試合前に記者の方に必ずと言っていいほど聞かれるのが、「どのような試合にしたいですか?」とか、「どのように抑えますか?」という質問です。私は、記者の方にはつまらなかったと思いますが、「試合に入って10分か15分くらい経ってから考えます。」と答えていました。これは少し質問をかわそうという意図もありますが、それ以上に試合前の私の本心です。

当然、試合前には相手の特徴や現在の調子などを頭に入れて臨みますが、そのいろいろな情報から考える、試合のあらゆる想定の中から何を選択していくかは試合中に考えています。試合前の情報と違うときも往々にしてありますし、何よりその日の試合の流れやチームの調子は始まってみなければ分からないからです。

できるだけ気持ちをフラットにして試合開始を迎え、最初の10分、15分が経過すると試合の流れやリズムは大体つかめてきます。個人としても試合前にはとても緊張しますが、このあたりで何回かボールに触る機会もあり、体を動かしてみて調子もわかってくるので、不確定要素が減り、かなり落ち着いてきます。

ちなみに体の調子というのは不思議なことに試合が始まってみないと確実には分かりません。体に少し張りがあった方が動けたり、後半になって急に体が動いたりすることもあります。また、私はセンターバックなので後半の勝負所でバテてしまったり、交代したりすることにならないように、最初から飛ばすというよりは少しペース配分をコントロールしながら戦っています。

立ち上がりの落ち着かないリズムをしのぎながら、私はいろんな情報を集めます。選手は試合前に監督から何かしらの指示を受けてピッチに出ています。特に分かりやすいのが、やはり指示を受けて間のない立ち上がりの時間です。

その時間が過ぎ、ゲームが落ち着いてくるとどちらがいい入りをしたか、あるいは均衡状態なのかが見えてきます。このあたりで守備が「はまる」感覚になると守備に大きな問題はほとんど起きなくなります。逆にどうもはまらない感触のあるときは少し戦い方に変化を持たせます。例えば、プレスを強化させたり逆に少し後ろに引き気味に全体を動かしたり、あるいは相手の狙いに対して特効薬のような一時的な対応をしたりするときもあります。

そうした微調整を繰り返しながら全体をコントロールすることをずっと意識しています。後半になると交代選手も加わり、また試合が変わります。交代選手は相手の監督の考えが最も分かりやすい存在です。交代選手の立ち位置や動き出しを見て、また対応を考えます。

難しいのは悪い流れのときにいつもチームに変化をさせればいいというわけではないことです。時に悪い流れが過ぎ去るのをじっと待つことが必要なときもあるように思います。特に後ろを安定させるべき選手が慌てている様子はチームメイトを不安にさせてしまいます。大事なのは引き出しをたくさん持っておくことと、想像力を働かせて考えることだと思います。

考えることは無限にできます。いろんな想像を働かせれば、一つの相手選手の表情にもヒントが隠されているときがあります。サッカーは、同じスタートラインからヨーイドンをするスポーツでも単純に力比べをするようなスポーツでもありません。だから32歳になった今でも成長していけるはずであり、経験を頼りにしながらも学ぶ意識を失ってはいけないのだと思います。