43時間 Part21 | cracking-my-ballsのブログ

43時間 Part21

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県警    Prefectural Police


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山梨県警 K警察署捜査一係。イナムラ刑事。

カワカミとヨコヤマ副検事は、直接会いに行った。

電話でことは済んだかもしれないが・・・カワカミが何かを感じたのかも知れない。

暖かい季節になれば観光客でごったがえす、その街だが、早い冬の訪れの準備を始める今は閑散としていた。

きっと春には素晴らしい景色が楽しめるだろう自然と富士をいただく眺望は、仕事で来るには惜しいですね。

とヨコヤマ副検事に言わしめた。


イナムラ刑事は丁寧に対応してくれた。

「遠いところを、わざわざ検事さんにお越しいただけるとは、恐縮です。」

イナムラ刑事は、定年近くの59歳。

髪に白いモノが混じり、買った時より痩せたのだろうか、少し大きめと思えるグレーのスーツを来ていた。

室内での敬礼。

つまり

直立不動から指先をまっすぐ下にのばし、頭を下げお辞儀をしてきた。

ちなみに、警察の敬礼は、室内もしくは帽子をかぶっていない場合は、目の上に水平に手をかざすような敬礼はしない。そんなことをするのは、ドラマの中だけで間違いである。

室内もしくは帽子をかぶってない時は、〝お辞儀〟のような形になる。

蛇足だが、

着帽の際のやり方は肘及び腕の角度が地面に水平で、手のひらは決して相手に見せずに眉毛のところで手も水平に翳(かざ)す。

これが正式な警察の敬礼である。


イナムラ刑事は、ゆっくりと丁寧なしゃべり口だが声のトーンは40年以上の刑事生活が培ったのか・・

低くしゃがれた経験を感じさせるものだった。

「腔旋痕諸元(こうせんしょげん)・・・つまり、右回転6条の腔旋痕で、旋丘痕:幅3.2m、腔旋痕角:3.6度。

モモセの家宅捜索で見つかった拳銃と発射銃種が同一だったわけです。

私の担当する・・・ある事件の鑑識結果ですがね。」

事実から物事を見ていく・・・現場100回を貫くような・・・丁寧な現場のデカだ。

「担当する事件というのを、よろしければお聞かせ願いませんでしょうか。

もちろん話せないところは結構ですので。」

カワカミも丁寧に聞いた。

「検事さんも広い意味じゃ同業者ですからね。

。別にブンヤじゃないんだ(笑)・・・新聞にも載りましたしね(笑)

