すみません、2月の107話を106話でUPしていました。

ミスお知らせくれた方ありがとうございます。


D.C.F.L (ダ・カーポ ファンダメンタル・ラブ)
第107話「姉がお嫁に行くその日」

うう、痛い……。
蹴られてはいるが、殴られた訳ではなく、
もちろん喧嘩したとか言う訳でもない。

え~と。
この状況をどう説明したらいいんだろうか?

美春の足が俺の首元にあり、
母さんが俺におおいかぶさるように寝てる。
つまり昨晩、週に1回の天枷家でのお泊りの日であり、
何故か親子3人で川の字で寝ることになり
(俺が中心で右に母さん、左に美晴という配置で)
それでいて朝目が覚めたらというか
美春に蹴られて起きたらこの状況と言う訳だ。

まったく、同じように寝相が悪いだなんて。
母娘だよな~。

妹の足を払い、母をどかせてなんとか起き上がる。
ん~、よくは寝たけど、
蹴られたり乗っかられたりした箇所が痛い。

窓によって軽くカーテンを開けると
丁度朝日が昇り始めたらしくまぶしかった。
けれど空は雲一つないいい天気。
こんなおめでたい日にはうってつけだ。

そう今日は、暦姉さんの結婚式なのだ。

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本来ならば結婚式というものは男は礼服を着ていくらしいが
今回はバンド演奏も控えているのでことりと話し合った結果
制服で参列する事にした。
着替えて身支度を整え、
そして朝食を済ませ出かけようとした時
母さんから御祝儀袋を渡された。
白と赤の紐で結ばれていて真ん中には”寿”と書かれ、
その下には母さんの名前が書かれている。

「ちゃんと渡してね。 失礼のないように」
「わかってるよ」
「お兄さん、あとで」
まだパジャマ姿の美晴が玄関まで見送りに来てくれた。

「ああ。 行ってきます」

バイクで式場に到着し
中に入ると今日は大安吉日ともあってか
暦姉さん以外にも数組のカップルが挙式をあげるらしく
大勢の人で賑わっていた。

ここに来るのは人生で2回目だ。
そう、以前ことりと来て彼女が
ウェディングドレスを試着したところなのだ。
あの時はまだことりの事を女の子として意識してなかったんだよな~。
でもその時撮った記念写真は俺の部屋に飾ってある。
というかことりが昔強引に置いていっただけなんだけど。

会場内は人が多過ぎて誰が関係者なのかさっぱり分らない。
似たような黒っぽい服装ばかりなのでさらに拍車をかけていた。
どこに行けばいいだろう?と考えていたら
案の定、途中で保険医の恋先生に運よく出会い、教えてもらえた。
なんだか学校以外で先生に会うなんて緊張するなぁ。

受付で母さんから預かった御祝儀を渡し、
それから白河家の親族控え室に辿り着き入ろうとした時だった。
「凛くん、おはよ」
「おはよう」
声をかけてくれたのはもちろんことり。
俺と同じく風見学園の制服に身を包んでいる。
うんうん。
制服姿でもウチの彼女は世界一かわいいです。

「暦姉さんは?」
「こっちだよ」
ことりに手を引かれ部屋に入ると
「お姉ちゃん、凛くん来たよ~」

部屋の真ん中の椅子に
真っ白なウェディングドレスに頭をベールで覆っている
女性が座っていた。

「よく来たな」
今日の主役だし声を聞いたから当然分かるんだけれど、
でもそこにいる暦姉さんはなんだかとても別人に見えた。

ウェディングドレスは派手なドレスタイプではなく
スラッとした感じで足元はイルカのヒレのように広がっている
ことり曰くマーメイドタイプで
手にしているブーケも淡い感じの黄色やピンクなどで着飾られていて
違和感もなくドレスにマッチしていた。
それに今日はコンタクトなんだろう。
眼鏡をかけていないので余計新鮮に見えてくる。

「なんだい?」
どうやらガラにもなく見入ってしまっていたらしい。

「あ、いえ。 綺麗だな~って」
「ありがとよ」
姉さんはすこし照れくさそうにでも
やさしく微笑んでくれた。

部屋を出てバンド演奏のための
機材の確認のためことりに案内されて
準備室に向かうと、
「白河様、姫乃様」
白髪の紳士が台車を引いていた。
「瀬場さん、わざわざすみません」

そう、瀬場さんに機材の搬入をやってもらっていたのだ。
H.C.Pのメンバーはみんな学生なので当然誰も
車の免許なんて持っていない。
だからお店を休んでまで
車を出してもらったりして助かるというか
申し訳なく感じてる。

「いえいえ。 これぐらい」
毎回ほんと感謝してもしきれないぐらいだ。

「白河様、このたびはおめでとうございます」
「ありがとうございます」
ことりはふかぶかと瀬場さんにお辞儀をする。

まだ車に若干残ってると聞いたので
式まで時間があるので当然手伝う事にする。
準備室では月城さんがチェックリストを元に
機材がちゃんと全部そろっているかどうか確認してくれていた。

「おはようございます、凛さん」
「おはよ、姉さん」
制服姿の美咲姉さんがなにやら銀色のカートを引いて入ってきた。
もしかして、
「ことりさん、ちょっと確認していただきたいのですが」
「はい」

そのカートの上にはかなり大きめの真っ白な長方形の箱が置いてあった。
それを姉さんと月城さんが両はじを持って開けると、
「わぁ~」

やはりそこには巨大な生クリームのケーキが。
まわりには沢山の苺でデコレートされていて、
チョコで達筆な字で先生と姉さんの名前、
そして”ご結婚おめでとうございます”と文字が書かれている。
さらに真ん中には先生と姉さんなんだろう。
ディフォルメされた燕尾服の男性と
ウエディングドレス姿の女性の砂糖菓子で出来た人形まである。

