久しぶりにCMもの、です。
前回のCMシリーズ「赤と青」が思いのほか好評だったので、今回どう展開させようか迷いましたが、前回は前回。今回はまた全く違う話、と思っていただけたら幸いです。
(今後どうしていくかは別として(苦笑))
それでは、以下からスタートです。
つけたくなる色
盗みたくなる、唇
それは…色をつけた
俺だけの、唇
Color
~黄金(きん)のため息~
クラシカルな室内に置かれたマホガニーのアンティークの円卓。
その円卓の上にシャンパンゴールドの細長い小さな円筒が置かれている。
それを優雅な手つきでスッと取り上げたのは一人のダークスーツに身を包んだ男性。
彼は、取り上げたその円筒から、まるでマジックでも見せるかのように滑らかな動きで蓋をはずす。
外した蓋だけをもとの円卓の上にそっと置くと、彼はそのまま目的の場所へと歩を進めた。
向かう先には、円卓と同じ素材で作られたアンティークの椅子。
そこに座る女性の後ろ姿に向って彼は近寄る。
彼女が彼に気付いて振り返ろうとする前に、その彼女の前へと回り込みその動きを止めた。
彼の名を呼ぼうとする女性を唇に指を当てる仕草で黙るように促し、彼はその手に持った円筒を彼女に見せるようにして円筒の下の方を回した。
現れたのは美しい、滑らかな色合いのルージュ。
『 つけたくなる、色 』
彼はそっと彼女の頤を、軽く握った左手で持ち上げて右手に持ったそのルージュを近付けた。
彼女のふっくりとした形の良い唇に引かれるルージュの色は、その肌の色と絶妙なバランスで艶めかしく光り、彼の目が満足げに、そして妖艶に笑みをたたえる。
その唇を見つめて彼は自らを落ち着かせるように、ふっ、と小さく息をついた。
『 盗みたくなる、唇 』
そして、ゆっくりとその唇に自らの唇を寄せる。
『 それは…色をつけた
俺だけの、唇 』
重なる二人の影を背景に、円卓の上にあるシャンパンゴールドが光を受けてきらりと輝いた。
『この秋、新色のリップが貴女を彩る…』
◇・◇・◇・◇・◇・◇
「あーっ!これこれ!このCM、高聖堂の新しいリップ!」
「いいよね~、私も蓮にリップつけてほしい~!!」
「私は蓮に唇盗んでほしい~っ」
「あっ!何よ!私だって!!」
街頭スクリーンの巨大な画面に流れるCM。
そのナレーションと、それをささやく蓮の姿にうっとりする町ゆく女性たち。
僅か15秒たらずのCM世界に引き込まれている彼女たちの見つめる先は、LME看板俳優こと敦賀蓮が、化粧品メーカー、高聖堂から先ごろ発表された新色リップを手に持つ姿であった。
「ね、ね、あれ、って本当にしてるのかな~?」
「あ、何かね、噂だとあれのロングバージョンがもうじきオンエアされるんだって!」
「え?じゃぁ、あの相手も、実際にキスしてるかもわかる、ってこと?」
「らしいよ~。楽しみなような見たくないような…」
「何だかフクザツよねぇ~」
「………とかいう噂が巷では流れているらしいぞ」
「ど…どどどうするんですかぁぁっ!あれっ、ロングバージョンも顔がはっきり映ってないからそうそう誰かは分からないって監督は仰ってましたけど、もしもバレたら私、もう二度とお日様の下を歩けないじゃないですか~っ!」
道行く人々が街頭の巨大スクリーンを見上げている頃。
LMEの社長室に呼ばれていた件のCM対象者二人が部屋の主、ローリーと対峙する形で並び、ソファーに座っていた。
「おおげさだなぁ、最上さんは」
「敦賀さんが無自覚すぎるんです!! あなたどれだけ女性に人気があると思ってるんですかぁぁっ」
ぶわっ、と涙をあふれさせ、おいおいと目の前のローテーブルに突っ伏して泣くキョーコに、からからと対照的な笑いを浮かべる蓮。
二人の様子を見てさすがにローリーもあきれ気味に苦笑を浮かべる。
「…まぁ、最上君の言葉は確かに少し大げさな気がしないでもないが、お前も少し考えろや、蓮」
「考えろ、と言われましてもねぇ。黒崎監督からは 『自由にやれ』 と言われましたし…一発OKでしたよ?」
その時の様子をこんな感じで、と説明する蓮。
