43時間 Part23 | cracking-my-ballsのブログ

43時間 Part23

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青山の送出センター


エレベーターホール横の喫煙所:窓からは年末の青山通りが見える。

辺りのビルにすでに灯りはない。

金属製で大人の腰の高さぐらいの灰皿がひとつ有り、二人は煙草を吸っている。

タチバナとカワカミは、一緒に窓の外の風景を見ている。

「売り先知っています?」

「何のだ?」
「トボケないでください(笑)----WAVEの売り先------北朝鮮ですよ。」

タチバナはカワカミに話しかけ、煙草の灰を回しながら灰皿に落とす。

「・・・・・」

カワカミは黙ったまま、煙草をアルミ製の蓋に映る自分の顔を見ながら押しつぶして消すと

言葉を選ぶようにしゃべりだした。

「国家がすることが必ずしも全て正義とは限らん。どこの国でもな。」

「だからと言って、正義を忘れて良いわけじゃないでしょう?」

「クライアント(依頼人)の望むことが弁護士の正義だ。」

「正義にも種類があると?」

「何が言いたい?」

「正義は、自分の信じる正義のことだと思います。」

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WAVE放送局です。

いよいよ今年も後少し・・・見にくいアヒルさんからのリクエストでこの曲です。


 ♪♪♪  (曲の前にyoutubeの広告入りがち注意)


しばらくカワカミは押し黙って・・・

「もう何年も前になるが・・・同じことを言った男がいたよ。」

「・・・検事を辞めた理由・・・不信感でしょ、国家に対する。」

唐突に言い当てられたからか、カワカミは窓に向けていた顔をタチバナのほうに向けた。

「国家じゃない。自分の信じる正義にだ。」

「正義?・・・正義ですか・・・今信じられる正義って何なんですかね?」

「私にはわからん。ただ、強い正義感は時に危険なものになる。」

「今の検察や裁判官は、その強い正義感を持ち過ぎている・・・」

「知らんね。」

カワカミは、詮索されるのを嫌がるように答えを切り、逆にタチバナに質問をした。


「お前出身は?」

「東京です(笑)」

「そうじゃない。今の職に着く前の話だ。」

「忘れました。(笑)」


カワカミはまた窓の外を見だした。

事故があったのか人が集まっているのが眼下に見えた。

しばらくすると警察が来て、車線を規制し交通整理を始めだした。

それを見てカワカミが独り言のように呟いた。

「この大晦日に〝アヒル〟も大変だな。」

「クイズですか?」

「警察の隠語を知っているかどうか------引っかけてみただけだ。」

「元警官に見えました?オレ・・」

「いや・・・昔の疑り深い・・癖が出ただけだ。すまない。」

「隠語か・・・検事さんらしい引っかけですね(笑)

私も、どうしても、つい出てしまう〝癖〟って有りますよ(笑)」

「元検事だ。」


「少なくとも・・・我々は正義の為でも・・・人の命を簡単に奪ったりはしません。

---------ちなみに・・・下にいたのはアヒル(男の制服警官)じゃなくアカポリ(婦人警官)でしたけどね(笑)」

タチバナは、歯を見せずに、笑い・・・カワカミを見ながら、いつもの〝癖〟で答えた。

目の上に手をかざす、その仕草は、見ようによっては敬礼に見える・・・・帽子をかぶらない敬礼に・・・・

「そろそろ部屋に戻りますか。」

その後、窓に背を向け歩きだした。

カワカミはタチバナの背中に・・・「お前の癖・・・って」

そう声を出しかけ、言葉を呑み込んだ。


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C3スタジオ:生放送中


バロン、私、ピエール、そしてWAVEのスタッフが数人。

ガラスの向こうのWAVEの放送は〝ON AIR〟のオレンジの明かりがついいたままになっている。

DJのクリスとジョンは、年間ベストテンの大詰めを、滑らかでいながら、且つ緊張感を盛り上げながら年末の最後の番組を続けている。

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結局、休憩といってもバロンと私は宇宙船ソユーズ(部屋)から一歩も外に出なかった。

