12:新シックハウス症候群に関する相談と対策マニュアル | 化学物質過敏症 runのブログ

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8.各省庁による対策,リスクコミュニケーションと患者や市民への支援
(1)各省庁の対策リスク
本誌で,東が述べているように (28) 我が国では各省庁が対策を行ってきた。

厚生省(現厚生労働省)が事務局となった「快適で健康的な住宅に関する検討会議」で,1997 年 6 月に中間報告としてホルムアルデヒドの室内濃度指針値を公表し,2002 年には厚生労働省による 13種の室内化学物質濃度指針値が示された。

2003 年には建設省および引き継いだ国土交通省による建築基準法の改正(建築材料をホルムアルデヒドの発散速度によって区分し使用を制限,換気設備設置の義務付け,天井裏等の建材の制限,防蟻剤クロルピリホスに関する規制など)がされ,また 2009 年には文科省による学校の環境基準の設定,住宅や学校新築時には濃度評価して引き渡すように法制度改正がなされた。

このような有効な規制政策がとられた結果として室内環境中のアルデヒド類やトルエンなど VOC 類の濃度は減少してきている。
(2)リスクコミュニケーションの留意点
増地はシックハウス症候群に関するインタビュー調査の結果から,一般市民の知識状況にはいくつかの特徴が見出されるとしている。
①シックハウス症候群は「新築の問題」と考える傾向がある。

なかには,10 年ほど前に話題になったが既に解決した問題と思っていた,という回答もあった。

②原因や発生源としては,多くが壁や床などの内装とそこで用いられる塗料や接着剤(化学物質)を連想している。
壁や床など目につく場所に原因を求める傾向があるといえる。

③アレルギー症状の経験者は,壁や床からの「臭い」を気にする傾向,室内に化学物質が存在しているかどうかを「臭い」を手がかりに判断する傾向がある。

④アレルギー症状の経験が本人または家族にある場合は,ダニやカビもシックハウス症候群の原因であると考え,室内の換気や結露対策をこまめに行っている傾向がある。

⑤アレルギー症状の経験があると,経験がない人に比べてシックハウス症候群の原因や症状についての知識は豊富だが,自らの経験に基づく知識であるため,知識の範囲や質に偏りも見られる(自分が経験のない症状には言及しないなど)。

⑥シックハウス症候群の問題は多くの対象者にとって緊急に解決しなければならない問題ではないが,そうした問題があることはよく認識しており,特にアレルギー症状の経験がある人は自分の問題として事あるごとに考えている。

⑦アレルギー症状の経験がある人も,経験のない人も,テレビやインターネットがおもな情報源である。症状が出た場合の相談先としては病院を挙げる人が多かった。

実際に,アレルギー症状でかかりつけの皮膚科や耳鼻科がある人もおり,医師から情報を得ているが,医師からは対症療法的なアドバイスが多い印象であった。

アレルギー症状の経験がある人のなかには,自宅の改装や新築の際に,業者にシックハウス対策の相談をしたり,広告を参考にしたり,業者から具体的なアドバイスを得たことがある人もみられた。
以上のように,調査のサンプル数が少ないため,結果をただちに一般化することはできないものの,シックハウス症候群にある程度関心のある人々のなかでも,その知識には多かれ少なかれ偏りがあるため,何らかの症状を経験しても,住居が新築ではない,室内では「臭い」がない,ダニやカビが原因とは考えていない,といったことから,室内環境に原因を求めず,なぜそのような症状が生じているか因果関係の推測を誤ったり,適切な相談先に相談しないなど対応が遅れる可能性がある点に注意が必要といえる。

また,アレルギー症状の経験者の多くは経験がない人に比べ,知識は豊かで自分なりの解決法を持っているが,その知識は自らの経験と強く関連しているため,ときに偏りがみられることもあり,対策については,テレビやネットの情報に加え,業者の情報(広告)が情報源となっている場合もあり,必ずしも科学的な根拠にもとづくものとは言えない方法をとっている可能性もある。

受け手の多様な知識状況,ニーズをふまえた情報提供が必要としている(相談マニュアル(改訂新版)pp 168–185)。
(3)症状のでた住宅や職場などへの支援(相談への対応)
柴田は,相談を受ける際に注意することとして,相談者の目的・要求を明確にすること,聞き取り必須項目(どのような症状か,いつから発症したのか?発症の原因となったイベント,症状が強くなるのはあるいはよくなるのはどういうときか?室内における化学物質の使用,暖房器具・設備について,住宅内での生活習慣)をあげている。

我々の旧版で作った相談チェックシートは,札幌市など公的機関でも使われていたもので参考になる。

また症状が典型的でない場合の例としてシックハウス症候群と化学物質過敏症を同じものとしてとらえている場合も少なくないが,化学物質過敏症では問題となる室内を出ても症状の改善がないこともある一方,室内にいるときに症状が出るとは限らないことなど背景に室内環境以外の要因が関連していることが疑われる場合には医療機関の紹介が必要としている(相談マニュアル(改訂新版)pp 186–202)。