真・遠野物語2

この街で過ごす時間は、間違いなく幸せだった。


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遠野の街ではいつもと変わらない日常が流れていた。

俺は一先ず疲れを癒すため、馴染みのCocoKanaのドアを叩いた。


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オリジナルカクテルのすだみと、クレープのデザートで遅いおやつの時間を過ごす。長い独り旅の中で一服の清涼剤である。

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しかし、今日は生憎あまりゆっくりと街に留まっている時間は無い。明日、六角牛に続くもうひとつの冒険に挑むため、夜のうちに綾織の街へ移動するのだ。

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すっかり闇に沈んだ道を、僅かな明かりを頼りに日影橋へ向かう。釜石街道を横切り、綾織郵便局の角を曲がると、その先は遠野三山の一角、石上山の支配領域だ。

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このあたりにも小さな集落はあり、所々に街灯の明かりが見えるのが有り難い。郵便局から3km程進むと、石上神社に辿り着く。

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石上神社の真っ赤な二の鳥居が暗闇に浮かんで見える。

近くの農家から、遠方から帰って来たらしい家族を迎える賑やかな声が聞こえて来るが、鳥居をくぐるとそれら全ては別の世界の出来事に遠ざかって行く。

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六角牛神社と同じように、石上神社もまた夜の闇の中では全ての時間を止めてしまう。あの夏の日に見た木漏れ日の美しさも、遥か思い出の彼方。全ては死んだように眠りに就いている。

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境内の一番奥に、本殿が鎮座している。今日はこの軒下に宿を借りよう。


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暗闇の中で寝袋を広げ、晩ごはんに出汁味の茶飯おむすびを頬張る。街の店でいただく食事と比べると非常に質素だが、山に挑む前の孤独な夜にはこれくらいが丁度良い。

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明日は石上山に登って下りたら、その後はもう何もしないつもりだ。今回の旅における最後の挑戦を楽しみに、石上の集落と同じようにゆっくりと眠ろう。


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春の西日は眩しく峠道を照らし、じりじりと焦げ付くような暑さである。パティに跨り風を切って走ると、汗ばんだ肌に涼しさが感じられた。


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山も木も御不動様の鳥居も、夕日を浴びて地面に長い影を落としている。間も無く夜の帳が降り、光と影の区別も付かなくなるだろう。

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光と影がくっきりと感じられる最後の時間帯、山桜の薄紅が燃えるような色を山肌に投げかけている。

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やがて木々の高さが見上げるようになり、道は暗い森に入って行く。

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ひと足先に夜の暗闇が訪れたかのようだ。

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下り坂なので然して時間は掛からず、森は再び途切れて青笹の集落が見えて来た。

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集落の色は次第に消え、全てが黒い影の中に落ち込んでいる。

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眩しい西日を浴びた桜並木が、綺麗だ……。

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釜石街道に下る道沿いに、次第に大きな街が見えるようになる。此処で安心すると、峠を往復した疲労感が一気に襲い掛かって来る。

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脚が鉛を付けたかのように重くなり、下り坂なのにペダルを漕ぐ足が重い。

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太陽は山の稜線に近付くに連れて淡くおぼろげになり、青笹の街は影の中に沈んで行く。風の音だけが聞こえる静かな街を、汗だくになりながら必死に走った。

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ようやく青笹駅に辿り着いたところで、釜石街道から釜石線沿いの裏道に入り、最短距離で駅前を目指す。今や山の向こうに隠れようとしている最後の太陽に向かって、懸命に走る。

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初音橋を渡って鶯崎に差し掛かったところで、太陽は完全にその姿を隠してしまった。もう遠野の街は夜の闇に包まれてしまった。

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冷たい風を肌に感じながら、優しい明かりを灯し始める遠野の街に入り、長かった一日はようやく終わろうとしていた。


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笛吹峠は義経伝説において、源義経が沿岸部へ抜けるために秘かに行進したとされる場所だ。確かにこのような難所ならば、逃避行には打って付けなのかもしれないが。


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この市境を頂点として、峠道は再び下りに転じる。釜石側に目を遣ると、遠野側の急坂に勝るとも劣らない曲がりくねった下り坂が森の中へ消えている。

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またこのあたりは橋野という地域に当たり、この旅の翌年――2015年に世界文化遺産に指定された橋野高炉跡もすぐ近くにある。