ピエールも残った。トイレにも行ってない。

官僚との電話も繋がったままで、ダイレクトにここの会話、つまり株主の最終決着はWAVE本社の取締役の集まる会議室にも直接流れている。

直接流していたのには、意味もあった。

ほぼ40%前後-----同数を持つ二人の株主。

そこに参戦した徳之助。

その株主---------すなわち次のWAVEのオーナーの動向は、取締役のそれ以上の反旗を止めさせていた。

賛成した取締役も反対に回った取締役も・・・態度を保留し続けているC取締役も・・

全員がバロンと私と徳之助の闘いの決着に耳を立て、息を殺して-----注目していた。

それは、まるで深夜ラジオを聞く、熱心なリスナーであり、聴取者であり・・・

年末のカウントダウン、まじかのC3スタジオで繰り広げられるM&A合戦は、まさに、今年最高の聴取率を叩きだしているスペシャル番組であった。


休憩の際に部屋を出たのはカワカミとタチバナだけだった。

3杯めの紅茶を飲みほし、5本目の葉巻に火を付けたバロンは、
「後・・・20分ですぞ。」

「お互いシュートは撃ちつくしましたか・・・(笑)」

戻ってきた、タチバナが時間を気にし出したのか急かすバロンに答えた。

「待たしたな。」

その時---------爺さんの声がした。

束の間のハーフタイムは終了し、徳之助も参戦した三人の最後のキックオフが始まった。

最初にボールを取ったのはバロンだ。

「徳之助さん。息子さんの説得はできましたか?」

「息子に連絡していたとわしは言った覚えはないぞ。」

「単なる私の勘ですよ。電源停止をあなたには止めてもらう役目をしてもらいませんと・・・」

大したものだ。

正直、大したものだと思った。バロンという男は、我々が徳之助を説得し、更に息子をも説得するだろうと読んでいた。

それを

徳之助がこのM&Sに参戦したことで------確信したのだ。

息子を説得できなければ・・・WAVEは価値が無くなる。つまり買う意味がない。

「知らんよ。」

「説得は失敗したと?」

「失敗したとは言っておらん。しかし------最後は息子次第じゃ。わしも正直わからん。」



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「信じましょう(笑)」

「時間がない。最後の交渉に入りましょう。」

「良かろう。」バロンと徳之助が賛同した。


「半額なら買おう。全てだ。」

徳之助の提案額に、バロンはまったく反応を示さなかった。


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WAVE放送局です。

クリス・・・いよいよ年間ヒットチャートも残すところ数曲だよ。

そうね♡


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今のところリクエストは

官僚

タチバナ

マウス

カワカミ

クライム

ピエール

徳之助・・・


の方達が、すでにおこなっているわ。・・・・

後・・・残っているのは、イチロウとcrackingとバロンよね。

なぜ・・・作者は残したんだろうねクリス!

分かんない。ふふふっおひつじ座

見てよジョン!

隣の部屋。

ガラスの向こうのディレクタールームかい?

今日のM&A合戦もずいぶん盛りあがってきたようだね♡

でもここだと、何を話しているのかは聞こえないわ。

大丈夫だよ。ここにある・・・・このカラオケマイクスイッチを押せば


カラオケ    徳之助   「高すぎる。 わしは、そんな値段でWAVE社を買うつもりはない。」

バロン    「伯楽・・・そもそも私は株をお譲りする気はありませんのですよ。」

ピエール   「ですが・・・そろそろ決めませんと・・・時間が差し迫って・・・」


ほうら・・聞こえるだろ。

うん。すごいわジョン。スウィッチを戻すとこっちの話が聞こえるのね。

そうなんだ。

それじゃ・・・いつもペタをくれる読者のアンジェラからのリクエストで・・・


この曲をどうぞ!


  

♪♪♪  ←音楽聞きながらちゃんと読んでね。いつものようにクリックすれば新しいウインドウが開くから、その後このブログを再クリックすれば、曲を聞きながら読めるよ。



ちょっと待ってよ!

アンジェラなんて・・・ペタをくれたことなんて一回もないわよ。

ペタをくれるのは〝みく〟さんとか〝あゆMaMa〟さんじゃない!