かくすことはありません。」

都会でいつも身にしみて感じる・・・部外者に対する敵対心の感じられないイナムラ刑事の対応にカワカミは頭を下げた。


「10月11日から12日にかけての未明、〇〇湖畔から少し離れた別荘で殺しがありましてね。

いや、ガイシャ(被害者)はマルビー(暴力団関係)ばかりですよ。

全部で5名。全員射殺体で見つかりました。

4名が別荘の一階部、1名が地下室から一階に昇る途中の階段です。」

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「その射殺した犯人の銃をモモセが所持していたと。」

「正確には所持ではなく、自宅からの押収物の中に有ったと言うことです。

ちょっと日本じゃ、あまり見ん型の銃でしたからね。

情報を聞いた時、私はすぐにピンときました。」

「でわ、その事件の犯人は、モモセもしくは、その一味の犯行だと。」

「ガイシャは、モモセのいた元〇〇組の幹部1人と、その構成員4人、破門された腹いせか何かですかね、

暴力団と破門組の内輪モメってことなら簡単にカタは付きますわな。」

ヨコヤマ副検事は、フムフムと納得するように顎を話しに合わせ下に何度もさげた。


「ただ、いくつか・・・私には、どうも不に落ちない点がありましてな。」

「何んですか?」 

そういうとカワカミの眉間のしわが真中に集まり深まった。

イナムラ刑事の答えは意外なものだった。

「よろしければ、現場にご案内しましょう。あなた方もいわば、捜査関係者でしょうし・・・

検事さんのほうが、私の疑問に答えを出してくれるかもしれませんしね(笑)」



  ♪♪♪





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現場   Spot   


イナムラ刑事の運転する車にカワカミ検事とヨコヤマ副検事は乗せてもらった。

途中、湖の水面が太陽に反射し、眩しいぐらいにカワカミの目を照らした。

その湖畔の脇の道を10分ほど走ると、山道に入った。

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5kmぐらいだろうか、対向車が全く来ないような寂しい森林道を走る。

更に進むと午後の2時だと言うのにうっそうと茂った雑木林が光を遮断し、不気味な黒灰色になってきた。

その雑木林の先に、一件だけポツンと〝現場〟があった。

そこに続く最後の道には、〇〇県警によってずいぶん簡単だなと思うような立ち入り禁止の規制看板が立てられており、

その看板を中心に左右に2本の鉄の棒が立っている。

2本の棒の間には、鎖がかけられ・・・車が通れないようになっていた。



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その前でイナムラ刑事は車を止め、

何度も訪れているのだろう・・・

慣れた手つきで鎖に付いた錠前を外すと

再度車に乗り込み走らせる。

入口のすぐそばの空き地にイナムラ刑事は車を止めた。

砂利が敷き詰められているのか、特有の停車音がする。


「着きました。」




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イナムラ刑事のその声で3人は車を降りた。

紫色のようにも濃い茶色のようにも見えるその建物は、横に小さな納屋があり、周りには他の家はない。

まるで人から隠れるようにその別荘は立っていた。裏手は崖になっており訪問者を拒んでいる。

「なんか・・・怖いですね。」

殺人の現場に直接訪れることはめったにないヨコヤマ副検事が思わず声を洩らした。

正面の入口は、少し高くなっており、2階部分は斜めや縦、横に格子のように木材がデザインなのか奇妙な幾何学的に組まれている。

入口の黒く重いドアに張られていた〇〇県警のテープをイナムラ刑事が無造作に切って中に入る。

「持ち主が名乗り出ないもんでして・・・鑑識も検分も全部終わったんですが・・内部はそのままになったままでして。」

「そのままというと・・・犯行当日のまま・・・」

ヨコヤマ副検事が腰を少し後ろに引き気味にして目を細める。

「大丈夫遺体は残っておらんよ(笑)」 

カワカミが言う。

「持ち主がいれば掃除もするでしょうが・・・税金で民間の個人の家をきれいにするわけにもいかんでしょう。」

イナムラ刑事が付け加える。

重そうなドアがあった玄関の廊下を抜けると、大きなリビングに出た。

外観とはうって変わって、

内装はログハウス調であり、中央にまきストーブがある。

煙突が付いており、高い天井まで伸びている。

冬にはこれで弾を取るのだろう。

今はもちろん使用されていない。


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カワカミがすぐに気が付いた。

何に?

床に粉のようなモノが撒かれていた。

その灰色がかった粉は、時間が経ったせいか少し変色が進んでいるように見えた。

「P弾ですよ。」 

イナムラ刑事が触らないようにと身ぶりと手ぶりで注意しながら答えた。

「P弾?」

ヨコヤマ副検事が質問するように疑問調で返答すると。

「P弾・・・つまり粉末状催涙弾・・・のことです。

デモ隊せん滅やサッカー場でのフーリガン対策なんかで使っているのを海外のニュースとかで見たこと・・

・ありませんか?

