真・遠野物語

「真・遠野物語」に足を運んでくださった奇特な皆様、ありがとうございます。

拙著は2013年7月末を以て更新を終了し、「真・遠野物語2」に移転しております。

未だに更新を終了した無印の方がアクセス数が多いというのもアレですので(笑)、今日ここをご覧いただいたのも何かの縁ということで、2も是非によろしくお願いいたします。


拙著の続きはこちら → 真・遠野物語2






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遠野放浪記 第一部完にあたって

2009年12月に産声を上げ、休止期間を挟みながらも執筆を続けてきた「真・遠野物語」も、3年8ヶ月を経てようやく完結することが出来ました。これが、筆者が初めて遠野に出会ってから神奈川大学を巣立つまでの、遠野における全てです。


二度目の冬の遠野旅行からすぐに、あの痛ましい出来事がありました。それから筆者は社会人となり、自身の時間的制約にも囚われ、なかなか遠野を再訪することが出来ませんでした。社会人になって初めて遠野に足を運んだのが2012年の12月でしたから、実に1年11ヶ月も遠野から離れていたことになります。

慣れとは怖いもので、あれだけ愛して止まなかった遠野も、それが身近に無い生活が当たり前になってしまうと、少しずつ“過去のモノ”になってしまうのです。遠野ファンとして恥ずべきことですが、遠野から離れて過ごす時間が少しずつ苦痛ではなくなっていきました。

そのような中で年末に遠野を再訪しようと思ったのも「ちょっと久しぶりに行ってみようかな」といった程度の気持ちからでした。


しかし、真冬の遠野駅に降り立ち、遠野の空気を吸い込んだ瞬間、あの3年間の出来事があっという間に甦ってきました。

いったい自分はこの1年11ヶ月もの間、何をしていたのだろう。未だかつてこれほど愛したものはなかったはずなのに、その気持ちを何処に仕舞い込んでしまっていたのだろう。

やはり自分には遠野しかない、ということを遠野の空気が思い出させてくれました。


今ではすっかり、1ヶ月遠野に行かないだけで発狂する体質に戻ることが出来ました(笑)


勿論、筆者の立場は大きく変わりましたし、遠野で出会った人々との関係も、そして遠野そのものが示す役割も、非常に大きく変わりました。これまで同様にお気楽に遠野に遊びに行くだけでは駄目です。自分が見てきた、そしてこれから見ていくであろう遠野をしっかりと噛み締め、遠野で何が出来るのか、数え切れないものをくれた遠野に何を返せるのか。それを真剣に考えなければなりません。

遠野との付き合い方も、1年11ヶ月を経て全く違うものになったように思います。


とはいえ、今すぐに出来ることはそう多くありません。取り敢えず首都圏在住の遠野愛好者としては、これまで通り拙著や、また直接のお話しを通じて遠野の魅力を人々に伝えていき、ひとりでも多くの人に遠野を好きになっていただけるように活動していくのみです。ただしその伝え方も、学生の頃とは違う今の筆者ならではの伝え方が出来るようになっているはずですし、なっていなければなりません。


そのようなわけで、予告通り本ブログは真・遠野物語2 としてリニューアルし、空白期間を経て再び足繁く遠野に通うようになった筆者の放浪記を綴っていきたいと思います。

真・遠野物語も残しておきますので、たまに過去の記事を読み返したりしていただけますと幸いです。


ここまで長くお付き合いくださった皆様、ありがとうございました。

これからも遠野と真・遠野物語2をよろしくお願いいたします。



二度目の冬の遠野放浪記 7日目-6 未完

南東北を覆い始めた雪雲は、白河を越えて北関東にもその触手を伸ばし、福島から栃木にかけての街並みに灰色の影を落としていた。


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南関東にはここ数年、雪が積もったことがない。旅に出なければ出会えなかったこの風景も、確かに日本の何処かに存在する風景だったりするのだ。

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列車はあっという間に黒磯を過ぎ、宇都宮から大宮、そして東京へ……。

流石にここまで来ると雪はない。もう間もなく、俺の最後の旅路が終点を迎えようとしている。

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列車はあまりにもあっさりと大船駅に到着した。別れとはこのように呆気ないものなのかもしれない。遠野を巡る3年間の冒険が、今幕を閉じようとしている。

叶うことならばずっとこの時間が続けば良いのに。しかし、俺にはそれを願うことすら許されない。時計の針を巻き戻すことは決して出来ないのだ……。

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真冬の大船駅のホームで、自然と涙が零れてきた。せめてもう少しだけ、俺が確かに遠野に旅したという事実を実感する時間が欲しかった。


そこでというわけでもないが……感傷的な気分に浸ろうと空腹は容赦なく襲い掛かってくるため、俺は大船駅のベンチで最後の食事をいただくことにした。仙台駅から大事に持ち帰ってきた網焼き牛たん弁当である。

