≪ご案内≫この話は魔人様のリク罠ドボンで書き始めたお話です。

  自分に楽しく、(←汗)のんびり進めていきますので、お時間がございましたらぜひどうぞ~v






■□■□■□■□■□

輝きを放って開き始める花

その輝きを目にすれば

誰もが心を奪われる・・・



魅惑の花 4



 鳴り止まない拍手とともに幕を降ろした舞台は、評判に違わず素晴らしいものであった。観る前に色々勉強したキョーコも、さすがに本物を目の前にして言葉を失くしていた。芸に関わる仕事をしているからだけではなく、素人でもわかるこの舞台の凄さは言葉にしがたいものがある。


 舞台に感動して気分が高揚したまま、しばらく席を立てないでいたキョーコであったが、そこに声をかけてくる者がいた。

 何だろうとそちらを見たキョーコは、その人物が誰かわかるや思わず立ち上がって一礼した。


「本日は、このような素晴らしい舞台を観られる機会をいただき、本当にありがとうございました!」

「あぁ、そんなに畏まらないでくれないか、キョーコちゃん。いや、今は京子ちゃんと呼ぶ方がいいのかな?」


 キョーコに声をかけてきたのは、この歌舞伎の舞台を観に来た観客、ではなく、舞台に関わる側だとわかる出で立ちの初老の男性。にこにこと笑うその優しそうな笑顔に、キョーコも思わず微笑み返す。


「あ、それはどちらでも構いません。ほかならぬ樫山さんですし」

「おや、これは嬉しい言葉をもらえたね。君の一ファンとしては嬉しい限りだよ」

「恐れ多いです!樫山さんほどの方に、そのように言っていただけるなんて」


 焦るキョーコを見て、ははは、と楽しそうに笑う樫山に、周囲に控えていた同じ舞台の関係者が驚きの視線を向ける。その様子に気付いたキョーコが思わず首を傾げると、樫山は少し気まずそうに肩を竦めた。


「気にしないでくれたまえ。私の存在は、ここにいる関係者にとっては怖いものらしいのでね」

「怖い、ですか??私と同じで恐れ多いだけではないのでしょうか?…あ!わかりました。私ごときがお話しさせていただいていることに、きっと皆さん驚かれているんですね。すみません、立場もわきまえずに…」


 恐縮するキョーコに、樫山が困ったように首を振る。


「それこそ京子ちゃんの勘違いだから心配いらないよ。…京子ちゃんは本当に今どき珍しい、礼儀正しいいい子だね」

「えっ、そ、そんなことありません」

「あぁ、そうか。成人した女性に向って 『いい子』 はないね。これは失礼した。素敵な女性だというべきだったね」

「/// お、恐れ入ります…」


 褒められることに未だ慣れないキョーコは、どうしたらいいのか分からず恐縮するばかりだが、樫山の 『素敵な女性』 という言葉に至っては、もう顔を赤くして小さくなるしかなかった。それを見てまた樫山が穏やかに笑みを浮かべる。

 そんなやり取りの後、二人は静かに客席を後にして楽屋へと向かって行った。

 キョーコは全くもって気付いていないが、この二人のやり取りは静かに遠巻きにではあるが、樫山を知る舞台関係者が固唾を呑んで見守っていた。

「今の…見たか?」

「あぁ。あの樫山さんがあんなに笑ってるの、随分久しぶりに見たよ」

「相手の着物美人…あれ、ひょっとして京子、だったよな」

「やっぱり?…じゃぁ、あの噂は」

「間違いないんじゃないのか?」

「龍之助もとうとう年貢の納め時か?」

「わからんが…樫山さんが動くってことは、相当本気だろう?」

「どっちかっていうと、樫山さんの方が本腰入れてるっぽいしな」

 さわさわと話す声は、当然その二人には届くことはない。

 二人が楽屋へ向かうのをしばらく見送っていた者たちも、やがてそれぞれの持ち場の仕事へと戻って行った。



 舞台の終わった後の楽屋は、それはそれはにぎやかしい。

 舞台の裏方の人だけでなく、各々の楽屋に向う役者、その道中に挨拶を交わす後援会の人々。全て今日の舞台も盛況のうちに終わったことを示すように、皆明るい表情をしている。

 キョーコが来ているこの楽屋裏。それは、今歌舞伎界で一番人気でチケットが最も取りにくいとされている舞台のそれであった。

 にぎやかで明るいざわめきの中、キョーコは緊張の面持ちで、今日の舞台の主役である役者の控室へと樫山の後に付いてやってきた。

 そして、今日の舞台の主役である役者 『相馬龍之助』 がキョーコの来訪を目にするや、嬉しそうに笑顔で楽屋に招き入れた。


「これはこれは!よく来てくださいましたね、京子さん」

「あっ、あのっ。今日はご招待いただき、本当にありがとうございました」


 もちろん、この招待には理由がある。

 龍之助とキョーコを案内してきた樫山。この二人の、これはある計画でもあった。

 それは 『京子を梨園の嫁として迎える』 というもの。


 その計画は、今まさに幕をあげようとしていた。

 


つづく


゚・*:.。..。.:*・゚゚・*:.。..。.:*・゚


何故だかあんまりさくさくと進まないのですが、ひとまずこの程度のペースになりそうです。

歌舞伎などの世界に関して表現の不適切等々あるかもしれませんが、その辺りはご容赦くださいませ~あせる




web拍手 by FC2