≪ご案内≫この話は魔人様のリク罠ドボンで書き始めたお話です。

  自分に楽しく、(←汗)のんびり進めていきますので、お時間がございましたらぜひどうぞ~v




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魅惑の花 14






「で、いつまでそこにいる気だ?」


 先ほどまでの温和な口調とは違い、鋭さのこもった口調とそれに見合った視線を後方の木の影に向ける八坂。

 するとその声に応じるように、八坂の視線の先の木の後ろから、すっと大きな人影が現れた。その姿を確認して、八坂は少し嫌そうな顔をしてため息をついた。

 その様子に苦笑しながら、影が静かに八坂に歩み寄る。

 お互いの顔がはっきり見える位置に来たところで歩み寄ってきた影は足を止め、ぺこりと会釈した。


「……気付かれてましたか。初めまして、八坂Dr. 敦賀蓮です」

「Dr. は付けなくていい。で、今さっきここに来たって感じだが、仕事は?」


 まるで最初から蓮が来ることを知っていたかのような八坂の言葉に少し驚きつつも、蓮は質問に応じる。


「有能なマネージャーが、頑張ってくれましてね」

「気の毒なマネージャーだ。ま、それより話はキョーコちゃんの事だろう?見てたなら分かるだろうが、あの子は俺じゃダメみたいだな…泣かせるつもりはなかったんだが、結局泣かせてしまったし」

「八坂さん?」


 いきなり話の本題に入る八坂の意図が量れず、蓮は困惑が隠せないまま八坂に怪訝な視線を向けた。

 それを気にするでもなく、八坂は蓮の目をまっすぐに見つめる。その鋭さは、キョーコに向けていたものとは別物の、病の原因を探る時と同様、嘘をも見抜かんとするもの。

 その視線の鋭さに思わず怯みそうになった蓮へ、八坂は問いかけた。


「君は…君ほどの役者が、どうしてあの子に執着する?そして、なぜそれをあの子に悟らせない?」

「それは…。その前に、貴方はどうなんですか。なぜ、今回の偶然の再会をするまで連絡も取っていなかった彼女に、今更そんな想いを寄せているんです?」


 質問に質問で返しながら、蓮は八坂の言わんとするところを察していた。だが、前回の龍之助の時と違い、八坂に関する自分の手持ちの情報がなさすぎる。

 とりあえず、相手の出方を見ようとした蓮であるが、八坂も蓮の意図を読み取って、隠すことでもないからとその問いに応じることにした。


「あの子は…キョーコちゃんは、俺の道標になってくれた子なんだ。キョーコちゃんがいなかったら、今の医者としての俺はいなかっただろうし、道を踏み外してたことは間違いないだろうな」


 八坂の意外な告白に、蓮は思わず息を呑む。それはまるで自分の過去と重なる事実。思わず掠れそうになった自分の声を何とか誤魔化しながら蓮は話を促した。


「道標…医者になるきっかけを彼女が?」

「そう。俺の実家は小さな診療所でね。小さい頃は自分が医者になることを疑問にも思わなかった。ただ、思春期になった頃、周囲と親に言われるままに医者になることを反発し始めて、その上ありがちな話で笑えるが、色々な事情で両親が不仲になって、俺も家に帰らなかったり、ケンカに明け暮れるような生活に染まりだして、医者になることなんて諦めてた」

「諦めて、ということは、本当は医師になることを目指していた、ということですか」

「ああ。尤も今だからそう言えることなんだが。何しろ周囲に色々否定的なことを言われたくらいで揺らいでしまうほど、あの頃の俺は幼くて心が弱かったし、自信がなかった。だから、誰かに言ってほしかったんだと思う。こんな俺が医師を目指すことを、『間違っていない』 と。…そんな時に近所の女の子が傷ついた小鳥を拾ってきて、俺に泣きながら言ったんだ」