カラオケ  私  「徳之助さん。私も売る気はありません。逆に、あなたの株をあなたの提示額の倍の値段で購入します。」

徳之助  「なんじゃお前は?・・・いいか小僧・・・わしはこれっぽッちも売る気はない。買うだけだ。」


でもでも!

ちょっと聞いて

アンジェラから報告メッセがあってさ

また、恋のデビューできないってか?

ううん違うの。

なんと。


・・・合格大学合格したらしいよ!合格


本当!

すご~い合格

おめでとう。アンジェラ。


しかも合格したのは都心の遊び人が集うあの一流大学らしいぞ。

きっと・・・今、放送をしているこの送出センターの近くにあるあの大学じゃない!


桜WAVE放送局から祝福を!桜


デルモと必ず・・・の約束守れよ~!


カラオケ  徳之助  「このわしの11.7%が何を意味しているか分かるか? 男爵か小僧のどちらかに渡った瞬間・・勝負は決まるんじゃ。しかし、どちらも勝たす気はない。」


バロン   「では・・・あなたが勝つと?」

徳之助   「最後はな。」

ちなみに、アンジェラと言えば・・・恋のデビュー
だけど。

うん。

それでね。

なになに目

恋のデビュー16 がアメブロに続いて・・・ヤプログでも削除になったらしいよ。

へぇ・・・知らなかった。う~んペロペロ・・・OK!はぁ~いドキドキあやひ
いつから、ローラになったんだい、クリス。

う~ん・・・モノマネクラッカー

この曲が意外に長いから・・・作者が文章の展開の都合で・・・こんなどうでもいい会話を繋げているらしいよ。

ペロペロ・・・ドクロ


カラオケ   バロン  「ずいぶんと強気ですな・・・伯楽。」



でも。。。ヤプログでも削除か・・・

どうりで・・・検索ワードで〝恋のデビュー16〟が最近異常に多いわけだ。

どうするんだろうね作者。

う~ん音譜知らないペロペロ。はぁ~いドキドキ

PSALMのサイトかりとるスターさんのさいとでも掲載してもらうか・・・
でもさ・・・最近思うことがあるの?

何だいクリス?



カラオケ  カワカミ 「お三方にお聞きしておきたいことがあります。」

徳之助 「なんじゃ?」

カワカミ 「タイムアップで、電源停止となった場合は、そこで、お三方とも交渉を打ち切りますか?」

バロン 「もちろんだ。意味がない。」

徳之助 「よいか・・・


なんか話しが途中だったけど、こっちにマイクを戻したよ。はあ~い。おとめ座

最近思うことはさぁ・・・

キューピー3分クッキングの小川聖子先生の声がどうしても、画面を見ていないと室井佑月の声にそっくりに聞こえてしまうのは、私だけかな・・・ペロペロ。ラブラブ!

そうかいクリス・・・僕もゴルファーの宮里藍ちゃんの声が政治家の田中真紀子の声に聞こえるよ!


カラオケ  私   「もちろん。WAVE同盟軍も撤退ですね。放送免許を失い、会社だけが残っても・・・何に使うんです。残っているのは赤字だけですよ。」

カワカミ  「ならば、この3人の交渉は、後・・・20分ほどで決着を付けると言うことですな。」

そのカワカミの発言に・・・・バロン、私、徳之助が一緒に  


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カワカミ 「お三方同時にしゃべるのは・・・いかがなものかと・・・・しかも大声で。」


なんか、向こうの部屋は楽しいそうね。今にもダンスでもしそうじゃない!晴れ

私は、小沢一郎の〝無罪判決〟を速報で伝えるアナウンサーが何度も「無罪です。無罪です。ムザイです。ムザイです。」って言葉をニュースで何度も何度も連呼して・・・いるうちに〝ウザイです〟としか聞こえなかったわよハートブレイク  ムザイもウザイも一緒かな。はぁ~いクラッカー
そうかぁ・・・

僕は、北朝鮮のミサイルや韓国の大統領の誹謗中傷の映像を・・春からのバラエティ番組かと

まちがちゃった。

私も。

ミサイルとかもハリボテっぽいし・・。爆発前に近くのディレクターとかがやけどしちゃったんじゃない。

正雲の刈り上げもリアクション芸人ぽいし。おでんとかたべてるのかなぁ。

国自体がなんかぁ・・・〝たけし城〟みたい恋の矢DASH!


