≪ご案内≫この話は魔人様のリク罠ドボンで書き始めたお話です。
自分に楽しく、(←)のんびり進めていきますので、お時間がございましたらぜひどうぞ~v
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魅惑の花 12
都内にあるLME御用達病院の特別棟の待合室で、予定の時刻より早く到着したキョーコはぼんやりと見るともなしにTVから流れるニュースを眺めていた。
先日、ラブミー部室で蓮とケンカするようにして、それもキョーコがその場から逃げだすような形で分かれてから、謝罪しようと思いはするものの、そういう時に限って蓮と鉢合わせするようなタイミングも全くなく、結局今日まで会うことは叶わなかった。
ただ、携帯のメールには言い合いをしたその日に、蓮からの
『今日は俺が言いすぎだったね。ごめん』
という短いメッセージが入っており、キョーコも
『こちらこそ、心配していただいたのにすみません』
とだけ返しはした。
本当はそれ以上に色々書きたいこともあったはずなのに、それだけの内容を打つだけで1時間近く時間を要し、それ以上書くことは返事が遅れるだけだと諦めて送り返したのだが…。
それ以降、蓮からのメールも電話も来ていない。
――― バカみたい。何を期待してたのかしら…
ふぅ、と小さく溜息をついた時、八坂が病院の奥から現れ、キョーコに気付くと気持ち早足で向かってきた。
「おはよう、キョーコちゃん!ごめん、待たせたよね。あ、寒くない?」
少し慌てた様子で矢継ぎ早に言う八坂に、落ち込みそうになっていた心が浮上する。
「おはようございます。大丈夫ですよ。待たされてないですし、病院の中はあったかいですから」
先刻までのぐるぐるしていた頭の中を一度リセットして、八坂に笑顔を向けるキョーコ。
八坂もその笑顔につられて、ほっとしたように笑顔を見せた。
キョーコは考え事をしていて気付かなかったが、八坂はほんの少しのつもりで病棟に顔を出して色々指示出しをしてきた結果、そのまま患者と看護師につかまり、約束の時間を少しすぎてしまったのだ。何とかそれらを振り切って、待ち合わせの場所が見えるところまで時計と睨めっこをしながら急いでやって来た八坂の目に入ったのは、不機嫌そうなキョーコだった。
難しい顔をして何やら考え込んでいる様子のキョーコの姿を確認した瞬間、八坂は時計を再度確認し、先刻の会話となったわけで。だから考え事が自分が遅れてきたことではないということに安心したのだ。
だが、それならあの表情は何に起因する物なのか…。追及したい気持ちもあったが、それはいまここで聞くことではないと判断した八坂は、当たり障りのない会話でその場を繋ぐことにした。
「ははは、違いない。でもこんな場所で待たせちゃってごめん。ここが一番無難に落ち合えると思って決めたんだけど、後で院内のカフェとかで待ち合わせればよかったな、って後悔したんだ」
「え?でも、ここの方が良くないですか?カフェとかだと先生のお仕事とかが色々飛び込んでくるかもしれないじゃないですか」
「仕事、って急患さんのこと?」
「ん~、それもありますけど…ほら、今もそうですけど病院の…看護師さんとか」
キョーコの言わんとしていることは、どうやらさっきからちらちらと通りすがりにこちらを見ていく看護師の視線のようだと悟る。
どうやらキョーコには、想いを寄せる者が送る視線と、珍獣を見るような興味対象を見る視線との区別がつかなかったらしい。
もっとも、それは八坂が院内で女性看護師達に何を言われているかをキョーコが知らないからでもあるのだが。八坂は、そこは訂正がいるところだな、と思い、笑いながらそのことをキョーコに教えることにした。
「あぁ、それならそれこそ問題ないよ。俺、ここの病院内では変わり者、とか話しにくいから彼氏にはしたくない、とか言われてるからね。女性と話してることがきっと珍しいと思われてるんだよ」
「はぁ?何ですか、それ。ぜんぜん当てはまらないじゃないですか」
「そうかな?」
「そうですよ」
肩を竦めて、どうでもいいことのように話す八坂と、不当評価だと自分の事のように怒るキョーコ。
顔を見合わせて、思わずお互い笑いだしてしまった。
「ま、どっちでもいいけど、ここで話してても時間がもったいないから出発しようか」
「はい!」
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八坂の車で高速と一般道を使って走ること小一時間。なんだかんだと昔の話で盛り上がっている間に目的の場所に着いた。そこの駐車場は、平日のせいか割と空いているようだったが、それでもかなりゲートからは遠い場所だった。
「天気が良くて助かったね。これで天気が悪かったらアトラクションもかなり使えないだろうし、イルミネーションも見れなかったかもしれないから」
「そうですね。ここから傘をさして歩いて、ほとんど遊べないとなったらつまらないですよね」
並んでゲートに向かいながら歩いていると、キョーコはふと違和感を感じた。
――― なんだろう、この感覚…
ゲート前のチケット売り場に来て、その違和感が何だったのか、キョーコはようやく気付くことになる。
「チケット買ってくるから、ちょっとここで待っててね」
「あ、はい。っていうか私も行きますよ!」
チケット売り場が見えるゲート付近のベンチにキョーコを座るように促して、八坂は売り場に向おうとした。が、それを慌ててキョーコが引き留める。
だが、八坂はそれを笑って却下した。
「だ~め。一応…ん~、そうだな。今日のコンセプトは 『初デート』 ってところでどう?役者としてこの体験は結構役に立つと思うよ」
「え、でも…チケット代くらいは…」
「いいの。このくらい恰好付けさせて?それに、俺の歩調に合わせてくれてたからちょっと疲れたんじゃないかい?少しだけだけど呼吸が乱れてるからね。休憩してて」
その言葉に何か気付いたのか、はっ、となったキョーコは、逡巡した後、大人しく指示に従った。
「あ…。わかり、ました」
「気が急いてしまって早く歩き過ぎたから…すぐ戻るからね」
「はい。私はそんなに疲れたりしてないですからご心配なく。大人しくここで待ってますから」
チケット売り場に向かった八坂の背を見ながら、キョーコは先刻までの違和感に納得していた。
――― 私が、八坂さんに歩調を合わせてたんだ。
あの人は…敦賀さんは、いつも私に合わせてくれてたから…
他の女性に対してもそうなのだろうが、蓮はいつもキョーコにさりげなく自分の歩調を合わせて、そうと気づかせない自然さで隣にいてくれる。
そう考えながら、すでに蓮と八坂を比較していることに、思わずキョーコは苦笑した。
『初デート』 と言われたら、普通はそこで微笑むか頬を染める行動に出るだろう。
だが、キョーコはその時ですら、隣にいるのが蓮で、これが初デートだったら…と心のどこかで思っていた。
――― あ~、ダメダメ!今日は八坂さんが私の為に休みを使ってくれて、おまけに私の役者としての経験として役に立つだろうから、って付き合ってくれてるんだから!
「お待たせ…って、大丈夫かい?頭が痛い?」
自分の考えを振り払おうと首を振ったキョーコに、八坂が心配そうに尋ねる。
「ひゃっ!い、いえ、大丈夫!ちょっと考え事してて…」
八坂の行動を蓮と比較していた、とはさすがに言えず、キョーコは曖昧に言葉を濁した。
「ふぅん?なら、良いんだけど。何かあったら早く言ってね。 医者なのに、『隣にいて気付かなかったのか!』 って院長にどやされるよ」
そう言ってチケット差し出してきた八坂に、何だか全て見透かされているような気がして、小さく「はい」と苦笑してチケットを受け取るキョーコだった。
つづく