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いつだかにいただいたやわらか牛たん弁当と同じ、紐を引っ張ると暖かくなるタイプだ。どうしても作り置きで冷めてしまうおべんとうにおいて、この技術が導入されたのは極めて革命的だと思う。

牛たんはしっかりと焼かれており、非常に香ばしくて美味しい。列車を降りた今となっては、仙台にいた時間すら遠い過去のものになってしまったが、仙台駅で購入したこのおべんとうを食べる俺は、確かに神奈川の片隅に存在している。




おべんとうを食べ終えたらば、後は家に帰るのみだ。

街はすっかり真っ暗になってしまったが、冬場とあってまだ時間は19時過ぎ。街は人々の波で騒がしい。

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これが小説ならばここからいろいろと事件が起こるのだろうが、残念ながら(?)特に大きな出来事もなく、俺とトンプソンは無事に常楽寺の自宅へ帰り着いた。後は洗濯や入浴を済ませれば、明日からはまたどうしようもないような日常が待っている……。




こうして、俺の最後の遠野旅行は呆気ないほどにあっさりと終わってしまった。


本当ならば、この旅を遠野旅行の集大成にするつもりだった。遠野でやり残したことなど、もうないつもりだった。

しかし、結局そんなことは無理なのである。これだけ遠野に通い続けても、未だに新しい出会いに恵まれ、かつ未だに出会うことができていない人や土地が山のように残っている。

勇気を持って御伽の国の扉を開けてみたものの、その先には更にいくつもの扉があった。いくつもいくつも扉を開け、段々と遠野の深部に進んで行ってはいるものの、最後の扉はまだまだ先にあるようだ。そこにいつ辿り着くことが出来るのかは誰にもわからないほどに。

しかし、それで良いのかもしれない。最後の扉を開けてしまったら、それは何でもない日常の一部になってしまうから。


俺は遠野が大好きだ。

長いような短いような3年を経て、手に入れたその事実だけで今は充分。何さ、生きていればいつでもまた会える。それが理解出来ただけで今は充分……。


いち学生として気楽に遠野と接する時代はもう終わりだ。これからはもう一歩踏み込んだ、大人の覚悟を持って遠野と付き合っていかなければいけない。それが本当の意味で出来るまでには、きっと長い時間がかかるのだろう。

しかし、俺はたったひとつ、生涯揺らぐことなき確固たるこの言葉を以て、遠野との“出会いの物語”を締め括りたいと思う。


俺は遠野が大好きだ。






真・遠野物語 完

二度目の冬の遠野放浪記 7日目-5 森羅万象

今日の宮城県南は非常によく晴れている。一週間前には県土を覆っていた白い雪は、暖かな日差しの前にその殆どが姿を消していた。


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これから2月にかけて一段と寒い日々がやって来るわけだが、その前にちょっとした小休止といったところだろうか。

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車窓では白石川が俺を見送ってくれていた。この雄大な白石川と一緒に走れるのも、暫く先のことになるのだろう。

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列車は越河を過ぎ、福島県に突入。先程まで輝くような青空だったのに、県を跨いだ途端に怪しげな雲が空を覆い始め……車窓の景色にも、冬の支配が戻ってきたようだった。

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少々心配な空模様の中、列車は福島駅に到着。ここから黒磯行きの列車に乗れるため、早くも東北とはお別れしなければならない。乗り換えが少なくて済むのは良いが、こうも帰路が順調に行き過ぎるのはそれだけ早く旅が終わってしまうということでもあり、寂しくもある。




黒磯までは2時間ほどかかる。車内は空いていたので、俺はお昼ごはんに仙台駅で買っておいた仙臺押鮨をいただくことにした。

そういえば以前、仙台で寿司を流行らせようというプロジェクトがあったような、なかったような……。

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笹の葉に包まれているのは、定番の鯖の押し寿司と、酢漬けの大根が上に乗った鮭の押し寿司。どちらも程良く締められており、ごはんと良く合って美味しい。宮城県内には良い漁場がたくさんあるので、鯖も鮭も(これはトラウトだが)豊富に獲れる。寿司を流行らせるプロジェクトも継続すれば盛り上がる下地はありそうなのに、これ以降何かが起こったという話は聞かないなぁ……。




食事を終えた後はゆっくりと北関東への突入を待つのみ。俺にいろいろなものを与えてくれた東北との再会は、いつ果たすことができるだろうか。

時間は絶えず先へ進み、戻ることは出来ない。






つづく。

二度目の冬の遠野放浪記 7日目-4 エンドクレジット

岩手県を脱し、宮城県に突入しても、車窓を白が支配する景色は変わらない。人も鳥も草木も、雪の下で静かに春を待っている。


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天候も非常に不安定で、ずっと強い雪が降り続いていたのだが、県央に近付くにつれてようやくその勢いが幾分か衰えてきた。

