会場の外観を撮影していた時のことです。
背中に大きなリュックを背負った小学校3～4年生ぐらいの男の子が僕の横にいました。
その手元には、1枚の写真を手に持っています。
今僕が撮っているのと同じ角度で撮影された会場の写真です。
その会場の写真の2枚目には新郎と新婦の写真が見えました。
一生懸命、手に持った写真と会場を比較する男の子。
「写真と同じ建物だよ」と声をかけると、男の子の目には涙がたまっていました。
静岡県から始発に乗って都内にあるこの場所まできたそうです。
お父さんとお母さんが結婚式をした場所を見たくて来たのだそうです。
写真のお父さんとお母さんは先月離婚をされたそうです。
お母さんと一緒に暮らすようになったある日、
結婚式のアルバムがゴミ箱に捨てられているのを見つけたのだそうです。
そっとゴミ箱から拾い上げお母さんのいないうちに写真だけはがしたのだとか。
余談ですが離婚をされるとき、結婚式のアルバムはほとんど処分されるようです。
中には丁寧に梱包されて僕に送ってきて下さる方もいらっしゃいます。
幸せな笑顔で楽しんでいる結婚式、その想い出の日を集約したアルバム。
思いを込めて撮影した写真、そして心を込めて制作したアルバム。
返却いただいたことをうれしく思い、笑顔で供養させていただいています。
「僕が生まれることのきっかけになった、結婚した場所を見たかったんです」
男の子は写真を持った手を下げ、その会場をしばらくみつめていました。
「中に入ってお父さんとお母さんが結婚式をした場所を見てみる？」
と聞いてみると、しばらく考えた後に「苦しいから…」と涙は目からこぼれました。
でもリュックからチャペルの写真を出してまた涙をためています。
入って見たいけど、一歩会場に入る勇気がないんだなと感じたので、
「写真しまってさ、会場の中探検しない？」と聞いてみると、
男の子は笑顔になって僕の手を取りました。
会場を回って、笑顔になったり好奇心あふれる子供の目になったり、
輝いている新郎新婦を見て立ち止まったりしている男の子の姿がありました。
一通り回って男の子は走って出口に向かいました。
「パパとママが幸せそうな顔ってしばらくみたことなかった。
写真を見てあんなに幸せに慣れる場所ってどこなんだろうと思って、家抜け出して来ちゃった。
「パパとママが並んでのあんな笑顔はもう見られないと思うけど、僕も楽しかった。
僕が笑顔でいればパパとママもまた仲良く笑顔になってくれるよね？」
その問いに僕は笑顔で「もちろん」と答えました。
「おじちゃんありがとう」とバスに乗って駅に行く男の子、
おじちゃんじゃなくてお兄ちゃんだよ、
という大事な事を言う間もなくバスは駅に向かっていきました('A`)
さて時間に余裕があったとは言えこれから撮影です。
機材をセッティングしようとカメラバッグを空けると、
「にいちゃん39 たかし」と書かれた紙が入っていました。
トイレの手を拭く紙にささっと書いて知らないうちに、
カメラバックのサイドポケットに入れていたようです。
粋なことをしていきます。
男の子はお父さんとお母さんが結婚式をしたこの場所を訪れたことで、
見つけたものそれはなんだったのでしょうね。
結婚の意味、そして結婚式のアルバムの意味を深く深く感じたある日の出来事でした。
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