低い椅子と奏法のヒミツその2。ボジャノフの多彩な音を作りだす要素として、もう一つ、繊細なペダリングが挙げられます。
前回の記事でご紹介したお尻よりも膝が高い位置に来るほどの低いマイ・ピアノ椅子に腰かけ、ボジャノフは実に細かくペダルを操作します。これこそが、さまざまな音色を出すために重要なことなのだと以前語っていました。
「ピアノはヴィブラートができない楽器だという人がいるけれど、僕にはそれができる。この技術は誰かが教えてくれて身につくようなものではない。経験によって習得してゆくしかないことなんだ。基本的に、ソフトペダルを常に1/8くらい踏んでおく。ホールによってその踏み方はほんの少しずつ変える。その一方で、ダンパーペダルを操っていくんだ」
歌声のように、ときに震え、さまざまな色彩に変化するボジャノフのピアノの音は、こうして作られているようです。演奏会で前方に座られる方は、ぜひ彼の足さばきにも注目してみてください。絶えず、せわしなく動いていると思います。
ところで、昨年夏にワルシャワで収録された最新録音の発売が待たれます。リサイタルのライブ録音の他にもレコーディングを行ったそうですが、このときの録音風景の写真を見せてもらう機会がありました。するとカメラマンさんが撮影した写真の一部に、なんと指をパカッと広げてペダルを踏みしめるボジャノフの素足が写ったものが!
まさかこの人、集中するには裸足じゃないと無理というタイプなのだろうか……。
ま、まさかブルックナーばりに全裸が一番落ち着くとかいうパターン??
(ブルックナーはしばしば全裸で作曲し、そのまま客人を出迎えて逃げられたというエピソードがあります。出典:『クラシックソムリエ検定公式テキスト』))
……などと妄想がふくらんでしまいましたが(だってなんかボジャノフならあり得そうだし)、どうやら履いていた靴のせいでペダルを踏む音が録音に入ってしまい、やむを得ず裸足で演奏をしたのだということです。あれほどに細かく踏みかえる音が入っていたら、それは気になるでしょう。
新譜をお聴きになるときには、ぜひボジャノフが裸足だったことを思い浮かべつつ聴いてみてくださいね~。
[文 高坂はる香(音楽ライター)]
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