良く見るのはスモーク型ですが、これは、対玄人用のパウダー型ですな。

CN粉末が火薬の力でブチまかれるんですわ。

目と喉がやられます。

まぁ・・普通の奴なら吸いこんだら・・・反抗する気すらなくなります(笑)」

「なるほど。」 

ヨコヤマ副検事が納得するような仕草をするのを確認すると、イナムラ刑事は続ける。

「この1階に4人いました。

〇〇組の幹部が1人、その部下が3人。

ほとんど即死の状態だったと思われます。1

人に2発づつ。

何発かガイシャの人体を貫通し、そこの壁とそこの壁に弾はめり込んでました。

狙撃手は少なくとも2人以上いたと思われます。」

「何で分かるんです?」

「ひとつは足跡からの判断と銃弾の種類が2種類・・・それぞれのガイシャの遺体から検出されまして・・・」

「なるほど。」

「こちらへ、どうぞ・・・リビングのドアを開けると、1階から地下に続く階段がある。

やや長目の階段だ。

階段自体は木製で先ほどのリビングの内装と調和がとれているが、階段の突きあたりの地下室の入り口は鉄のような材質でできている。


  ♪♪♪    


3人で降り、地下室の扉を開ける。

重く鉄と鉄がいがみ合うようないやな音が響いた。

中は真っ暗だった。

イナムラ刑事が手探りでコンクリートの壁に付いてあるスイッチをつけると一部の電球の灯がともった。

なんとなく湿った感じで、地下だからかどうしても薄暗い。

中は倉庫だったところを、荷物を隅に寄せて真中に大きな広いスペースを無理やり作ったような場所があり、パイプ椅子が3脚と誰かが、寝ていたのだろうか、通販で売ってそうな安っぽいマットレスが4つ並んで敷いてある。



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椅子の置いてある所の上だけに電球があり、まるでスポットライトのようにそこだけボウッと滲むように明るい。

良く見ると床に黒いしみがところどころ付いている。

「血痕ですか?」

カワカミが聞いた。

「そうです。鑑識が調べました。」

ヨコヤマ副検事は今にも飛び上がりそうな腰つきになり、暗闇の奥から出てきそうなモンスターに身構えるような姿勢で警戒している。

「ここに、計7人が監禁され、拷問のようなことが行われたようです。」

「あの・・・また質問して申し訳ないのですが・・・なぜ、7人と分かったのです?

