暑い夏休みもあと1週間ですね~。

嬉しい様な残念なような…何とも言えない複雑な心境です。

いや、通学とかで道が混雑するとね~、のんびり出勤もできないですし。


ん?意外と夏休み恩恵受けてるんじゃないですか?苦笑


ま、ともかく。


あちこちで楽しい企画やってるので、読み専に戻りそうな今日この頃ですが、何とか『動物園~』を予定通りUPです。


あと1話~と言ってからが長かったですよねあせる


今度こそ本当に終わりですので、よろしければ以下からどうぞ~。














動物園に行こう! 8

~楽しい時間は光のごとく ・ 後編~



 そうして、昼からの撮影も順調に進み、二人はすっかりこの動物園を気に入り楽しんでいた。

 だが、順調に進む撮影は、キョーコたちの楽しい時間の終わりを指し示す。

 ふ、と歩みを止めたキョーコに、蓮も立ち止まって視線を向けた。

 キョーコは、一歩分前にいる蓮を引き留めるように繋いでいる右手に軽く力を込める。


「あと少し…なんですね。何だかそれがとても残念です」

「楽しい時間ほどあっという間に過ぎるよね。キョーコは?」

「同感です。でも、仕方ないですよね」


 寂しげに笑みを作るキョーコを抱きしめたい衝動に駆られる。が、そこはまだ仕事中。蓮はキョーコに向けて繋いでいない側の手を伸ばしかけたがそれを引いて、ふと思い立ったように繋いでいた方の手を離すとそのままキョーコの肩に手を回した。

 互いの腕の距離がなくなり、ぴったりと寄り添う形になって、キョーコは戸惑いの色を隠せずに蓮を伺い見る。


「え?あ、あの?」

「…あと少ししか時間がないんだ。せっかくだからこうして歩きたい。だめかな?」

「……は、い」


 残りの時間を惜しむように、ゆったりと、同じ歩調で目的の場所まで歩く二人は、どこから見ても恋人という関係にしか見えない。
 スタッフは本当にこれが演技なのかを疑うほど二人の様子は自然で、そしてこの時間の終わりを惜しむ切なさがひしひしと伝わってくるのを感じていた。



 そうして最後のレポートも終え、監督のカットがかかる。

 

 ――― 終わっちゃった…


 肩に乗せられた蓮の手は、この合図とともに離れていくだろう。

 そう思って心もち俯き残念に思う。

 と。


 ――― 残念って何っ!私、今何を馬鹿なことを考えてたの?


 恋人同士はあくまでこの撮影の設定。

 それを本当のことのように思い、あまつさえこの状況を惜しむようなことを考えるとは愚かしいこと甚だしい。そう思って軽く頭を振る。


「?どうしたのキョーコ?」

「い、いえ何でも…??」


 ――― あれ?


 手が、離れていかない…。

 不思議に思って見上げたそこには、未だ恋人の顔を崩さない優しく自分を見つめる瞳。

 そして、自分を名前で呼ぶ声。


 ――― そういえば…途中から 『京子』 じゃなくてキョーコ、って…


「楽しかったね」

「は…い。あのっ…」


 この肩に置かれた手は何なのか、芸名でない名前を呼んだのは何故なのか。問いたい気持ちはあれどもどう切り出せばいいのか分からず口ごもる。

 それを見た蓮はふ、と口角を上げて何かを画策しているのがわかる笑みを見せた。


「このまま帰ろうか、俺のマンションまで」

「んなっ!ななな何をっ!」


 こんなことを聞かれて周りが誤解でもしたら大変!とキョーコが辺りを慌てて見渡せば、唖然としたスタッフ一同と社の姿が目に入る。

 が、次の瞬間まるで何事もなかったかのように皆視線を逸らして黙々と自分の仕事に戻る。

 ただ一人、遠いところを見ているような社が気になったものの、その視界が蓮の手によってくるりと向きを変えられて、目の前の蓮の顔をまじまじと見てしまう。


「俺以外を見るのはいただけないな。…俺だけを見てて」

「つ、敦賀さん?」

「違うだろ、キョーコ。〝蓮”、だよ」

「え…んんっ!!」


 触れて行ったのはほんの一瞬。けれど、キョーコの思考を止めるにはそれで充分だった。


 かすめるように、それでも確実に重ねられたそれ。


 ――― え?今…私、キス…された?