カラオケ 徳之助 「よろしい。わしから・・・男爵に提案がある。」

バロン  「なんですかな。」

徳之助  「 このWAVE社の買収を諦めてくれるのなら、他の会社を売ってやろう。」

バロン  「ほう・・・面白い提案ですな。」

徳之助 「駄菓子屋じゃ(笑)


なんか・・・向こうの部屋で髭のおじさんが・・立ちあがって電話機を壊そうとしているのを、誰かに止められてるぅ。うふふ。けんかはだめよ。はぁ~い恋の矢ぺろぺろおとめ座

北の放送は、WAVEの放送より面白いよな。

そんなこと言ったらダメよ。キスマーク

でも、正雲って・・・自称って感じじゃない。

ヘアースタイルとファッションがイケてな~い。うん。ペロペロダウン

自称占い師?

うん。

自称・・第1書記って感じおとめ座

核核然々(かくかくしかじか)~!メラメラ

これ以上しゃべったら、WAVE放送局に特殊部隊を送り込まれるよ。

そうだね。じゃぁ・・・またあとで、売買~!ぺろぺろおとめ座


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「これで質問は・・・最後です。」

「なんだね。」


「仮に、男爵。

あなたがWAVE社を買ったとしましょう。 WAVE社をどう良くするおつもりで?

それだけ・・・欲しい会社なんですから。

きっと、男爵なりの、WAVE社の輝かしい将来像が頭の中におありなんでしょう?」

「私の描く青写真?・・・それともWAVEの未来設計図を教えろと。(笑)」

「そうです。」

私はそう言って、僅かな時間を有効な話し合いに・・・まともな経営論で終わらせようとバロンに最後の質問をした。

できるだけ穏やかに話しかけた。

残り20分かそこらでできることなどたかが知れている。

時間に追われてはいけない。こういう時こそ時間を楽しむしかない。

仮に・・・

どちらが負けても、バロンの真意はちゃんと聞いておきたかった。

「売り先は、北ですか?」

タチバナが丁寧だが、強い意思とハッキリした口調で、横からバロンの答えを先に言うように質問した。

バロンは、少し間を置き、持っていた最後の葉巻の一本に火を灯した。

それ以外・・・持ち合わせの葉巻はない。

あの上質な香りのする煙は時間をかけ、このWAVE放送局のピリオドが打たれるであろう最後の戦いの場を

色鮮やかなハバナの景色に変えた。

私が提案する刹那の・・・そして〝最後のゆっくりと動く時間〟を悟ったかのように。

バロンの長く静かに吐きだす煙は、ピエールの横を通り、カワカミの横を流れ、タチバナの上で天井に上った。


「中国だ。

売り先は中国だよ。北朝鮮はダミーだ。」


本来なら・・・

バロンが売り先を交渉中の我々に明かす必要など・・・ひとつとしてない。

しかし、長い時間の中で・・・

数か月に及ぶ、このWAVEの交渉の中で---------

バロンは、本当のことしか言って来なかった。

少なくとも嘘はない。

T社長の債権を利用した株式入手方法でも、問題があるにせよ・・・嘘は言っていない。

だから刑事的責任もない。

合法である敵対的買収の手法にハマったT社長のほうに責任がある。

ずっと言い続けてきたが・・・本音で語ることは、最も有効な交渉手段である。

それは、信頼と言うよりも

相手との〝共感〟を得る最も良い方法であり、なすべきことをなすための唯一の方法である。

だからバロンは、電話の向こうのWAVE社の取締役の一部や、カワカミも含め・・多くの者を取りこむ。

まるでその吐きだす葉巻の煙で絡め取るように・・・

人々の心を誘惑していく。

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WAVE放送局です。

今年のヒットチャートいよいよ第7位です。

♪♪♪  


バロンは続ける。

「この日本という国は、資源も、広い国土も、軍隊も持たない。

それでいながら・・・ほんの数十年前まで、世界の称賛を浴びていた。

優秀な頭脳を持ち・・・苦労を苦労と思わない勤勉さで、敗戦という瓦礫の中からたったの30年あまりという驚愕のスピードで世界第2位という経済大国にまでなった。


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しかし今はどうだね?