・・・その7人は、誰も見つかっていないわけですよね。・・・今現在も。」

「ええ・・今現在、ここにいた7人が誰だったのか、どこに行ったのか、全く見当がつきません。

7人と分かったのは残っていた血痕からDNA鑑定をした結果、7種類の血液が採取されたからです。


ちなみに1階にいた4人と階段で殺された1人とも全て違う種類です。

ですから、7人がここに閉じ込められていたことは間違いありません。」

「それを見張っていた1人と1階にいた4人が7人を閉じ込めていたと?」

「そう推定されます。」

「ここの床には、刃渡り25cm程のサバイバルナイフ2本、鉈1本、ガスバーナー、ロープ、ガソリン、針金、ペンチ等々・・・が落ちていました。」

「うえぇ・・」

ヨコヤマ副検事が拷問の風景を想像したのか嗚咽交じりの声をあげた。


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「そろそろ、上に行きましょうか。」

リビングに3人は戻る。

カワカミがイナムラ刑事に満を持したように聞いた。

「イナムラ刑事が、引っ掛る不可解な点とは、どんなことなんでしょう?」

「多すぎて・・・まとめきれませんよ(笑)」

そういうとイナムラ刑事はスーツのポケットから黒い革の手帳を取り出すとペラペラとめくり、しゃべり出した。


「第一にP弾(粉末催涙弾)です。こんなものは暴力団は使いませんわな(笑)これは誰でもわかる。」

イナムラ刑事は手帳に目をやりながら続ける。

「そのP弾ですが、鑑識が成分を調べたところ、国産品で・・・・3型 M-30Pだそうです。

日本では、機動隊か自衛隊が使用しているモノだそうです。」

「自衛隊が使用するモノ?・・・」

カワカミが独り言のように呟(つぶや)いた。

「第二に銃弾から分かった使用された銃の種類ですが、ベレッタとグロッグでして。

ご承知のようにベレッタは米軍や米国の警察の正式採用銃、

グロッグは米国のSS(シークレットサービス)やCIAなどが使うものですな。

距離と発射角度、貫通の状態から、ご丁寧にサイレンサー(消音器)付きだと推定されました。

これもまた・・・暴力団が使う代物じゃありません。

まぁ・・・最近じゃたまに使用例がありますが。

ちなみに〇〇組の構成員であったガイシャらの持っていた銃は、中国のコピー品で北朝鮮製のトカレフ2丁。

内一丁は未使用。

もうひとつはいわゆるジャムった(弾詰まり)状態で見つかってます。

酷い劣悪品ですよ。こういう銃を使うのが普通の暴力団です。」


「第三に窓をご覧いただきたい。」

そうイナムラ刑事に言われ、ログハウスの大きな木枠でできた広めの窓を二人の検察官が振り向き見ると

ガラスが割られており、段ボールのようなモノで雨風が取りあえず入らないぐらいの応急の処置がされてある。

「重要な点は、穴が二つ開いていた点です。ひとつは、P弾の着弾時に破損したモノ、もうひとつはP弾とは大きさが違っておりました。」

「なんです?」

「炸裂閃光弾(スタングラネード)を投げ入れたものだそうです。」

「炸裂閃光弾?」

 机の上でしか事件を感じたことのないヨコヤマに副検事には刺激が多すぎることばかりらしい。

「ドイツのGSG9が開発した対テロリスト対策兵器で、爆発すると爆音と猛烈な光が出ます。

一時的・・・45秒間くらいでしょうか・・そこに居合わせた者は三半規管と視力を奪われ、何もできなくなります。・・・いや・・私も専門家の受け売りですがね(笑)・・・実際に見たことはありませんよ。そんなもの(笑)」