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世界遺産に指定されるなら、行っておけば良かった……。

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なお笛吹峠の名の由来には諸説あり、険しい地形から冬になると必ず吹雪くというところから「吹雪峠」が訛ったという話や、青笹に住んでいた少年が継子故に家族から憎まれ、峠付近で馬を遊ばせている隙に四方から火を放たれ殺されてしまったが、彼は最期に大好きな笛を吹きながら絶命したから笛吹峠と呼ぶのだという話もある。あまりに悲しい話である……。

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もう日が暮れる。誰も通り掛からない静かな峠道に、歴史に埋もれて行った幾人もの名も無き人々を見守って来た漆黒の夜が訪れようとしている。

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市街地まではおよそ16km、そのうちおよそ半分以上は青笹の街までの下りなので、まあ日没までには街に着くだろう。

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遠野で過ごす一日が今日も終わろうとしている。帰り道を急ぐ俺の背中を追い掛けるようにして、山から強い風が吹き始めた。それが耳元で、寂しい笛の音のように聞こえた。


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山深い中にたった一本だけ可憐な山桜が咲き、早春のモノクロームに鮮やかな色を投影している。山肌には未だに雪が残り、やがて訪れる春の日差しに溶けて小さな滝になって消えて行くのだろう。


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このような場所からさらに道が枝分かれし、何処へ続くとも知れない虚ろな口を開けている。

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もうかなり日が傾いて来た。残された時間はあまり多くない。明日になればまた太陽は昇るが、同じ時間は二度とやっては来ない……。

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六角牛神社から一時間半近く歩き、ようやく僅かに傾斜が緩やかになって来た。経験から、そろそろ目的地が近そうだと感じる。

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もう人間の住む世界など遥か彼方に消え失せてしまった。後は先へ進むしかない。

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幾度目なのかもわからない急カーブに、小さな鳥居が立っている。先程の不動明王よりも、尚生々しい。道は背後の山へ枝分かれし、やがて消えて行く。

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気が付けば六角牛の稜線も目の前に近付いて来た。山の道の交差点はもう直通り掛かる旅人を待ち構えている。

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笛吹峠を挟んで六角牛と対になる山は、権現山という。そしてその山に至る道には金堀沢という、遠野の暗部を考慮すると非常に意味深な名前の沢が流れている。歴史の表舞台から消え去ってしまった昔話が、この土地には幾つも眠っていそうだ。

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やがて道はほぼ平らになった。後ひと踏ん張りである。

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そして……。

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遠野と鵜住居を結ぶ道の境界線、笛吹峠に到着である。周囲には誰もいない。生きものの声すらも今はしない。至って静かだ。

ただ眩しい西日だけが、未だ葉が生い茂らない木々の合間から峠道に差し、其処に薄暗い夜の影を投げかけている。


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標高が上がるに連れ、道の荒れ具合も進行著しい。辛うじて二車線の幅が確保されている場所もあるが、少し大きな車がすれ違うことは到底不可能だろう。


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現代の技術を以てしても、指折りの難所である。

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飛行船の名曲「遠野物語」の一節に「遠野の街を自転車に乗り涼んだ笛吹峠で……」というくだりが出て来るが、とてもじゃないがそんなに生易しい道ではない。

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遠野の街から自転車に乗り、体力の限界を感じながら笛吹峠を目指すわけだ……。

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このあたりまで来るといよいよ道も一車線を確保するのが限界だ。剥き出しの岩肌から水が湧き出し、訪れる旅人に容赦のない山の力を見せ付けている。

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谷を挟んで向かい側の山肌には、名も無い小さな滝が顔を見せる。雨が降るとこうして山の急斜面を流れる幾つもの滝が出来、そして数日晴れればその姿は隠れてしまう。気紛れ極まりない自然の造形美である。

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程無くして差し掛かった急な曲がり角に、小さな御社が立っていた。

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不動明王が祀られた小さな祠だ。古い鳥居の手前に近年になって赤い鳥居が立てられたようだが、それも訪れる人があまりいない中で風化が進んでいる……。

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現代でも難所とされる鵜住居への道中で、不幸な事故により命を落とした人も少なからずいるのだろう。不動明王の表情から窺い知れるのは、そのような魂に対する安寧の祈りだろうか。

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俺ももう十年近く、散々エクストリームな旅を続けて来たが、無事に家に帰ることだけは必ず成し遂げて来た。それは旅をする人間の義務であり、帰りを待つ大切な人がいるならば、尚更である。


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