~15人と突出して増加している(図7、省略)
 
 3)次に気象庁の放射性降下物定点観測所(全国12ヶ所)におけるセシウム137の降下線量
     (1960~1998年)を調べた。降下量が増加しているのはつぎの通りである(図8、省略)
  
    a 第1期(1961~1963年)米ソ英仏が頻回に大気  圏核実験を行った時期。
    b 第2期(1964~1981年)1963年に大気圏核実験禁止条約発効で実験が中止、 
       代わって中国が1964から核実験開始。セシウム137はわずかに増加。
    c 第3期(1968~1986年[チェルノブイリ事故の年])秋田観測所でのセシウム137が
       単年度に極端に増加した。

 4)秋田観測所でセシウム137の降下量が著明に増加しているのは1986年だけである。原子力発電所運転管理年報によれば、この年には国内の原発にはどこも大きな事故の報告はなく、県別乳癌死者数分布図(図9、略)から推定して、1986年のチェルノブイリ原発事故から放出された放射性物質が死の灰の雲となって日本の東北部に濃厚に降下したものと考えられる。
 
 5)2の東北四県と茨城、新潟両県の乳癌死亡の異様な増加は3-cの1986年、秋田観測所が観測したセシウム137の異常増加のちょうど10~12年後に起こっている。これは1996年~1998年にセシウム137をふくむ空気、飲料水を摂取した上記六県の女性が、乳癌を発病して死亡するまでの平均時間に一致している。当該県民の医療知識水準と医療機関の状況からみて、乳癌死亡の高騰とセシウム137の大量降下の間にきわめて高い相関があるものと推定される。

 6)もちろん、これだけのデータだけで上記六県の乳癌死亡増加の原因がチェルノブイリ原発からの放射線であると断定することはできないが、しかし、かなり広範な地域に大量の死者を出す原因は、地理的な関係から大気汚染以外に考えられず、欧州各国の大量の乳児に甲状腺癌を発生させたチェルノブイリの死の灰の存在を有力な犯人と推定せざるを得ない。
 
 くり返すが、これだけのデータでは「上記の県の乳癌死亡の原因がチェルノブイリ原発からの放射線である」と断定はできないが、低線量内部被曝の危険性を知るうえで、の一つの参考資料とはなり得ると考える。つまり、当時は言及されることのなかった、微量な放射性物質の内部被曝が10~12年かかって現れたといえるからだ。
 一方、世界的に乳癌は急激に増えている。日本では25人から30人に一人という発症率で毎年3万5000人の女性がこの癌にかかるといわれている。30歳以上の女性の死因の一位となり、年間に9600人が亡くなる。40年前の6倍になっている。欧米では8人に一人の女性が乳癌となり、年間37万人が亡くなる。つまり、90秒に一人亡くなる計算だ。この乳癌増加の影に世界規模の内部被曝が影響を与えているのではないだろうか。

以上、この本には重要な指摘があります。
他にも重要な指摘がありますのでまだお読みでない方は本を取り寄せてお読みください。

 それから癌死が増えていることについて毎日新聞の連載記事で、専門のある医師は高齢化をその要因の第1にあげてこの放射線内部被曝など無視していました。しかし、乳癌は高齢化とは無関係のように若い世代から罹患している病気です。
 また今年の夏、長崎の原爆資料館に行きましたら、内部被曝のことについてふれたコーナーがありました。いつからできたのか不明ですが、最近この内部被曝は無視できない問題となっており、ご指摘のことは重要と思い、お知らせするものです。

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小出裕章さんより↓

低線量放射線被ばくについて議論してくださり、ありがとうございます。
私は、人形峠のウラン残土の件で、地裁、高裁合わせて裁判所に8通の意見書を提出しました。
以下のURLに掲載しています。
http://www.rri.kyoto-u.ac.jp/NSRG/genpatuindex.html

 そのうち、特に下のURLにある控訴審に提出した1番目の意見書で、詳しく述べました。

<抜粋1>『どんなに微量であっても 被曝による影響がある』のである。
そのこと自体はすべての学者が認めることであり、科学的に議論の余地はない。
物理学的なエネルギーのやり取りだけから判断すれば、体温を1000分の1度しか高めない
程度の極々微量のエネルギーであっても、そのエネルギーが放射線から受けるものである
場合には、人間は死んでしまう。

それほどわずかのエネルギーで生命体が大きな危険を受ける理由は、
生命体を構成している分子結合のエネルギーレベルと放射線の持つエネルギーレベルが
5桁も6桁も異なっているからである。

そのことは、放射線被曝 が高線量であろうと低線量であろうと関係なく、
個々の細胞あるいはDNAのレベルでいえば、同じ現象が起きているのである。
それが細胞死を引き起こしたり、組織の機能を失わせたりすれば急性障害となるし、
そうならなければ、傷を受けた細胞がやがてガンなど晩発性障害の原因になるのである。

だからこそ、ICRPでさえ「生体防御機構は、低線量においてさえ、完全には効果的でない
ようなので、線量反応関係にしきい値を生じることはありそうにない」と述べているのである。

このこともまた、長い放射線影響研究から導かれたのであって、先述のK・Z・モーガンさんは
 「私たちは当初、あるしきい値以上の被曝を受けなければ、人体の修復機構が細胞の損傷を
修復すると考えていた。しかしその考え方が誤りであった」と述べている。
ましてや最近になって、低線量での被曝では細胞の修復効果自体が作動しない
というデータすらが現れてきた。

<抜粋2>日本の法令はICRPの勧告 を取り入れて組み立てられている。
したがって、少なくとも低線量でも放射線影響はあると いうこと自体は認めている。

<抜粋3>もともとICRPは放射線防護に関係する学者が集まって組織した団体であったが、
原子力利用が拡大するとともに、純粋に「科学」的な仕事から離れ、被曝の安全基準を
勧告するなど社会的・行政的な役割を担うように変わってきた。

