相変わらず週末更新です汗

そして、お盆は終わってしまいましたガクリ

でも、8月中には終わるように頑張りま~す苦笑

では、以下からどうぞ・・・・。









日本の夏 3


10時。富士会議室にて顔を揃えた面々は、例のジンクスをキョーコに納得させるに十分なものであった。


―――― すごい!っていうか新人に該当する人なんてほとんどいないじゃない!


まだ予定人数より若干少ない状況であったが、空席状況からしてほとんどの主要キャストはそろったことになる。

右を見ればダーク・ムーンで共演した飯塚と並ぶ実力派と呼ばれる女優。

左を見れば、渋さが売りで、だるまやのおかみさんが隠れファンだと言っていた俳優。

他もゴールデンタイムで見ない顔などほとんどない。奏江の隣を陣取る飛鷹だとて、知らない者はほとんどない有名子役だ。

そんな中で、新人に該当するのは奏江とキョーコ、あと後半の主要キャストとなるまだ不在の人物。それくらいだった。

目を丸くしつつ、期待に瞳を輝かせているキョーコに、やれやれ、と奏江は残りの空席を見つめる。

ここまでで、細かいキャストはのぞき、主要キャストはあらかた揃ったはず。と、するとあとの2席――丁度キョーコの向かいの席と、真横の席。ここが、依頼があった時点でまだキャスティングが決まっていなかった人たちの分だ。一人は新人を起用する予定で、もう一人は実力のある俳優に出演の打診中というところまでははっきりしていた。

一体誰がこの空席を埋めるのだろう…。


そして、物語のあらすじとそこに関わるキャストの紹介が始まったちょうどその時。


「失礼します。遅くなりまして申し訳ありません、アカトキの不破です」


聞き覚えのある女性の声にキョーコが硬直する。

ぎ・ぎ・ぎ…と音がしているかのような動きで入り口を見たキョーコは叫びそうになる自分と怨キョを必死で抑えていた。隣に座る奏江も驚いてはいたが、それ以上にキョーコの発する不穏な気配に気が気でない。


「ども。遅れてすみません」


本当に悪いと思っているか?とキョーコが突っ込みたくなるような一礼だけをして、さっさと指定されたキョーコの向かいの席についた尚。イラつくキョーコをよそ目に、尚はキョーコをちらりと一瞥してニヤリと口元を上げた。


そんな水面下の攻防がされているとは知らないスタッフが、先程のキャストの紹介を再開する。


「…ちょうどよかった。今回のドラマの挿入歌をお願いした不破尚さんです。そして、新開監督のたっての希望で、物語後半の『高津和也』の役をお願いすることになりました」


紹介したスタッフの視線を受けて、尚はがたんと椅子から立ち上がると、


「芝居するのは初めてのシロートです。よろしくお願いします」


と頭を軽く下げた。それにキャスト一同が一応の礼を返した後、その視線が新開へ向く。むろん、それは 『なぜ、芝居をしたことのない素人を?』 と問いただす視線。

新開から返ってきた答えは、出来上がってみればわかるさ、という至極あっさりしたものだった。

そんな監督直々の依頼があったことが後押しになっているのか、尚の態度も変わらない。


「畑違いなのはこっちも承知で受けたんだ。中途半端なことはしませんよ。全力でやらせてもらいます」


あくまで不敵に笑う尚。

一見低姿勢なようで、それでいて挑みかかるようなその態度に、他のキャスト陣から瞬間不穏な空気が流れる。

さすがにキョーコが切れて立ち上がりかけたその時。


「なら、こちらも芝居のプロとして全力でぶつからせてもらうよ」


スタッフに戸を開けられて、優雅な所作で戸口に立ってそう言った人物に一斉に注目が集まる。


「遅れて申し訳ありません。監督はじめ他の方々にもご迷惑おかけしました」


流れるような動作の一礼ながら、その気持ちのこもった言葉と所作に、そこにいた者全員(約一名を除き)がしばし見とれる。

その状況が気に入らない尚は、その気持ちをあからさまな態度で示しながら、


「俺より遅く来るとは驚きだな。さすがですね、敦賀サン。おまけに立ち聞きとは…。中に入って聞いていればいいのに何でわざわざ外で聞いていたんです?」


いかにも、人格に問題あり、と言いたげな言葉を放った。

が、それに動じるような蓮ではない。


「入ろうとした時にちょうど君の意気込みが聞こえたので、最後まで言わせてあげなきゃ気の毒かと思ってね」


にっこりと微笑めば、それを直視してしまった女優陣、スタッフが頬を染めてふうっと倒れ込む。

それを苦々しい顔で見た尚はさらにくってかかる。


「…気の毒、は聞き捨てならねぇな。どういうつもりだ?」

「どうもこうもないさ。色々フォローしてもらう為には、自分が芝居下手なことを伝えておいて、そのくらいの意気込みをここにいる人たちに見せておかなきゃならない、ってことだろ?そんなに必死な君の言葉を遮るなんてどうかと思って」


蓮の容赦ない言葉に、周囲から押さえてはいるが確実に聞こえるくすくすという笑いが漏れた。


「・・・んだ、とぉ!」

「ちょっと!尚!落ち着いて!」


立ち上がりかけた尚をあわてて止める安芸。そのやり取りを尻目に、何事もなかったかのように蓮はキョーコの隣に座った。


「あ、あの。敦賀さん、ありがとうございました」


キョーコが周囲に聞こえない程度の小声で蓮に言うと、蓮もこっそりと小声で返す。


「気にしなくていいよ。俺や君だけでなくて、ここの他の役者皆が思ったことだろうから」


そのこっそりしたやり取りは、傍から見てもほほえましく、向かいの尚の様子と正反対の様相を呈していた。

その様に、監督である新開が、ニヤリと口角を上げる。


―――― 役作りなしで十分いけそうだな、これは。


そんな監督の思惑があるとは知らず、撮影は始まるのであった。



つづく


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ってなわけで、ようやっと、次から撮影風景と、展開です。

一名を除き、誰が、何の役になるかはお楽しみ~。

ということでまた次もお付き合いいただけたら嬉しいですo(^▽^)o