そう、披露宴で使うウエディングケーキだ。
これは瀬場さん、月城さん、美咲姉さんからの結婚のお祝いで
3人ががんばって昨日の晩作ってくれたらしい。

「ありがとうございます。 お姉ちゃん、きっと喜びます!」
なんだかカットして食べてしまうのがもったいなく感じてしまう。

演奏の準備は後から来る修ちゃん達がしてくれる。
俺達はそろそろ時間なのでことりと二人で式場に向かうことにした。

廊下に出て式場に向かう途中、留袖姿のまりあママに会った。
髪も結ってるからなんだか小料理屋の女将とか似合いそうな雰囲気だ。

頬に手を添えて何か困ったような
深いため息をついてる。
「どうしたのまりあママ?」
「凛ちゃん……」
「あれ? お父さんは?」
ことりは辺りを見回すがそれらしき人物は見当たらない。

「それが……」

まりあママの話によるとどうやら親父さんは
暦姉さんのウェディングドレス姿を見て感極まってしまって
トイレから一向に出てこないらしい。
たぶん号泣中だろう。

もうすぐ本番なのに
今更そんなんで本番大丈夫なんだろうか?

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………………………

そして時間通り式は開始された。
場所は結婚式場の敷地内にある小さなチャペル。
祭壇前には豪華な天使の絵のステンシル。
左側にはパイプオルガンまで設置してある。
広い空間で来賓客が右が先生の所の関係者の方、
左が白河家関係でほとんどの席が埋まってる。

中央の祭壇の前に立つ司祭様と
さすがに一世一代の晴れ舞台なのか
緊張した顔をしている白い燕尾服姿の先生。

司祭様の合図で全員起立すると
パイプオルガンがちゃちゃちゃちゃ~ん♪と結婚式の音楽を奏で、
ドアが開くと親父さんの腕に手を添えて
盛大な拍手で迎えられる暦姉さん。
姉さんはうつむき、ヴェールで覆われているので表情を読み取りにくいが
親父さんはなんかもういっぱいいっぱいなのはよく分かった。

先生に姉さんを託し俺達の横に戻ってきた親父さん。
うっわ。
目がうるうるしてるし。
最後までもつかめっちゃ不安になってきた。

誓いの言葉に指輪交換、そしてキスシーン。
な、なんか身内のこういったのって恥ずかしくって思わず目を背けてしまう。
それから全員で賛美歌を歌うんだけれど、
俺はこのとおり超音痴なので姉さんには悪いが口パクさせてもらう事にした。
その代りって訳ではないけれど隣に立つ歌姫の歌声に酔いしれていた。

式場を出るとそのまま全員で記念撮影に入る。
一番前のセンターはもちろん今日の主役2人。
その左右に両親、それから兄弟なんかが続く。
俺は流れでことりの横に座り、
つまり一番先頭なのでなんだか妙に緊張してしまう。
目先にあるカメラは学校などで集合写真などを撮影する時に使っているような
電球ほどのライト、フラッシュが搭載されていて
目をつむってしまわないように心掛けて撮影に臨んだ。

しっかし本当に今日は嘘のように雲一つない天気だな。
時折桜の花びらが空の青いキャンパスに映えるぐらいだ。
天気まで味方につけるとはさすが姉さん。

「それではおまたせしました。ブーケトスを行います。
 未婚女性の方どうぞ前へ」
司会のお姉さんがそう言うと綺麗に着飾った女性たちがぞろぞろと
広間の方へ歩いて行く。

「行って来るね」
活き揚々にことりも向かっていく。

「よ~し。 とっちゃうわよ~」
ちょっとまりあママ。
あなたは既婚者でしょ~が?!
何考えてるんですか!
あ~、誰も止めないから行っちゃったよ。
それにしても花嫁からブーケを受け取った人が次に結婚できるだなんて
誰が考えついたんだろう?

「暦~、こっちに投げて!」
「私の方よ、私の!」
「暦、お願いっ!」
と女性陣からはいろんな声が上がっている。
中には必死な目をしてる人もみかけた。
ことりはというと年上の女性達の勢いに呑まれたのか
かなり後ろの方に大人しめに立っていた。

そんなの取らなくても俺が絶対にお嫁にもらうのに。

「いくよ!」
女性集団の少し先に立っている暦姉さんは
くるっと皆に背を向けてブーケを両手に添えて、
「そ~れっ!」
思いっきり後ろへと投げた。

我先にと手を伸ばす女性陣。
綺麗に放物線を描いたブーケは
見事暦姉さんの知人の手に収まった。

とりあえずまりあママの所に行かなくてよかった。
それにしてもここでことりが手にしたら
なんだか感動的だったんだろうけど、
世の中そんなに上手くできてないようだ。

司会のお姉さんの指示で次は披露宴会場へと移動になった。
なんだか今日はあっちへ行ったりこっちへ行ったりと急がしなぁ。

「凛」
名前を呼ばれそちらに視線を移すと
姉さんが手招きして呼んでいた。

「何?」
「ほら」
差し出されたのはピンク色の一輪の花。
それを反射的に受け取ってしまった。
「ブーケから1本抜いておいた。 お前からことりに渡しておけ」
そう言ってピースサイン一つした後、
先生の腕に手を絡ませて会場へと向かっていく。

うわ~なんか今日の姉さん
むちゃくちゃかっこいいな。