バブル崩壊後の〝失われた10年〟と言われたのは今は昔。

すでに〝失われた20年〟と呼ばれだしている。

かつて世界に称賛を浴びた国は、誰にも尊敬されないかわりに、誰からも相手にされなくなった。

この国に文句を言う国もいなければ、この国の成功を学ぶ国もいなくなった。

誰もが原因は経済だと言う。

私は違う意見を持っています。

この40年の日本の成功をもたらしたものは、優秀な社会制度です。

1950年代に日本は、劇的な社会的イノベーションをおこなった。

輸出戦略や官民協調・・・終身雇用なんて制度も典型です。

イノベーションは何も技術的なものだけではない。


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今、日本に必要なのは社会的革新ですな。

製造業が富を生み出す時代はとっくのとうに終わっています。

すでに米国では、製造業の雇用者数は、ここ40年で半分になっています。

全労働人口の10%近くにもなっておるのです。

しかし、生産量は三倍です。

この意味がわかりますかな。

世界の富と雇用の源泉が、すでに製造業から別のモノへと変化しているのです。

残念ながら日本はまだ、4分の1近くの者が製造業にしがみついている。

あらゆる先進国が、今現在、この新市場、新規に現れた雇用機会、全く新しい価値観に凌ぎを削って参入を狙っています。

各国が、それぞれの答え、それぞれの政策、それぞれの解決法を見つけ出そうと必死です。

振り返って・・・



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今の日本は、いかがですかな?


