今週は何だか長い1週間だった気がします。

いや、真面目な話、今週も何かとばったばったしてまして。

(そんなんばっかやなぁ~はは
待ってました!3連休!だったのに、あっという間に1日は過ぎ。

これではイカン!とやる気を出そうにも疲労でPCの前で居眠りしている始末…汗

そんな状態で仕上げたのでいまいち心配ですが、楽しんでいただけたら幸いです。


それでは、以下からスタートです。











妖 -あやかし- 恋奇譚 11

  ~帰還の章~





「・・・ま、姫様、しっかりなさって!」


 その声にキョーコがゆうるりと目を開ける。視界には、心配そうに、だが、ほっと安堵の表情で覗き込む奏江の姿が映った。


「……?私…?」

「詮議の最中にあの馬鹿に憑りついていたモノが暴れて気を失われたそうです。ここへ呼ばれた時には私、生きた心地がしませんでしたわ…」


 瞳を潤ませる奏江に、キョーコは申し訳なさそうに眉根を寄せる。


「ごめんなさい…心配かけて」


 キョーコの言葉に奏江はふるふると頭を振り、にっこりと笑って見せた。それを見て安堵したこともあってか、不意に周囲の喧騒がキョーコの耳に飛び込んできた。


「…様は…」 「…!薬師はまだか!」 「悪霊の仕業で……」 「まだ…」


 ざわつくその色々な言葉の中に、不意に 「大納言様が」 という言葉が混ざって聞こえた。と、キョーコはがばっと起き上がり辺りを見渡した。御簾の向こうにある人だかりと、あわただしく動き回る人の様子が飛び込んでくる。


「あ…、れ…蓮…さま…」


 キョーコがその人だかりの向こうにいるに蓮がいることを察したその時、それを見ていたかのようにすっと晴明が立ちあがりキョーコを手招いた。


「ま!なんですの!姫様に向かって手招くなどと…」


 奏江がそのその晴明の行動に憤慨している横で、キョーコはふらりと立ち上がると、


「あの方が、安倍晴明様よ」


そういって御簾の向こうへと歩き出した。


「まったく…って、えええ!あの方が高名な陰陽師の…と、姫様!どちらへっ!?」

「心配ないわ。晴明様が呼んでいらっしゃるの。あの方の…蓮様のところへ。奏江はここで、待っていて」

「姫様!」

「今度は見えるところにいるから、大丈夫。お願い、ね」

「…わかりました。何で呼ばれているか分かりませんが、色々な方々が御簾の外にはいらっしゃいます。お気をつけて」


 キョーコは返事の代わりにコクリと頷くと、すっと姿勢を正して御簾の外へと出た。

 一瞬の静寂の後、ざわめきの色が変わる。


「おい、あれは…」

「鬼姫、なのでは?」

「なぜここに?しかもあの御簾の向こうから出てみえたぞ」

「やはり、噂は本当だったのか?」

「帝が…?」


 皆の好奇の目と言葉に晒されても、今のキョーコには揺らぐものは何もない。

 その凛とした姿に、ざわめきは再び静寂へと変わった。

 蓮を取り囲んでいた者たちが、自然とキョーコに道を開く。その間を惑うことなく歩き、キョーコは蓮のもとに座った。


「お目覚めになりましたね、姫。よろしゅうございました」


 キョーコを手招いた本人、晴明は、にっこりとキョーコに微笑みかける。それだけでキョーコは入りすぎすぎていた肩の力を抜くことができた。


「晴明様、蓮様は…?」

「未だ眠られた状態です。何しろ…この方を目覚めさせられるのは貴女だけですから」

「私、が?」


 訝しげに問うキョーコに、晴明ははっきりと頷く。


「貴女だけですよ、本当に」

「…晴明様がそうおっしゃるのであれば…そうなのですね。それで、私はどうすればよいのでしょう?」


 察しの良いキョーコに晴明は改めて感心した様子でキョーコを見る。


―― これは…。ふふ、久遠はよい方に巡り逢えたな。もっとも、一筋縄ではいきそうにないが。


「姫、あの方から受け取った 『モノ』 がありますね?」


 晴明の問いにキョーコは逡巡して、ぱっとあるものを思いつく。


「はい、ございます。肌身離さず持ち歩いておりますが…これです」


 言いながら懐から大事な守り石の入った匂い袋を取り出した。それを満足そうに見遣った晴明は、身振り手振りでキョーコに指示を出す。


「そうです。それをこう…握りこんでいただいて、そう。それでもう一方の手をこう、傷にかざすようにして…目覚めるよう、念を送ってください…」

「は、はい。こう、ですか?」


 キョーコが晴明に言われたように守り石を握り、傷口に手をかざして目を閉じる。


―― お願い、目覚めて、蓮様っ!!


