気がついたら、前回から見事に1ヶ月。
この「カナシミ~」は手を付けておりませなんだ。
ぐだぐだ続いてきてますが、あと少しだけお付き合いいただけるとうれしいです。
では、以下からスタートです
震える君を、これ以上傷つけはしない。
ただ、笑ってくれれば…
いつものように微笑んで、傍にいて。
何も言わなくてもいい。
それでいい……。
カナシミ・ラプソディー
~その唇に・1~
そう思っていたのはほんの数刻前のことなのに。
それなのに、どうしてこんな状況になっているのだろう?
目の前には濡れた髪のまま横たわる君。
バスタオル1枚だけを纏ったあまりにも扇情的過ぎる姿。
いや、それ以前にそれすらない状況の姿を目にしてこの対処が取れたことに、ある意味『敦賀蓮』としての紳士ぶりに感謝、というところだ。
ある意味奇跡かもしれない。(社長に言わせればまたヘタレと言われそうだが…)
今でさえ、俺の理性はほんの僅かな振動ででも切れてしまいそうなのだから。
時間は、少し遡る。
病院での診察が終わりキョーコが点滴を受けている間に、必死の思いで社が調整をかけた結果。
キョーコは1週間のオフをとる事ができ、蓮も本来ならば連日睡眠時間の確保ができるかどうかという過密スケジュールを、無理やり日付変更前で帰ることができるよう調整がついた。
「恩に着ます、社さん」
「…あぁ、頼むぞ、蓮。これでもし俺の胃に何かあったらここに入院するからな~」
冗談めかしてやつれた物言いをする社に、つい苦笑が漏れた。
実際、社だからこそ出来た交渉だろうが、この短時間で行うには非常に高度な交渉術であるとしか言いようがない。蓮は、つくづくこの優秀なマネージャーが自分の味方であることに感謝する。
「無理をお願いしたのは承知です。あとは俺次第ですから、社さんの胃に穴なんて空けさせませんよ」
「まぁ、社くん。そうなった時はVIP対応で入院できるようにしておくから。なんならこの期にカメラでも飲んで行くかい?」
宮里の冗談とも本気ともつかない発言に、社と蓮が一瞬引きつる。
が、それも宮里の気遣いであることが分からない二人ではない。
「…そのお気持ちだけで結構です、院長。でも、いざという時は頼りにしてますので、よろしくお願いします」
「ははは、そうならないことを祈ってるよ。じゃ、私はこれで失礼するよ」
「ありがとうございました」
「あぁ、そうだ、宝田さん。ちょっと別件で話があるから、戻りながらいいかな?」
「ん?あぁ、わかった。社、蓮、ご苦労だったな」
蓮達にねぎらいの言葉をかけて歩き出そうとしたローリーだったが、ふとその足を止めて顔だけ蓮を振り返る。
「蓮、くれぐれも言っておくが。中途半端が一番毒だぞ。この機会にはっきりさせろや」
その言葉は先刻の宮里の忠告と相まって、蓮の胸に響く。
「期待に沿える報告ができるように、俺なりにやってみるつもりですよ」
「いい報告をまってるぞ」
歩き去るローリー達に一礼をした蓮と社。
先刻のやり取りだけで社は胃に穴が空く思いだったが、ともかく今は安堵の思いの方が勝っていた。
蓮にしてもそれは同じだったようで、二人してロビーの椅子にどさりと腰を下ろして天井を何とはなしに見上げる。
暫くの沈黙のあと、ぽつりと社が口を開いた。
「…俺にできることはこのくらいしかないが、蓮、お前は院長も言ってたように “ここから” だからな」
「ええ…。社さんの努力は無駄にはしませんよ。勿論彼女の様子を見ながら、ですけど」
「ヘタレ脱出はしてほしいけど、無茶はするなよ」
「だから彼女の様子を見ながらって…」
「その建前が壊れない事を祈ってるよ」
「……努力します」
……という会話をしていた病院内の状況から一転。
目の前の状況に、理性をどこまで保てるか定かでない現実。
こうなったのも、マンションに帰ってきて風呂にどちらが先に入るかで遠慮するキョーコに、『1週間、ここで寝泊りするのに遠慮していても仕方ないだろう?』と言ってみたが首を振るため、家主命令を発動。
“先に入る・一緒に入る” どちらかの選択!としてみた。
間違いなく即行で 『先に入る』 と返ってくるだろうと踏んだ返事は、意外にもぼふ、と赤面したキョーコの顔と、一瞬の間があった後の 「先に入らせていただきマス///」 という返事で、蓮の方が拍子抜けしたくらいだった。
そして、キョーコがバスルームに消えてから、1時間ほど過ぎた頃。
なかなか出てこないキョーコに不安を覚えて外から声をかけたが、返事がない。
風呂からは上がっていないとわかって脱衣スペースまで入るが浴室内から物音がしないため、もう一度そこから声をかけた。
「最上さん?大丈夫かい?」
けれど、全く返事はない。もしや!と手近にあったバスタオルをひっつかみ、目の前のドアを開ける。
蓮の目に、浴槽のふちにもたれかかって真っ赤にのぼせ上がっているキョーコの姿が飛び込んできた。
そこからは、自分でもよく冷静にそこまでできたと褒めてやりたい行動だった。
急いで浴槽からキョーコを引き上げ、バスタオルでくるんで抱きかかえ、ゲストルームのベッドへと運んで、手近なもので扇いで風を送る。
そうこうしているうちに徐々に蓮自身も落ち着いてきたのだが。
落ち着いてくると、今度は反対に目の前のキョーコの姿に理性の危機が訪れたのだった。