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一ノ関と仙台の丁度中間に位置する小牛田駅に到着する頃には、青空さえ広がっていた。

小牛田は小さな駅だが、陸羽東線や石巻線に乗り換えることができるターミナル駅でもある。今回、乗り継ぎのために初めて下車したわけだが、もしかしたら今後は遠野に足を運ぶ際、ここで一旦下車することが多くなるのかもしれない。

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小牛田より南は晴れていたが、車内外の温度差により窓が曇り、外の景色が全然見えない……。


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結局俺は車窓を楽しむことを半ば諦め、仙台に到着するまでゆっくりすることにした。




東北随一の大都会・仙台には、雲ひとつない青空が広がっていた。

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乗り換えまでに暫く時間があるので、俺は恒例の駅弁を購入するついでに、少し駅の外を歩いてみることにした。

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仙台には数多くの在来線や地下鉄の他、新幹線まで乗り入れており、非常に多くの人が訪れる。コンコースは非常に広く、土産物屋がひしめき合っているところに人が殺到している。

両隣の駅は閑散としているというのに。やはり「どこまで行っても都会」というのは東京や神奈川のごく一部だけで、生活圏が一極集中している地方都市の姿を如実に表しているように見える。

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駅舎の外は、広大な橋上広場になっていた。

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人が多い仙台では、街に積もる雪もその姿を隠し、ひと時今が冬であることを忘れそうになる光景が広がっていた。

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それほど遠くに行っている時間はないので、少し駅前をぶらぶらしたら、駅弁を買いに駅に戻ることに。

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駅弁屋は土産物コーナーの入り口あたりにある。日本一種類が多いとも噂される仙台駅の駅弁は、今日も観光客に大人気だ。

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駅弁を仕入れた俺はホームに戻り、福島行きの列車に乗った。

行きも帰りも、仙台を過ぎると旅が終わりに近付いていることを感じる。勿論、ここから大船までまだ8時間ほどかかるのだが……。

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列車はすぐに福島に向けて走り出した。


俺は福島への到着を待つ間、早速買ってきた駅弁をいただくことにした。

既におむすびをいただいた後なので、今回は一番お手軽サイズの伊達ざくらポーク角煮弁当にした。

伊達ざくらポークは宮城県産のブタで、かつて伊達藩の城があった場所が桜の名所であることと、肉が綺麗な桜色をしていることから名付けられたのだとか。さぞかし丹精込めて育てられたブタなのだろう。

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中には立派な角煮が2切れ入っている。作り置きされるというおべんとうの仕様上、脂が固まってしまうのは致し方ないが、その脂もとろけるようで美味しい。冷えてもしっかり食べられるように工夫されているのだろうか。




駅弁を食べ終わり、後はゆっくり福島まで待つのみ。少しずつ、旅の終点が見えつつある。






つづく。

二度目の冬の遠野放浪記 7日目-3 半分は優しさで出来ている

雪に覆われつつある花巻駅から列車に乗った俺は、おなかも空いてきたので、くら乃屋さんが握ってくださったおむすびをいただくことにした。

可愛らしいハンカチの中に、小振りなおむすびがみっつ。今回は俺の都合で朝食をお断わりすることになってしまったのに、朝早くから俺のためにこれを握ってくださったのかと思うと、本当に有り難いやら申し訳ないやら。一ノ関までの道中、大切に食べよう。


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おむすびにかぶり付いた瞬間、口の中に広がった暖かい味を、俺は今でも覚えている。

愛情を込めて作ってくださった食事の前では、三ツ星シェフの高級料理など何の意味も持たない。こんなに幸せで良いのかと思うくらいに幸せを感じた。俺はこのおむすびの味を生涯忘れないだろう。




今日の岩手県内は非常によく冷え、暖房が利いているはずの車内にも霜ができるほどだ。

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街に降る雪はますますその勢いを強め、何もかもを白一色に染め上げようとしている。

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辛うじてアスファルトが覗く道路の上を、宅配便の車が走っているが、あそこもじきに白の下に隠されて見えなくなるだろう。

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そこから先、動くものの姿は終ぞ見えなかった。

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沈黙が支配する白い世界……これが北東北の本当の姿。

長い冬は始まったばかりだ。

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列車は小一時間の旅を終え、一ノ関駅に到着。岩手県も最南端のターミナルまで来ると、真冬でも人々の活気が感じられるようになる。

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相変わらず雪は強いが、列車の歩みを止めるほどではない。

さあ次は、宮城県を縦断する仙台行きの列車に乗り換えだ。

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……と思ったら、今まで仙台行きだった次の列車は、ダイヤ改定により小牛田行きになってしまったらしい。乗り換えが一回増えるのは面倒だ……。

まあ、いつもは通過するだけだった駅に降りることになるので、これはこれでひとつ楽しみが増えたと思えば良いか。ここからはそう急ぐ旅でもないしな。






つづく。

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