低い椅子と奏法のヒミツ その1 | 音楽事務所クリスタル・アーツ

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 マイ・ピアノ椅子を運ぶボジャノフ 

 ボジャノフの演奏が人を惹きつける理由のひとつに、音の多様さと美しさが挙げられます。自分が良いと思う音を実現するための彼なりのさまざまなルール、そして執拗なまでのこだわりがあるようです。
 会場で演奏をお聴きになったことのある方はお気づきかもしれませんが、ボジャノフはステージで、大変低い「マイ・ピアノ椅子」で演奏をします。海外の演奏会でもこれを持ち運びます。飛行機での移動の際は脚をとってスーツケースに入れ、預け荷物にするそうです。
一昨年のショパン国際ピアノコンクールの際も、約1ヵ月にわたるコンクール中ずっと、自分の出番のときには必ず、肩からさげられる特注品のバッグ(登山カバンの専門店でつくられたものだそう)に大きな椅子を入れてホテルから持ち運んでいました。なにやら大変面倒くさそうですが、これでなければあの音が出ない、というのがご本人のこだわりです。これは、彼が師事するゲオルグ・フリードリヒ・シェンク氏の提案で始めた奏法だそう。

 

「先生はすごくアイデアのある人で、体の使い方をよく知っています。僕は椅子をこの高さにすることで、腕の力をうまく使うことができ、また、いろいろな音色を出すためのコントロールをすることができるのです」

 

 彼の百面相のように変化する多彩な音は、重心の低いあの独特の演奏スタイルによって作り出されるもののようです。

ちなみに、もしもホールでその椅子がなくなってしまったり、使ってはいけないと言われたりしたらどうするかと尋ねたら、「そうだなぁ、弾かないで帰るかも……(笑)」と言っていました。こわい! 関係各位のみなさん、決して興味本位で本番前にボジャノフの椅子を隠すというイタズラはしないように。
 ……しないか。

 
バックステージで出番を待つ「椅子」
 


 とはいえ先日キャッチした情報によると、先の演奏会でふと思い立ち、背もたれ付きの会議室にあるような普通の椅子で演奏してみたとのこと。高さもさほど低くないものだったとか。

「背もたれがあると、弾いていない間休めるからね。むしろ、弾いているときも休める。ハッハッハ」と笑っていました。28歳で、実に貫禄のある発言です……。(続く)

[文 高坂はる香(音楽ライター)]

68日(金) 19:00  サントリーホール 大ホール

札幌5/30、愛知6/1、兵庫6/2、びわ湖6/3、新潟6/7、埼玉6/9



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