W杯を境にいろんなところで「自分たちのスタイルを貫くのか、勝つためのサッカーをするのか。」という話を目にするようになりました。確かにサッカーをしていて難しいところです。チームを作る上で永遠のテーマと言ってもいいかもしれません。しかし、この2つを二元論として語るのは少し違和感があります。

W杯のときだけでなくJリーグの試合前などでもいろんな選手が「自分たちのサッカーをすれば勝てる。」みたいなコメントをするように、そもそも「自分たちのサッカー」とは勝つために作り上げてきた自分たちなりのスタイルです。これらは切り離されたものではなく、もともと同じところを向いたものです。

しかし、だんだんチーム作りが進んでいくと、確かにこの2つのどちらかに針が振れすぎてしまうことがあります。例えば、ある試合で「前からプレスをかけよう。」とチームで統一して入ってとてもいい試合をして勝ったとします。すると、その成功体験によりその試合のイメージに固執してしまい、うまくハマらないときにもその試合のイメージを追いかけてしまいます。しかし、うまくハマらない試合では、もしかしたらそのスタイルを捨てることの方が勝利に近い場合もあるかもしれません。

かと言って、いつもいつもスタイルを変えていては強固なチームは作れません。要はバランスの話なのですが、「自分たちのスタイル」あるいは「勝つこと」にフォーカスしていけばいくほど、だんだんどちらかに偏ってしまうことがあるんです。

一概にバランスと言ってもチームによってそのバランスは違うし、同じチームでも時期やタイミングによって最適なバランスは変わります。大事なことは、今どこに自分たちのバランスがあるかを常に考えておくことで、どちらかに針が振れ過ぎたときにそれを少し戻してあげることだと思います。

このブログでも何度もバランスという言葉を用いてきましたが、バランスという言葉はありふれていて、頭ではわかっていてもなかなか実際には自分の「ど真ん中」にいることは難しいものです。実生活においてもそうですが、サッカーにおいても何かにこだわればこだわるほど、バランスは一度崩れてしまうように思います。

だから私はプレー中もいつも、その瞬間に自分が自然に意識することと逆のことを頭に入れるように心掛けています。例えば、前に出るときは後ろを、右に行くときは左を、ゾーンマークをしているときは相手選手を、マンマークをしているときは空いているスペースを、高いライン設定をするときは背後のスペースを、攻めているときは守備を、という風に。

以前サッカー界では、攻撃か守備か、ゾーンかマンツーマンか、ハイプレスかリトリートか、というようにいろんなことが分けて語られてきましたが、私は全てバランスが大事だと思っています。どちらかに傾きすぎると見た目は良かったりしますが、あらゆる状況に対応できない気がします。相手もあるスポーツでそれは致命傷になりかねません。

人は自分の中のちょうどいいバランスで立っていれば、右にも左にもいつでも行くことができます。ただ、難しいのはその適切なバランスを見つけることで、それは振り子のように最初は左右に大きく振れながら、だんだんその振れ幅を小さくしていくしかないのだと思います。