私は、WAVEの将来像だけではなく・・・日本の将来像を見据えているんです。


私はこの国を変えるために働いているのですよ。



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日本のイノベーション?」



先の先を見据えた壮大なバロンの未来の眼に・・・・

タチバナは微動だにせず、バロンを見つめ、

ピエールは、息をのみ込む。

壁の近くに立っていたマウスは、頷いていた。

煙は、部屋の空気と混ざり・・・その場にいる者の鼻から体内に取り入れられる。


「確かにそうじゃ。」

徳之助がバロンの言葉に賛同するように続ける。

「考えるということを面倒になった、この国の国民は、〝知の大事さ〟と言うものを忘れておる。

知に対する緊張感のなんとないことか。

政治が悪い。景気が悪い。運が悪い・・・・理由を付けるのは簡単じゃ。

しかし、それを、何も気付かずに受け入れてきたのもまたわしら〝国民〟じゃよ。」


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「知の衰退・・・・」

官僚がWAVE本社からの電話のスピーカーから声を発した。

バロンの煙は、電話を通しても香るらしい・・・


ピエールが後を続ける。

「確かにそうです。今の日本は考える事を放棄した人間が多い。それは単なるゆとり教育の弊害なんて事で言いきれませんよ。」


「今の若者は、〝明日のこと〟しか興味を持たん。個々の変化ばかりに気を取られ、大きな時代の流れを読むことをせん。」


「今は・・・みんな、半径1m以外の事に興味を持ちませんからね。」

徳之助の言葉にタチバナが返した。


「個々の小さな表現の違いはあっても、大きな変化と言うものがどうしてもおこりませんね。」

ピエールが真剣なまなざしで答える。


「社会的イノベーションを超こすには何が必須ですかな?」

バロンが皆に聞く。


「政治、教育、新市場、新しい雇用機会、産業、個々の意識等々・・・・いろいろあります。」

官僚がスピーカー越しに答える。それにバロンがすぐに反応した。


「私は、それら社会変革に必要な分野に投資をすでにおこなっています。そして、その中でも社会変革に極めて重要な役割を担うのは・・・〝メディア〟ですな。」


なるほど・・・バロンなりに理屈はあると言いたいのか・・・

日本に社会変革が、今最も求められているのは正解だ。

そして、知の衰退を最もけん引しているのもメディアであり、ナチスの成功で分かる通り、プロパガンダと称するメディアによる世論の形成は、重要な役割をなす。


「しかし・・・中国に売って・・・日本の社会変革ですか?」

ピエールが言葉を刺した。 「法律違反ですよ。」


「間違ってはいけませんな。

中国は単なる資本の参加者です。各国から集めた優秀な人材を集めて、組織にし、有効な電波利用、つまり貴重な日本の資源活用をおこなっていくことに変わりはない。」


「ある意味男爵の言っていることは正しいのかも知れん。

そもそもこの国は、外国の圧力がなければ何も変えられん国じゃよ。

しかも、今のメディア、特にTVの凋落ときたら目も当てられないのも本当じゃ。

チャンネルをひねれば、〝クイズ番組〟と〝バラエティ番組〟。

どれも一緒で、わしには区別できんよ(笑)」


「確かに、ニュース番組や報道番組も、

政治と経済を何も知らない者達が、素人やタレントのパネリスト達と話題とニュースを次々と変え

〝ただの団地の井戸端会議〟の延長をしているだけで、何も中身がない。」

そう言うピエールの後にタチバナが続ける。


「クイズ番組も、答えがある。

つまり、本当に考えるということを、見ている者に強要しない。

現在で最も重要な点は、〝答えがでないことに〟いかに〝答えを見つけていく〟かだろう。



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「まさにその通りです。」

バロンがタチバナの答えを待っていたかのように締めくくりの演説を持ちだした。

「良いですかな。これからの国は二極していくのです。

ロボットのような人間を安く大量生産し、工業化社会のディスカウンターであろうとする国。

中国やインドが現在最前線を走っています。

もうひとつは、知恵とチャレンジ精神とイノベーターであろうとする国。 

シリコンバレー型ですな。・・・・。

日本は岐路に立たされておるのですよ。

私は、こう考えます。

ネットが次期に、マスメディアを越える時代がくるでしょう。

それは今から十年後の2010年頃と読んでいます。

今、日本は変わらねば、世界でのリーダーの一端は二度と担えない国となり下がるでしょう。」



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バロンの言っていることは正しい。

ネットは今後、ますます発展し、人々の生活に根ずいていくだろう。

発展したネット社会では、試験問題を知恵袋で聞いた者がいたように、

答えがある問題は、簡単に解決法を得られる時代となる。

答えを求めても誰も瞬時に答えられない問題について、

自力で答えを出していく、〝考える力〟が必要となろう。

一方で、マス・メディアは、今日・・・増々、〝意見〟を持たなくなった。

北朝鮮のような〝たけし城〟はもう現代の日本のテレビでは流せない。

監督官庁の規制が厳しくなったのか。

違う。

メディアが自主規制しているのだ。

原発問題も然り、グルメリポーターは決してマズイとは言わない。

スポンサーや取材に応じてくれた人の批判はしない。

何も言えないから、場当たり的なリアクション芸や突っ込みの上手いだけの芸を持っていない芸人が

全ての番組を埋め尽くす。

正しいことを、迷惑のかからないことを伝え過ぎて、自身の首を絞めている。

〝意見〟の無くなったメディアなど・・・・・〝面白くない〟

なぜなら意見がなければ心に響かないからだ。


ほんの10年前にまったく想像だにしなかった事が起こっている。

当初プロたちは、

全員がバカにしていた。

そんな〝モノ〟誰が見るのかと。

プロではない素人が創った映像がyoutubeで番組製作会社の製作量の数万倍の数でUPされ、

数万分の一のコストで創られ続けている。

キラー・コンテンツの問題ではない。

映像が荒かろうが、内容に無理があろうが、大物タレントもリアクション芸人も出ていなかろうが・・・・

ある個人にとっては、それがキラー・コンテンツとなりえる時代になってしまった。

望もうと望まなかろうと。

いつからか、この国は、人に迷惑がかかるのではないか、

嫌われるんじゃないか、

何の得にもならないんじゃないかと・・・

〝意見〟を言うことに自主規制を自ら敷くようになってしまった。


バロンはまさに。

日本が変わる為の外圧なのかもしれない。


大晦日の深夜・・・

カウントダウンを数分後に控えた送出センターC3スタジオディレクタールーム。

バロンの煙は、各人の脳髄を痺れさせ、私は追加点を取られたと思った。

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夜の街並み

http://www.flickr.com/photos/yugoroyd/3541334608/sizes/l/in/photostream/


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