『八坂お兄ちゃん、この子を助けてあげて!』

『そんなの、獣医に診せればいいだろ?なんで俺に言うんだよ』

『獣医さんは…私だけじゃ連れてけないもの。それに、お兄ちゃん言ってたじゃない。命は人でも動物でも皆大切なんだ、って。俺は医者になって、たくさんの命を救いたい、って』

『……!!』


「必死で訴えるあの子の言葉と涙に、自分が昔そう言っていたことを思いだして…。大した怪我でもなかったから手当して、しばらく俺が面倒をみて、空へ返すときに一緒に見送った。あの時の抜けるような空の色と、まぶしいくらいのあの子の笑顔が…暗闇に迷い込んでた俺に光を思い出させてくれた」

「……光、ですか」


 蓮は自分の中にある記憶の中のキョーコとの記憶も、光に満ち溢れていることを思う。

 そして、それは八坂も同じなのだ、と。

 八坂もその時のことを思いだしているのだろう。最初に蓮を見た時のあの鋭さのある雰囲気とは別物の穏やかな空気を醸し出している。


「医者を目指したきっかけが、あの子に言っていたような大仰な理由じゃなくて、本当は、あの子みたいな人の笑顔を見たい、っていう単純なことだったんだ、と。そこからは、気持ちがブレることなく只管医者になるための努力をして、現在に至る、というわけだ。だから、彼女は俺の恩人であり、かけがえのない、大切な人なんだよ」

「そんな彼女をどうして今まで…」


 そんな思いがあったのなら、なぜ今まで放っておいたのか。言いかけて、蓮は昔のキョーコのことを思い出した。そして、どうやら八坂も同じことを思ったらしい。苦々しげに眉を寄せてその理由を口にした。


「…知っていたから、だよ。あの子が過去、どれだけあの幼馴染のバカに盲目になっていて、他の人間が目に入っていなかったか、ってことを」


 その言葉に、蓮もキョーコがこの業界に飛び込んできた経緯を思い浮かべる。八坂同様、苦い顔になっていたのだろう。尚且つ、幼馴染?と尋ねない蓮に、八坂は何か気付いたらしい。


「その様子だと…君も知っているのか?彼女の過去…ひょっとして、どうして今芸能界にいるのか、も?」

「はい、知っています。昔の彼女と、その頃の彼女が盲目的になっていた馬鹿を追うことは、全くしていない現状も。…詳しくは話せませんが、俺も過去に彼女に救われた者なんです。彼女に会っていなければ、役者としての自分どころか、この世にすらいなかった可能性の方が高いですから。あぁ、尤も、過去に会った俺と今の俺は、彼女は別人だと思ってますからそれは言わないで下さいね」

「そう、か。お互いにきっかけは似てるんだな。…なら、どちらが有利とかはないわけか」


 その言葉に蓮は苦笑する。堂々と昔の話ができる八坂と、自分のこととして話ができない蓮とでは明らかに差があるのではないかと思ったからだ。

 それに対して八坂も苦笑する。

 その笑みは、蓮の鈍さに対してだ。キョーコの態度からして、その想いの矛先が誰に向っているのかは明白なのに、気付かれないのが不思議だと思っていた。だから、よほどキョーコが一方的な片思いをしているものだと八坂は思っていたのだが、蓮の態度と言葉からするとどうもそうではないらしいことが分かったからである。


「あの子は手ごわいから、振り向かせるのは君でも無理かもしれないぞ?それでも?」

「当たり前です。俺は全く諦めるつもりはないですから。彼女が誰を想って、誰を追っていたとしても、必ず振り向かせてみせますから」


 八坂の質問に真面目に答えた蓮であったが、八坂が呆れるには十分な返答であった。




 つづく


゚・*:.。..。.:*・゚゚・*:.。..。.:*・゚

変なところで切ってますが、続きは多分明日、かな?

あと1回で八坂編終了ですv

よろしければまたお付き合い下さいまし~vv




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