 目の前にあるのは今日一日見つめてきたどの顔とも違う。その瞳の奥に炎を灯した見知らぬ 『男』 の顔。


「先に言っておくよ。演技なんかじゃないから」

「……………」


 何も言えずに、まるで酸欠の金魚のように口をぱくぱくさせていたキョーコと、それを静かに見つめる蓮。

 そのまま、再びその顔が近づいてくるのをキョーコは呆然としながら、でも自然と目を閉じながら待ち受ける。

 が、その時。冷静な声が二人の意識を現実に戻した。


「お~い、蓮。そろそろ俺のガードも限界だぞ。それ以上はここではNGだからな」


 いつの間にか二人を背に隠すような形で立つ社からかかった声。

 キョーコはあまりの恥ずかしさにその場にへなへなとへたり込み、そのまま立ち上がれなくなってしまった。

 蓮は、じとーっと物言いたげに自分を見る社に苦笑をもらしつつ、傍らでへたり込んでしまったキョーコのひざ裏に手を差し入れてそのまま抱き上げた。


「あひゃぁ~っっ!!お、降ろしてくださぁ~いっっ!」


 あわててキョーコはじたばたするものの、全く蓮は聞く耳を持たない。


「そんな足が立たない状態でどうするって言うんだい?大人しく俺に運ばれなさい♪」

「うぅ~、どんな罰ゲームなんですかこれぇ!明日から私、怖くて一人で外を歩けないじゃないですか~!」

「大丈夫。俺がそんなことにはさせないよ。さ、監督に挨拶して帰ろう。危ないからもう大人しくするようにね」

「む~り~で~す~っっ!」


 そんな恋人のやり取り…にしてはほのぼのしすぎて少しも艶っぽくない様子で近づく二人に監督は苦笑する。


「おつかれさん。おかげでいいものが撮れたよ。…で、報道規制はどうするんだい?」

「おつかれさまでした。このことなら俺は…特に」

「何を言ってるんですか!しなきゃダメに決まってるじゃないですか!敦賀さんの輝かしい経歴に傷が・・むぐぐ~!」


 蓮に向って必死に訴えるキョーコを、抱き上げている自分の胸に押し付けてその言葉を塞ぐ。


「こらこら。最初に挨拶、だろう?文句はそれから。はい、どうぞ」

「ぶはっ!…そ、それは確かにそうですね。だから降ろして下さい」

「だめ。監督、こんな状況で申し訳ないですが、キョーコはどうやら足に力が入らないみたいで」

「あぁ、気にしないから。お疲れだったね。京子くん。そうそう、あとお弁当のお裾分けもありがとう。美味しくいただいたよ。人数の少ないスタッフだったけど、君たちの分を除いてもあれだけの量だ。大変だっただろう?」

「あっ、いえ。本当にお疲れ様でした。それに、お弁当については残りもののほんのちょっとずつのお裾分けになってしまって申し訳なかったです。お口に合いましたでしょうか?」

「俺も含め、スタッフ一同感動してたよ。僅かな量でも争奪戦が起きたくらいだし。独身者は君のような彼女がほしいってさ。女性スタッフまでそんなこと言ってたぞ」


 ははは、と笑う監督にキョーコもふわりと笑う。それを見届けて、蓮は再び監督に一礼をして帰路につこうと足を踏み出した。

 そのすれ違いざまに監督から、二人だけに聞こえる声で告げられた。


「頑張れよ。今日は本当にいい顔だった。嘘のない、な…」


 キョーコは 「?」 となっていたが、蓮は苦笑しながら 「ありがとうございます」 とだけ返した。

 歩き去る後ろで監督と社がなにやら話しをしている気配がする。

 おそらくは、LMEの方針として採用できるのかどうかを話し合っているのだろう。

 きっと特に規制をかける必要はないと答えることだろう。何しろこの企画は社長の企みから始まったものだ。却下どころか、むしろノーカット版で撮ったものを寄越すように請求することが予測されるくらいで、心配ご無用といった所だ。

 あれが放送される前に会見を開いた方が、『説明は放送を見てからにしてくれ』 と、番宣ができるかな?などと考えながら車に向かって、てくてくと歩いていると、不意に蓮の胸にキョーコの頭がこてん、とよりかかってきた。


「…?キョーコ?」


 今日何度目になるだろう。愛しい名前をさりげなく呼ぶのは。キョーコも蓮が意識して呼び方を変えたことにはうっすら気付いていたようだったが、それを聞き返してくることはなかった。それに気を良くしてそのまま呼び方を改めないでいたのだが…。

 そんな蓮の心中を知る由もない腕の中のキョーコは、安心しきった顔でまどろみの海へと船出していた。


「…これは、どっちにとればいいのかなぁ」


 男として認識されていないが故の安心か。それとも頼れる男としての安心なのか。

 もしくは…そのどちらでもなく。

 何をされても容認できる、自分と同じ思いを持つもつ故の態度なのか。


 ――― 願わくば、それであってほしいものだけど…ね


「わかってる?君が今いる場所は、決して安全じゃないんだよ?」


 そう言いながらも、こうして自分にその身を委ねてくれる事実が嬉しくて、その喜びは蓮の欲を凌駕する。


「…ん、楽し、かったですね…ぇ。動物、いっぱい…可愛い……」


 問いかけとは全く違う返答をキョーコが返すのに、寝ているのだから当たり前なのだが、これは自分と同じ思いとは程遠いな、と蓮は苦笑する。


「そうだね。俺も、本当に楽しかったよ。また…来よう。今度は本当のデートで、ね」


 寝てる間で卑怯かな、と思いつつ、ゆっくり降ろした車のシートで未だすやすや眠るキョーコのやわらかな唇に、先ほどよりもしっかりと蓮は自らの唇をかさねた。




 楽しい、嬉しい時間ほどあっという間に過ぎ去る。

 動物園での二人の行動が、キョーコにとって楽しいものであったように、蓮にとっても今日の1日はあっという間だった。

 帰り道、社に散々説教される時間さえあっという間に感じるほどで、説教していた社が最後には呆れかえっていたくらいだった。




 君と一緒、というのが条件だけど、

 これだけ楽しい思い出を作れるのなら。

 

 仕事を頑張って時間を作ろう。

 そしてまた一緒に、動物園に行こう!







おわり




゚・*:.。..。.:*・゚゚・*:.。..。.:*・゚

と、いうわけで、夏なのに暑苦しい話になって恐縮でした。


蓮に最後「動物園にもう一度行こう」、と言わせたくてこんな展開になりました。

本当はキョーコと一緒にはしゃぎまくって意図的にではなく、「キョーコ」と呼ばせたかったのですが、どうもうちの蓮サマは、意図的でないと動けないようです。(←いわゆるヘタレ、ですね~)


長い話になってしまいましたが、またご意見、ご感想いただければ幸いです。


それでは、また次の更新で~vv





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