左折する交差点の手前で一時停止した。右手に目をやるとやせ細った茶虎の猫を見つけた。20日ほど前に見たあのハンサム君だった。
ハンドルを右に切って車をゆっくり走らせる。
車の中においてあるキャットフードを急いで手に取ると、その猫を脅さないように車のドアをそっと開き静かに閉めた。
それでもその猫は私の気配に気が付き、こちらがどう出るか神経を集中させて見届けている。
ところが『猫ちゃん』と呼びかけると『ニャン』と返事を返してくれた。良い兆候だ。
何度も追いかけ回された経験があるのだろう、随分ビクビクしている。
かなり前から独りぼっちになってしまったのね。何があったのだろうか?
『おなかすいてるよね、ご飯食べてね。』と袋から山ほどフードを道端に流し置いた。
かなりの空腹らしい。キャットフードを口に入れるたびに声がこぼれる。空腹が限界に達した子は、久しぶりに食べ物を口にするとついつい声が出てしままうのだ。
捨てられてしまったのか?飼い主がなくなったのか?は判らないがガリガリにやせ細った体は、彼の毎日の苦労を物語っていた。
2初めてこの子を見かけた時から、餌を置いてはいるのだが何せ自然豊かな田舎町、イタチにテンに狸などの野生動物もたくさんいるので、キャットフードが誰の口に入っているかはわからない。
もしその相手が猪であれば小袋いっぱい置いてきても一口で食べ干してしまうのだろう。
用を済ませた帰り道、餌をあげた場所に行ってみると猫ちゃんももういなかった。
食べ残しがまだまだ沢山あった。動物は欲がない。
普段からごみの中のわずかな食べ物を拾らって食べる毎日だろうから、一度に胃の中に入るフードはほんのわずかなのだろう。
腹が満たされると安全なところに身を隠し、久しぶり、いや初めてお腹いっぱいになった心地よい時間を、お昼寝でもしながらぼろぼろの身を休めているだろう
猫ちゃんまた会おうね。明日一日少しでも食べ物が見つけられますように。
大変な毎日だけど、頑張って生きていけますよに。