みなさんこんにちは~。
そして
暑中お見舞い申し上げます
世間はすっかり夏休み。…だとは思うのですが、仕事を持つ親としては頭の痛い毎日です。
違うか。ご家庭の親御さんたちはなおさら頭が痛いですよね。
丸一日子どもがいる、っていうことは生活リズムが完全に変わりますものね。
さておき。そんな色々な人の生活パターンが変化しているこの夏休み。
楽しく過ごす方法を考えながら過ごしていきたいと思います。
ま、それもこれもまずは健康管理から。というところでしょうか。
暑さに負けず、楽しく過ごせるといいですね。
そして、このブログに遊びに来ていただいた方たちが少しでも楽しんでいってくれれば幸いです。
では、皆様。よろしければこの後もお付き合いくださいませ
エンドレス・ワルツ 4
周りの注目が集まる中、蓮が徐にキョーコへと歩み寄り、恭しくその右手をとると軽く手の甲にキスを落とす。
あまりにも自然なその動作に一瞬呆けてしまったキョーコだったが、周囲の視線に、はっ!と我に返ると一気に赤面して慌ててその手を引っ込めようとした。
「つつつ、敦賀さんっ!てて、手をっ」
だが、蓮はそれを全く意に介す様子もなく、キョーコの願いとは反対にさらに手をぐっと握りこみ、放す意思がないことをあからさまに伝えていた。
「黙っていなくなるからどこへ行ったのか心配したよ。俺のパートナーだって自覚、ある?」
妖艶な空気を纏ってじっと見つめられたキョーコは、もうすでにパニックまっただ中であった。
―― なに、なんなの?これは新手のイジメ?
“ぱーとなー”って何?どういうこと?
私にいったい何をしろと?
いいえ、その前に私がいったい何をしたと?
完全にキョーコは思考のぐるぐる渦(…つるがのるつぼ)にはまってしまっていた。
「ぱ、ぱぱ、ぱーとなぁ、っていうのはえ、っとなんのことで?」
「やだな。そのままの正しい意味にとってくれればいいんだよ。さっきあっちのテーブルで他の方たちに紹介しただろう?」
確かに、珍しく女性と一緒にいる蓮に色々な人が声をかけ、そのたびに蓮はキョーコを大切なパートナーなんです、と紹介して回っていた。だが、キョーコにしてみれば、自分が人よけの盾のつもりでいたため、その言葉はまったくもってキョーコの中に留まらず、素通りしてしまっていたのだ。
「私の役目はもう終わってますよね?」
「どうして?パートナーなんだから、この後も一緒にいてくれなきゃ」
あくまで自分が煩わしい他の女性客避けであると思っているキョーコには、蓮の行動の意味が読み取れない。
「ですから、それがわかりません。先輩のお言葉とあらばいくらでもお付き合いしますけど、さっきからその…他の方々の誤解を受けるようなことをおっしゃって…」
「他の人の誤解って…。俺は君をパートナーに選んで自慢したかったのに、それが君の不快を招いてしまった、ってこと?」
「自慢って何ですか!また誤解が生じるじゃないですか」
「俺は本気で言ってるんだよ」
「だから、それが誤解を生むと申し上げているんです」
どこまでも平行線で、なかなか終わりそうにないその問答が、いつまでも静観されている訳もない。
徐々に野次馬も集まり始め、二人を取り囲む大きな人だかりとなってしまっていた。
さすがにキョーコも、これ以上ここで不毛な問答を繰り返すことは決して蓮の為にはならないことを理解している。
居心地悪く周囲を気にする気配を見せるキョーコに、蓮はそれまでの一見穏やかな雰囲気を他のほとんどの人が気付かない程度に変化させた。
蓮の言葉に必死で否定を繰り返すキョーコに、徐々に蓮の声のトーンが落ちてくる。
「…そう。俺は君のことをパートナーとしてみているのに、君はあくまでそれが事実とは認めない、そういうことなんだね」
「いや、あの、事実とかそんな大仰なことじゃなく、ですね。…あの、敦賀さん?」
そして満ちる、闇の国の気配。キョーコが気付いた時にはにこやかに笑っている蓮のその眼は確実にどっかりと腰をおろして座っていた。
「あの、ええと、………」
