今回の国会では電気事業法改正が議論されています。
改正案では広域系統運用機関の設置、電力小売り自由化、発送電分離を進めるとしていますが、これには大きな問題があり、我が国の経済の強靭性を損ないかねないと危惧しています。
改正案は、電気事業に新規参入を促し、競争原理の導入で電力価格の抑制を目的としています。しかし電力は社会にとって必須のインフラであり、経済の強靭性を高めるためには安定供給を何よりも重視せねばならないと筆者は考えます。
現在は一般家庭はどこから電気を購入するか選べません。しかし代わりに電力会社が地域における安定供給に責任を持ち、一般家庭の『必要な分、自由に電気を購入する権利』が保証されています。
電力会社は小売りに関して競争から保護されているが故に、充分な投資を行って安定供給を実現してきたのです。
競争原理が導入すると企業はどうやって利益を確保するかが最優先になります。そうした場合、災害や万が一の事態に備えたバックアップの確保など充分に出来るのでしょうか。コストを抑える為に設備投資が削られ、結果として停電が多くなってしまったり、災害に対して脆弱になってしまってはお話になりません。
そもそも、日本に先行して電力改革に取り組んできた欧米では上手くいっていないのです。利益優先で必要な投資をしなくなって供給能力が落ちたり、小規模の電気事業者が淘汰されてしまって結局、大規模な業者の寡占状態を招いたりしています。送電網の更新が遅れて停電が頻繁し、また電力価格は上昇してしまいました。
先行事例の失敗からよく学ばねばなりません。同じ過ちを繰り返すのは愚かですし、回復困難な失敗は避けるべきです。
本来やるべきことは拙速な自由化議論ではなく、安定供給、エネルギーの安全保障を確保し、予期せぬショックが起きても被害を最小限に抑える安定したインフラを確保することだと思います。
安定供給の不確かなライフラインの恐ろしさをよく理解し、強靭性を如何に確保するかが課題です。
安易な改革が本当に日本の国益にかなうのか、よく考える必要があるでしょう。