「そんなモノ・・・モモセのいた組織・・乱気竜で使えこなせるわけありませんね。」

カワカミの返答に

「存在自体も知らないと言ったほうが正しいですな(笑)」とイナムラ刑事が顔に皺を作りながら言う。


「これら三つは全て、その辺のチンピラの仕業とは思えんのですよ。」


まき散らされたCN粉末の床に一部四角い後のようなモノが残っている。

そこの部分だけ黒灰白い粉が付いていないので、形がわかるのだ。

同じようにソファ近くに木製のテーブルがあるが、そこにも、何かが載っていたような四角い跡が残っていた。

「これは、鑑識の方か・・・?捜査の方が何か持ちだしたのですか?」

「良くお気づきで。

いえ、そこには、我々が来た最初から物がなく・・・そういう風に跡が残っていたんですわ。」

イナムラ刑事がカワカミの見つけた疑問点を再確認するように答えた。

「事件当時・・・何か物が置いてあったということでしょうな。

その跡は・・・何が置いてあったか・・私にも皆目見当がつかんのですわ・・・」

何者かがこの部屋に侵入する際、粉末催涙弾を使用。

つまり、部屋じゅうにCN粉末が飛び散った。

床に壁にテーブルからソファに・・・

例えば、そのあとにソファを動かせばソファの形に跡が残る。遺体は、粉末が飛び散った後の床に倒れ込んだんだろう。原型をとどめていない。

しかし、きれいに四角く残る床の跡は、粉末が飛び散る前は、そこには、何かが存在し、それが、後に持ちだされたことを意味していた。

床の四角の跡は、横幅1m50×縦幅1mぐらいのきれいな長方形の跡だ。横に不定形な楕円のような形が残っている。


 
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テーブルの上の跡はというとこんな感じだった。


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「何ですかね?」

ヨコヤマ副検事がテーブルの形を顔を横にして

「ナスカの地上絵ですかね?(笑)」

イナムラ刑事もテーブルの周りをうろつくが、「私も見当がつきませんで・・・なんですかねぇ・・・」

カワカミは、腕組みをし、その模様をじっと眺めている。

少し、模様の上に手を掲げるようにした。

小さな四角の集合体のように思えた。

ひとつの四角はカワカミの手より少し大きいくらいだ。

カワカミは何かに気が付いたように

「ヨコヤマ副検事!----------」

「はい?」

「財布貸してくれ--------」

「え?・・・・こんな時にお金の貸し借りですか?」

「ばかな事言ってないで、ほら----------」

カワカミがヨコヤマ副検事の財布から一万円札を出すとそのテーブルの影に当てはめた。

「ピッタリだ。」

「これは・・・紙幣の束を積んであったところに、炸裂閃光弾の爆風で金の束が崩れた跡だ-------」

「なるほど。」

イナムラ刑事が顎に手をやりながらうなづく。

「ここには、札束が置いてあったんだ。そして、侵入者が持ち去った。」

「大したもんだ。都会の検事さんは。」

そういってイナムラ刑事は手帳で自分の額を一回叩いた。

「しかし、そっちの大きな四角と不可思議な跡は何だかわかりません。」

「いえいえ・・・大金があったということがわかっただけでも・・・収穫ですわ。」






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粉の後           Marks of powder

 

カワカミ検事とヨコヤマ副検事が山梨県警を出て、中央高速と首都高速を乗り継ぎ

検察庁の駐車場に車を乗り入れた時はすでに夜になっていた。

検事室に入るとカワカミは机に付き、イナムラ刑事のくれた捜査資料に目を通した。

そして、自分でも〇〇湖畔の別荘で怒った事件の整理を頭でおこなった。


捜査資料には、

〇〇組構成員5名。

幹部が1人、構成員が4人、内1人が地下に閉じ込めていた者達を監視していた。

地下に閉じ込められていた者達は、計7人。

誰一人として身元確認はされていない。

また、生存も現在は不明。

上述した以外の足跡は、4名。

内3名の足跡は同一。

軍関係や特殊な作業に付く者が履くことが多いとされるワークブーツだそうだ。

同一の模様から3名と割り出したのは、サイズや歩幅や体重のかけ方、向き等・・・で分かるのだそうだ。

残り1名の足跡は革靴らしい。

犯行時刻は、深夜0時から2時ぐらいにかけて。

目撃者はいない。


現場にはひとつも落ちていなかった打ち殻薬莢(やっきょう)は、押収された銃とは別に中野の乱気竜のアジトで発見されたのだそうだ。

事件の概要は、全ての証拠がその犯人はプロであると指し示している。

モモセやあの歯の抜けたオオワダが、こんなプロの仕事ができるのだろうか・・・

ましてP弾や閃光炸裂弾を使用できるとは到底思えない。

ということは、誰かに犯罪に使われた銃を置かれた後、家宅捜索が行われた可能性が高い。

そして、犯行現場にあった多額の現金、もしくは・・・もう一方の四角い跡を残したモノが、オオワダを取り調べたS警察の担当官が言った〝興味深いモノ〟なのだろうか・・・・