 周りが静寂に包まれて、その様子を見守る中。必死に祈るキョーコの閉じた目から祈りの涙が一筋、二筋と頬を伝い落ちる。

 ぽつぽつとその涙が蓮の着物に丸い小さな円を描いていったが、それはほんの僅かな間であった。

 蓮の左腕がゆっくりと持ち上がり、その手が涙を伝わせる頬にそっと触れる。


「…泣かないで…ください、姫。俺は貴女を泣かせるために背に庇ったわけではないから」


 流れ続ける涙を、蓮の手が優しく拭う。と同時に静かなざわめきが辺りに広がった。


「お目覚めになられた!」

「なんと!鬼姫は奇跡の力もお持ちか!」

「鬼ではなくて、天女なのでは?!」

「大納言卿をお助けになられたぞ!」


 周囲の言葉に、キョーコが恐る恐る目を開けると、優しく見つめる蓮と視線が合った。


「れ…蓮様ぁっ」

「キョーコ…姫」


 周囲の者たちが口々にキョーコを褒め称える声の中、一番聞きたかったその声は何よりもはっきりと聞こえた。それだけで心が一気に晴れ渡り、天にも昇る気分になる。

 キョーコは自分の涙をぬぐってくれた蓮の大きな暖かい手に、守り石を持った自分の手をそれごと重ねる。


「蓮さ…ま…。何という無茶をなさったのですか。私を庇うなどと」

「当たり前のことをしただけですよ、姫。貴女が無事でよかった」

「よくありません!蓮様がお怪我をなさってるのに!」

「……姫は本当に変わった方ですね。…会ったでしょう?この守り石を渡した 『俺』 に」

「―― !やっぱり・・・なの?でも、蓮様の時は私の記憶は抜けている、って…」

「完全、ではないけれどね。でも、俺が探していたのが姫だ、ということは守り石を通して分かったから」

「この…石が?」

「あちらの俺とこちらの俺はどちらも同じ…それを知ってもなお、俺をこっちの名で呼んでくれるとは思っていなかったな」

「…それでも、やっぱり蓮様は蓮様です」


 惑いなくそうはっきりと答えるキョーコに、蓮は久遠としての自分が昔キョーコの言葉に救われたのを思い出した。


―― あの時も、そうだった。意味はよくわかっていないまま言ったのだろうけど、純粋に久遠のことを厭わずに、久遠のもとへ来たいと言ってくれた…。あの言葉に、久遠の存在は救われたんだ。

 そして今度は俺(蓮)が、今の君の言葉に救われている…。


「…ありがとう」


 その言葉に、蓮の深い想いが入っていたことは気付かなかったものの、にこりと優しく、極上の笑みを向けられて、キョーコの心臓はこれでもかと跳ね上がった。よく考えれば、蓮の姿は常に御簾越しで離れたところから見る事ばかりだったので、こんなに近いところで見たのは初めてだったのだ。

 真っ赤になって固まるキョーコに、どうしたのかと不思議に思った蓮だが、晴明の言葉にここがどこであるのかを思い出した。


「大納言卿、姫との感動の再会はよろしいのですが、典薬頭(てんやくのかみ)がこちらに向かっております。形だけになりましょうが、ここは…」

「大事ない「いけません!」」


 蓮が面倒臭そうに晴明の言葉を返そうとすると、キョーコがぎっ!と蓮を睨みつけた。


「お怪我をなさっているのです!そのようなことを仰って、傷がひどくなったりしたら大変です!」

「…姫?そのように大事では…」

「おねがいです、蓮様。…ちゃんと診てもらってください」


 瞳を潤ませて懇願するキョーコに、蓮は思わず首を縦に振っていた。


「ふふふ、本当に良い方を見つけられたものだ」

「…何か言ったか?晴明」

「いいえ」


 周囲には聞こえない程度の小声で言った晴明の言葉に、只人ならすくみ上りそうな剣呑な視線を送り、同じく小声で返す蓮。

 しかし、晴明はその視線すら余裕の笑みをうかべてさらりと流した。


「そう、むくれないでください。では、私は主上に報告にあがります」

「…借りをつくったな、晴明」

「たまには人に借りをつくるのもよいでしょう?あぁ、宴の際にはお呼びくださいよ」

「…古狸め」

「ふふっ、それを言うなら 『狐』 の間違いでしょう?」


 内緒話はそこまで、と晴明はキョーコに視線を移した。それに気付いたキョーコがぴっと背筋を伸ばす。


「姫、じきに典薬頭が弟子たちを連れて参ります。このままここにいると色々面倒でしょうから終わるまで御簾の内に戻られませ」

「は、はいっ。では、蓮様。私もあちらに戻ります。奏江も心配していると思いますので」

「あぁ。わかった」

「では姫と私は失礼します、大納言卿。さ、参りましょうか、姫」

「はい。蓮様、失礼いたします」


 美しい所作で頭を下げて挨拶をすませ、キョーコは御簾の向こうへ入る。それを見守って晴明も典薬頭と入れ替わりに部屋を出て行った。



 典薬頭が呼ばれたものの、蓮の傷はもうほとんど塞がっている。事の次第を知らない者が見れば、軽い刺し傷はあるが、他のことが原因で単に気を失っていたくらいにしか判別できないだろう。事実、ここで起きたことに関しての詳細を知る者は皆席を外している。晴明が典薬頭を呼ばせたのも、傷を診せるためではなく、悪霊にあてられて倒れたということを印象付けるためだ。


「自ら古狐を名乗るだけある…感心するよ、本当に」

「…?何か仰いましたか?大納言様」

「いや、別に」


―― 兎にも角にも、早いところ診たてを終えて帰りたいものだな…



 小さなため息をつきながら、少々憂い顔になる蓮であった。




つづく



゚・:,。゚・:,。★゚・:,。゚・:,。☆


無事、蓮サマも帰還して復活しました。

まぁ、ちょっとひと段落ついたかな、っていう感じですかね。

まだあと蓮vs久遠が残ってますので、続いてしまいますが。

どうなるんだろう?↑コレ。Σ\( ̄ー ̄;)





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