こうなった蓮にどう対処すべきか迷い、いつもの習慣で頼りになるお兄さん ―― 社を見遣るが、明らかに白旗を振っていた。
「…どこ、見てるのかな?」
「(…ヒッ!)い、いえ。そ、それより敦賀さん、このままだと敦賀さんの役者としてのイメージが…」
「…そんなもの、どうでもいい」
あまりにもきっぱり言い切る蓮に、最後の望みをかけてキョーコは蓮に尋ねた。
「ひょっとして、酔っていらっしゃいます?」
だが、その質問が来るや、蓮は口角をすっと上げて凄絶な色気を放ちながらにやりと笑って見せた。
「まさか。…あぁ、でもこの後なら酔えるかな」
「……??」
蓮の否定なのか肯定なのか分からない返事に、嫌な予感がキョーコの背中を思いっきり小突いて駆け上がっていく。
蓮はその笑みを崩さないまますっとキョーコの腰を引き寄せた。
「君が、酔わせてくれるなら、ね」
「へっ?……えっと、あの」
キョーコがしどろもどろに返事をどうしようか迷っていると、二人を取り囲んだ周囲からとうとう声が上がった。
「敦賀さん!それはどういう意味で?」
当然と言えば当然だが、招待客の中にはプレスの人材も混ざっていたらしい。特ダネとばかりに食らいついてきたその質問に蓮が答えるよりも早く、キョーコの声が割り込んだ。
「敦賀さんが私にお酒を勧めるわけありません!私、飲めないですけどお酌する程度のことはできますから!運転でお酒を飲めないから後で、って意味ですよねっ!」
「…………」
「…………」
暫しの沈黙がその場を支配する。
キョーコが心配したのは、自分のせいで進められてもいないアルコールを蓮が飲ませようとしていると勘違いされることだった。
あるものは、キョーコの純粋さに感動して。
あるものは、全く意味が通じていない蓮に同情して。
両者を知るものは、結局こうなるのかと諦めの境地に至って。
「ぷっ…あははははははっ!」
「つ、敦賀さん?」
たまらず吹き出したのは、他の誰でもない。キョーコの目の前の蓮であった。
「ありがとう、俺がこの場ではアルコールを飲めないことを気遣ってくれて。…じゃぁ、遠慮なくこの後の予約をさせてもらっていいかな?」
「はいっ!どーんとお任せください」
「「「えええええぇぇぇっっ!!」」」
キョーコのあまりに無防備な返事に、一瞬蓮を含め周囲の人々も唖然として固まる。が、いち早く復活した蓮はそれはそれは嬉しそうにほほ笑んだ。
そしてこの場にいて、蓮にオオカミの耳がぴょこんと生え、尻尾がぶんぶん振られていたことに気付かなかったのは当然キョーコだけであった。
そして、そのことを誰かに指摘される前に、とそそくさと会場を後にした蓮とキョーコが翌日のスポーツ新聞の一面に躍り出たことは言うまでもない。
===お・ま・け===
「…本当にお酌するだけだと思ったの?」
「?え?だって私が敦賀さんを酔わせる、っていったらこれしかないじゃないですか。あと、酔うって言ったら乗り物に酔うとか…でも私は運転できないからこれは違いますよね。そしたらこれしか思いつきませんが…」
マンションに帰った二人が最初にした会話がここから始まり、結局会場での不毛なやり取りがしばらく続いたのであった。
――― が、ギャラリーのない自宅で蓮がその後どんな行動に出たのかは、皆さんの想像におまかせする…。
おわり
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
蓮とキョーコの平行線な会話。
それが今回のタイトルの出所です。
優雅なイメージを持った方、ごめんなさい。所詮はこの程度の域を出ませんでした
このドボンの仕掛け人、魔人こと sei 様に申し上げておきたいと思います。
エンドレスな不毛会話はどこまでも続いてしまうので、ここでオチをつけましたが、こんな感じで納得していただけましたでしょうか…。
勝手ながら、この作品はドボンを仕掛けてくださったsei様へ捧げます。
返品は可ですので(苦笑)
読んで下さいました他の方々も、どうもありがとうございました。
また他の作品にもお付き合いいただけたら幸いです。
感想等ございましたら、ぜひ一言お願いしますv