このままでは様子を見ながら努力します、と言った言葉が嘘になりかねない。
頼むから早く目覚めてくれ、と祈る蓮の思いが通じたのか、やっとキョーコの瞼がかすかに動き、ゆっくりと持ち上げられていった。
「あ…れ?私…どうして…確かお風呂に、って・・きゃぁ!」
目覚めたキョーコは、自分のいる場所が気を失う前と違う事に気付き起き上がろうとした。が、自分がバスタオル1枚を体に巻いただけの状況であることと、さらにその自分の側に蓮がいることに気付き思わず叫び声をあげてしまった。
「も、最上さん、落ち着いて!俺は何もしてないから(まだ)」←
「つ、つるが・・・さん !? え…あの…この状況は一体…」
自分がトンデモナイ姿でいることもさることながら、なぜこの姿でここ(ゲストルーム)にいて、蓮が心配そうに、でも遠慮がちに自分を見ている状況なのか合点がいかない。
理解できないのも最もであろう。
蓮ですら、この状況をどう説明したものかと悩むくらいなのだから。
「多分、湯あたりを起こしたんだと思う。意識が戻るまで熱放散させたほうがいいと思ってタオルだけにしておいたから。今水を持ってくるから、そこに置いてあるバスローブだけでも羽織っておいて」
一気にまくし立てるようにキョーコに告げると、蓮は言葉通り水を取りにキッチンへ向かった。
返事をする間もなく部屋に残されたキョーコは、呆然としつつも、言われたようにひとまず置いてあったバスローブに身を包む。
蓮のものであろうそれは、キョーコには当然大きくて足元まですっぽり隠れるドレスのようだった。
「何だか…敦賀さんに包まれているみたい…」
不思議な安堵感。しばらくその心地よさに浸っていたキョーコだが、素肌にバスローブだけという慣れない状況にはたと気付き、羞恥に一気に全身が熱くなる。
「やだ!私ったら何を言ってるの…こんなの…敦賀さんには迷惑なだけなのに」
呟きと同時に、コ・コ・コンとノックが響き、蓮が部屋に戻ってきた。
「水、持ってきたけど飲めそうかな。…顔、赤いけど、まだ暑い?気分は大丈夫かい?」
ペットボトルとコップを持って心配そうに覗き込む蓮に、更にキョーコの顔が熱くなる。
「あの…すみません。何だか私、今日はものすごく色々と敦賀さんにご迷惑おかけしてしまって…」
「迷惑じゃないよ。俺が社長と社さんに頼んで君にここにいてもらってるくらいだから」
「でも…。あ、それにシーツまでこんなに濡らしてしまっ・・て……」
そう言いながら、段々とキョーコの顔が青褪めていく。
「…?どうしたんだい?」
蓮が声をかけると、キョーコはぎ・ぎぎ・・という音が聞こえそうなほどぎこちなく首をめぐらせ、暗い表情で蓮に尋ねた。
「……つかぬことをお伺いしますが、私、お風呂に入らせていただいてから自分で上がった記憶がないのですが、もしや…」
「…あぁ、うん…。…俺が、ここまで…運んだから」
歯切れ悪く、口元を手で覆いながら少し横を向いて言う蓮に、キョーコが声にならない叫びを上げる。
「~~~!!○×△◇□っっ!な、な、なっ」
これ以上ないであろうほどに顔を赤くしたキョーコを目の端に捉えて、さすがに申し訳なく思った蓮が謝ろうとキョーコに向き直る。
「ごめ……」
「もっ、申し訳ありません~~っっ!!」
「??何で君が謝るのっ?ここは俺が謝るべきところじゃ…」
蓮が謝るより先にベッドの上で正座して土下座状態になるキョーコに、理解できない蓮が慌てふためく。
キョーコはそろりと頭を上げて、蓮に予想外の言葉を告げた。
「こんなっ、こんなお目汚しの貧相なカラダをお見せしてしまってっっ」
くらり。
一瞬蓮がめまいをおこす。
…そして沸き起こる苛立ち。
この娘(こ)はどこまでも俺を『一人の男』としては見てくれないのか。
先刻までの自分の理性との闘いは何だったのかと思うと怒りを通り越して情けなくなってくる。
だが、そんなふうに蓮が思っているとは全く考え付かなかったのだろう。
蓮があきれて怒っていると思ったキョーコは、言いにくそうにしながら言葉を続けたのだが。
蓮はその言葉に自分の先ほどまでの思いが、キョーコの心情を慮る事ができていなかった理不尽なものだったと愕然とした。
「それに…助けて…もらいましたけど、アイツに触れられた跡が残ってるこんな見苦しい・・の…を…ッ」
キョーコの本音はそこだった。
湯あたりを起こしたのも、落ちないと分かっていても何とか跡を消したくて、消せないまま蓮の前に出たくなくて。結果として長湯になったせいなのだ。
再び俯き言葉を詰まらせるキョーコ。
土下座のために綺麗にそろえていた指先が、シーツを巻き込んで力いっぱい握り込まれる。
真っ白になるまで握って震えるその手に、呆然としていた蓮がはっ、と我に返った。
『あの子が誰を必要としているか…』
宮里の言葉が頭の中で木霊して、蓮は今がそのときだと決断した。
To be continued...
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あと一歩。
あっ!引かないでくださ~い!
本当にハピエンにもっていきますからぁぁ~~!
所々に息抜き要素を入れたはずなんだけどなぁ。
一度書いたものがあまりにお笑いに走りそうだったので修正したらこうなりました。
…極端にしか書けない、ってことか