しかし・・・横幅1.5m、縦1mのモノ?・・・一体何なのだろうか。



そして、その横にあった奇妙な楕円を描くような形の跡・・・・・


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繋がり Relation


翌日、

カワカミの机の前に現れたヨコヤマ副検事は、上気した面持ちで

「新しい情報を手にしました。」

と資料を片手に興奮気味にしゃべりだした。

「調書を作成したS署の巡査の一人ですが、乱気竜との繋がりがあります。」

「どんな?」

「乱気竜のやっていた売春、つまりデートクラブや裏の出会い系サイトの一斉捜査にS署として参加しています。それも過去数回。」

「繁華街を管轄に抱えるS署だ。

別に地域課が捜査に参加しても問題ないだろう。人手の問題もあるし・・・」

「そうです。

しかし、その手入れの情報を流していたとあっては別でしょう。」

「裏は?」

「乱気竜の運営したデートクラブで働いていた女性数名が巡査を何度も相手にしたと・・・殺されたシンジョウの命令で。」

「こういうことか・・・捜査情報を乱竜に流す見返りに、そこの女を抱かせてもらっていた?」

「可能性は高いといえます。」

「しかし・・・調書を書いた巡査が殺された乱気流のメンバーと繋がっていたからといって、山梨の別荘の事件とはどう繋がる。」

「そこなんですが・・・調書を書いたとする巡査三人の過去を調べてみました。」

調査したというヨコヤマ副検事の資料を目にし、カワカミは手元のA3の紙に書かれた事実に心の中で乱れていたメロディがひとつの曲を作り上げていくのがわかった。



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 ♪♪♪

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敵陣           Enemy's line


ヨコヤマ副検事との話しの途中にカワカミの机の電話が鳴った。

S署の警務課の調査官のサトウだった。

<お会いできませんか。>

電話の向こうのサトウの声は、カワカミとヨコヤマ副検事の捜査の過程を全て知っているかのような落ち着き払った声だった。

S署の入り口で立ったままの姿勢で部外者二人をサトウは出迎えた。

「わざわざ、検事さんにお越しいただいて申し訳ございませんね。」

その言葉には、警察の威信と検察に対する疑心と偉功心が折り混ざっていた。

サトウ調査官は、若くして教養課、総務課、そして警務課と管理部門をあっという間に出世した、S署きってのホープだ。

職位は警視である。

S署のコウカイ(公廨)・・・一階の大部屋は異様な空気が敷き詰めていた。

よそ者の白バッジ(検察)を敵視するような鋭い視線がカワカミとヨコヤマ副検事に突き刺さるように注がれた。

調査官であるサトウも本質的には、本部に尻尾を振る犬ぐらいの目で見られている警察を取り締まる警務課の人間だ。

いわばスパイのような者が、自分らの城に〝敵〟を連れ込んでいるようなものであるから、それは、凍てつくシベリヤの荒野のような研ぎ澄まされた空気が張り詰めている。

「365日、24時間!私は警察官であります!」

というような目をした刑事課の奴らの〝内偵〟に対する重なり合う憎悪ともとれる眼は〝部外者〟のカワカミとヨコヤマ副検事を容赦なく射抜く。

自分の家の問題を他人に委ねる。そんあ屈辱的な事はない。

署内の警察官の歯ぎしりが聞こえるようだ。


「私が同席するという条件で二名の巡査に会う事ができます。」

「よろしくお願いいたします。」

面会する巡査らの経歴書には事前に眼を通しておいた。

オオワダに職務質問をしたとする巡査長は、59歳。

永年勤続で、1階級特進。

異動内示を待たずして、すでに休暇に入っていた。

よってこの男は署にはいないので会えないとのことだった。

生涯一巡査を貫き通したS署のオヤジ的存在だったらしい。

その巡査長の応援要請に駆けつけた巡査は、捜査一課盗犯係の二名。

一人は留置場の看守を1年やって、捜査一課に入った若い巡査だ。

もう一人は、巡査にしては歳を取りすぎている。その年齢以上に異色の経歴はカワカミの目を引いた。

この二人には会えた。

巡査二人との面談には4階の会議室が使われた。

質素なテーブルを挟んで、調査官のサトウの同席の元、カワカミとヨコヤマ副検事が件の巡査の聴取を行った。

最初は、若いコイズミ巡査だ。

カクカクした動き方で、丁寧な敬礼のお辞儀をすると糸で吊るされたような姿勢のまま会議室の椅子に座った。

「午前十時十二分。自転車盗難の通報、二名が出動。十時四五分帰署。----十二時三〇分物件交通事故。二名出動。午後一時三〇分帰署-----。午後二時二二分タカムラ巡査長から応援要請。二名出動-------」

