結婚式写真

花嫁さんのヘアメイクシーンを撮影しているときに、
花嫁さんが何かを思い出したようにくわっとした表情をされました。

「あ、お父さん忘れた!!!」

ちなみに僕は幼少時に母に駅のホームで忘れられたことがあります、
母は電車に乗って20分経って帰ってきました「UFOにでもさらわれたのかと思った」そうで。
僕は普段は入れない駅長室に入れてウハウハしていたんですけどね。

家族揃って車で会場入りされたようなので、
そんな感じでうっかりお父さんを乗せないまま家を出発されてしまったのでしょうね。
結婚式の日に、花嫁さんは元より家族にも忘れられるお父様、
つれない気持ちがわかります。

驚愕の事実に気付いてしまって、花嫁さんはメイクどころではありません。
すぐに花嫁さんのお母様とお姉様が花嫁さんの元に駆けつけて、
「え? 朝お父さん乗せていなかったっけ? いたよ、いたはずよ!」とお母様、
「わたし記憶にないなー」とお姉様。

女性の中での父親の影はこうも薄れていくのか、
空気のような存在になっていくのかとちょっとした憂いを感じました。

会場のプランナーさんも「お父様がいらっしゃらないと…」と困惑顔。
結婚式もお父様が来ないと始められません。

「お父さんひとりで来られないし、どうしよう」とお母様。
色々な理由があって介護や介添えが必要なのでしょうね、
そんなお父様を1人にして大丈夫かなと少し不安にもなります。
お姉様が「私が家に行ってくる!」

お姉様は颯爽と会場を後にされました。
「お姉ちゃん、電車だけど大丈夫かなぁ」

お姉様は車の運転が出来ないようで、電車で家に帰られたそうです。
1人で移動できないお父様の移動が電車で大丈夫でしょうか、
渋滞や事故などがない分時間は確実ですが、
結婚式会場の最寄りの駅は地下から階段が多いのでかなりいい汗かける駅です。

花嫁さんとお母様は「お父さんいるかな、大丈夫かな」
認知症だと家族の目が離れたら徘徊してしまうこととかもありますので心配です。

僕も何事もなければいいと祈りながら、心を落ち着かせながらお姉様の到着を待ちます。
プランナーさんに至っては胸で十字を切っているほど心配していました。

30分ぐらい経った時お姉様が会場に帰ってきました。
「お父さん無事だったよー」という明るい声と共に。
花嫁さんもお母様も安堵の表情です、お姉様が控え室に入ってきて皆落ち着いています。
けれどお父様の姿はそこにはありません。

(´・Д・)

もしかして、お父様は僕には見えないのでしょうか…。

するとお姉様は小ぶりなキャリーバッグをゴソゴソされていました、
もしかしてお父様を小ぶりなキャリーバッグに入れてきた…( °Д°)
電車移動で楽だからってキャリーバッグに実の父を…。

お父様はキャリーバッグに入っていました。
笑顔満面でキャリーバッグからよいこらしょと出されました。
笑顔一杯の笑顔がはち切れそうなお父様の写真です。

写真ではないお父様も結婚式場に来られて、
家族のそんな様子を笑顔でみつめられていたのだろうなと思いました。
お父様の写真を見つめていたら笑顔がさらに笑顔になった気がしましたから。



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