ICRPが国家や原子力産業に次第に取り込まれていく過程をK・Z・モーガンさんは、
「できの悪い子供を見る父親の心境だ」と書いている。結局、ICRPはLNT仮説自体を
否定できないため、新しい勧告で奇策に打って出ようとしている。
つまり、自然放射線被曝より低い被曝から受ける危険は無視してしまってよいというのである。

http://www.rri.kyoto-u.ac.jp/NSRG/Ningyo-toge/appeal-1.pdf


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「死にいたる虚構ー国家による低線量放射線の隠蔽」
ジェイ・M・グールド ベンジャミン・A・ゴルドマン 共著/肥田舜太郎 斎藤紀 共訳  

この本は昨年大阪高裁が原爆訴訟で初めて低線量内部被曝を認めた、その画期的な勝訴を導く根拠となった研究で、発表当時これをアメリカは無視したがイタリアは大きく注目して、脱原発政策の礎として原発を許していない。

 「…恐らく政治的影響が大きいために、保健局お抱えの疫学者たちは地域ごとの死亡率が大幅に違っていることの原因をあまり調査しなかった」(引用)。自由なデータ解析者の立場で著者らがまとめた一冊からは、国家というものがその運営に悪影響だと判断するデータは改ざん・消滅さえする事実が判明し、これがサブタイトルになっている。消えた記録が洗い出される程、詳細で緻密な「低線量放射線と過剰死」について、人類史上初めて相関関係が明らかになった統計学の手法による<放射能といのち>のやりとり~ストーリーである。文字とグラフ図表だけで表現出来ている事がすごい。

 放射能が白血病やガンの原因になることは周知だが、胎児期の遺伝子損傷や出生後、免疫系が弱って成長する世代にエイズの爆発的な発症がみられたり、脳性麻痺や精神障害も疑われるという。原発からのフォールアウト(放射性降下物)は風上・風下で大きく差がある上、巨大大陸多民族アメリカならでは、人種で摂取食物の違いがあってそれが死亡率に影響している。50年代の大気圏核実験や長らく伏せられた60年代原子炉事故の影響、そしてスリーマイルやチェルノブイリが大量放出した放射能が広域にわたり海や牧草地等を汚染してきた。巡り巡って人に戻る食物連鎖と生体濃縮のメカニズム。いのちは互いにつながりあって生命活動をしていて、長い年月連綿と化学反応は続いている。

 ゆっくりと自然環境から動植物内に入り込み、やがて都市部のマーケットで売られる食品を通して多くの人達の骨などに溜まるストロンチウム90等の内部被曝へのプロセスを追求していく。「外部被曝と内部被曝の違い」は衝撃的である。高線量の放射線を体の外から瞬時に浴びる外部被曝では放射線同士が打ち消し合うのに対して、低レベル放射能が食物や呼吸とともに体の中に取り込まれて細胞に溜まると、細胞は至近距離から継続して長時間放射線に直撃されることになり、そのダメージは1000倍だという。これらの免疫系を破壊する放射能は、感染に対する抵抗力低下を引き起こすが、妊婦では胎児を異物として拒絶する事になり、流産、未熟児、低体重児の増加、乳幼児死亡率の劇的増大となる。

 ペトカウ理論といって、これが今度の被爆者裁判に起用されたことで、「レントゲンや自然界にある程度の微量放射能値で無視できる」としてきたこれまでの安全基準は根本的に覆された。1000分の1甘い見積もりだった訳だ。*ECRR2003「核開発による被ばくの地球規模における結果」表ではペトカウ理論を認めた立場と認めていないICRPの「ガン死と全ガン」で52倍の差がある。ECRRの「小児死亡160万人、胎児死亡188万人」は、ICRPの表では0、欄を作っていない=無視されてきたことがわかる。

 現在の安全基準は、元になるデータの段階で、この348万もの小さないのちの萌芽が反映されていない。ペトカウ理論を取り入れれば、原発の推進は安全性においてその根拠を失う。これは心新たに問われて然るべきではないだろうか。最後に訳者である広島被爆医師、肥田舜太郎氏の再版メッセージを。
「…核兵器(劣化ウラン弾を含む)はもちろんのこと、原子力発電所、六ヶ所再処理工場、核廃棄物処理施設などからの放射線汚染に危惧の念を抱かれる方々は、この本によって、体内に摂取された放射性物質からの低線量放射線により体内被曝の危険性について、根拠ある確信を得られるであろうと信じています。(08年10月)」

                                                                                                               
☆本書は500円以上カンパでPKO法「雑則」を広める会へ問い合わせを。
                 0422-51-7602佐藤/047-395-9727小田
☆関連書籍『内部被曝の脅威 原爆から劣化ウラン弾まで』
                  筑摩書房  肥田舜太郎・鎌仲ひとみ 共著

                                     [劣化ウラン兵器禁止市民ネットワーク]の通信
                                                                             NO DU NEWS60号掲載  星川まり
             *「ペトカウ理論」は「ペトカウ効果」とも言われています。
              「認めていない立場」が小出さん「意見書」の「ICRP」で
              「認めた立場」が「ECRR」=ヨーロッパ放射線リスク委員会です。

ベル「雑則を広める会」では『未来に続くいのちのために原発はいらない』という冊子を作っていらっしゃいます。100円で、コンパクトにまとまったものです。

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2009年発行のNO DU NEWS60号掲載記事では、*ECRR~の行はチェルノブイリ以降のデータと記載しましたが正しくは上記です。お詫びの上訂正いたします。