それは、黒崎の性格を知るものであれば、確かに、と納得するものであった。
-・-・-・-・-・-・-・
「『そのリップをつけている者は、周りの全てを魅了する』 簡単に言っちまえば今回のコンセプトはそれだ。で、俺はいちいち指図する気はねぇ。業界でトップを張る 『敦賀蓮』 としての感性に期待してる」
「じゃぁ、このコンテは?」
「フン、あくまで一事例、ってとこだ。色々撮って、俺の感性でさらに磨き上げる。俺の感性に応えられるモノでなければたとえどれだけお前さんが役者として有名だろうが切り捨てる。いいな」
言葉は横柄で厳しい物言いである。だが、それは自分自身の仕事に対する誇りを持つが故。それがわかるだけに、蓮としては叩きつけられた挑戦状に役者として応えない訳にはいかない。
周りがこのやり取りにヒヤヒヤしながら見つめている中、蓮は黒崎に向って艶然と微笑んだ。
「…それなら、全てのテイクにOKを出してもらえるよう演じてみせないといけないですね」
撮る側と撮られる側。
それぞれの立場で通じるものがあったのだろう。互いの火花を散らしながらのそのやり取りは、少なくとも互いの実力を認めているからこそ。
妥協や手抜きを許さない、仕事に対しての姿勢が同じと言う点において、この二人はひどく似た者同士と言える。
蓮の返答に迷いがなく、撮るものに対する自信を見た黒崎もニヤリと笑う。
「そのセリフ、忘れんじゃねーぞ」
-・-・-・-・-・-・-・
「…ふん、黒崎君らしい、と言えばらしいな。で、そんな彼の要求にこたえた結果があのCM、というわけか」
「そうです。…ところで社長。俺と最上さんをここへ呼んだ理由、そろそろ教えてもらえないですかね」
蓮のその言葉に、キョーコも机に突っ伏してゾンビになっている場合ではない、と起き上がった。
「こんな説明をさせるために呼んだ訳ではないんでしょう?」
何を仕掛けられているのか、と身構える蓮とキョーコに対して、ローリーはあっさりと普通にその内容を告げた。
「お、察しがいいな。今回のCMでの評価は上々だ。で、黒崎君からもう1件オファーが入った。確認したら、お前のスケジュールと最上君のスケジュールを合わせることが何とかなりそうだったから受けておいたぞ」
「「……は?」」
キョーコと蓮、それぞれの思惑で返事をしたわけではあるが、奇しくも同じタイミングで、しかも疑問を投げかけた返答となったことにローリーは眉を顰める。
「お前らそんなところまで仲良しさんなのか?もう少し察しがいいかと思っていたが…」
ぶつぶつと何か言っているローリーに耐えかねたように蓮が大きくため息をついた。
「社長!スケジュール調整って…社さんはそんなこと一言も…」
「そりゃそうだ。ついさっき連絡したからな。あいつ、泣いて喜んでたぞ」
「…断れない立場に泣けてただけなんじゃ…」
「阿呆。最初はそうだったかもしれんがな。条件言ったら飛び跳ねん勢いで承諾したぞ」
「念のため、聞いておきます。その条件とやらは…」
「お前の予想通り、だと思うがな」
「………予想通り、ですか?」
あの社が、蓮の隙のないスケジュールを調整してまでそれをくいこませようとしているからには何か理由があるはずだ。ましてや、その条件とやらに飛びついた、となれば…。
スケジュール管理jは社に任せているとはいえ、大きな予定はある程度蓮も知らされている。
思い当たるスケジュールを片っ端から頭の中でチェックしながら一つの答えに蓮は辿り着いた。
「…もしや、とは思いますが」
「おう、言ってみろや」
蓮は隣で呆然となっているキョーコをちらりと見遣ってからローリーに視線を戻すと、その予想を口にした。
「俺の専属契約…R・マンディの関係、ですか」
その言葉ににやり、としたローリーに蓮はやはり、と再びのため息をつくのであった。
つづく
゚・*:.。..。.:*・゚゚・*:.。..。.:*・゚
あはは~、つ、続いちゃいます。
短編にするつもりでしたが…やっぱり無理でした
手直し時間がなかったので、何か変なところとかあったらこっそりでもどうどうとでもどちらでもいいので教えて下さ~い←人に頼りすぎ