当日の署内の出動記録日誌を読んでいく。

しかし・・・・

「自分のことは、すでに監察官に全て話しました。それ以上のこともそれ以下のこともありません。監察官にお聞きください。」

コイズミ巡査は、我々の質問に、全てそう答えるだけだった。

「君は高校時代・・・射撃で国体に出るほどの選手だったそうだね?」

「はい。」

「ライフルだけじゃなく、短銃・・・つまり拳銃も得意なのかな?」

「自分のことは、すでに監察官に全て話しました。それ以上のこともそれ以下のこともありません。監察官にお聞きください」

会話にならない・・・

もう一人のミキ巡査も全く同様に・・・

「自分のことは・・・すでに監察官に・・・」

まるで、自動販売機だ。コイズミ巡査と同じことしか言わない。

「君の経歴だが元自衛隊のレンジャーだったらしいね。」

「何か不都合でもありますか。」

ミキ巡査は、椅子に座っていても背筋が伸びている。

坊主頭で首が太い。

通常警察官は柔道か剣道をやっているものだが・・・〝格闘技〟と書いてある。

「クラブマガ・・・?ってどんな格闘技なんです?」

ヨコヤマ副検事が聞いた。

「イスラエルの軍が採用している護身術であります。」

「そうですか。」


二時間を要したが、分かったことは監察官に全て話したので、聞いてくれとのことだけだった。


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鑑識の中身        Contents of judgment


そのあと

S署の鑑識課長に面会できた。

「平成〇〇年(イ)第〇〇〇〇号の覚せい剤取締法違反事件の件で、カワカミ検事がお聞きしたことがあるそうで・・・」

「何でも・・・どうぞ。」

鑑識課長は、実直を絵にかいたような男だった。

目尻に皺を持ち、眼鏡の奥に常に落ち着きを灯していた。

「10月14日・・・オオワダ・・・いや・・・反社会組織〝乱気竜〟の中野〇〇町〇〇番地の家宅捜索でアジトから押収されたモノを見せていただけたらと・・・」

鑑識課長は、しばらく聞こえないようなそぶりで黙っていた。

そしてサトウ調査官のほうを見る。

調査官が顎でOKのような指示を出すと、奥のスチールでできた棚に並ぶ数多くの段ボールの中から、ひとつを選び、抱えて持ってきた。

カワカミは少し動悸がしているのを不思議に思った。

与党の大物政治家と対峙した裁判でも、直接証拠がない被告人を求刑通りの判決に持っていった時にも、こんな胸の動悸を感じたことはなかった。

オオワダの言う〝興味深いモノ〟とやっと対面できる自分がこんなにも・・・緊張を伴うとは・・本人が一番、驚いた。

その緊張をサトウ調査官やヨコヤマ副検事に悟られないように落ち着いた風を装った。


段ボールの横には警視庁のマークと平成〇〇年10月14日押収資料・・・等の記載がされた紙が貼ってある。

「これです。」

ヨコヤマ副検事が中を開けると

「ええ!」

と声をあげた。

カワカミも段ボールの中を見る。

「なんだ・・・・なんだこれは・・・?」

サトウ調査官は「だから言ったでしょ」みいたいな顔をしている。


段ボールの中には何も入っていなかった。


「何も・・・何も押収されなかったんですか?」

「それだけです。」

鑑識課長は実直さを崩さず答える。

「何もないなんて!おかしいじゃないですか?」

「それだけです。」

鑑識課長は、それ以上口を開かなかった。

虚偽の発言をしいているようには見受けられなかった。

鑑識課長は後ろで手を組み背筋を伸ばして足を開いて力強く立っている。

顎は少し上を向き、目線はグレーの無機質な壁を見詰めている。


どういうことだ?・・・・・・・・

押収物は・・・何もなかった。



〝興味深いモノ〟など最初から無かったのだ。

・・・事実を突き止めるという行為以前にカワカミの無粋な好奇心にも似た興味深いモノへの動機は・・・急速にしぼんでいく風船のように消えかかろうとしていた。

落胆にも似た力の流失を伴い、その段ボールに手を置いた。

そのカワカミの手に少し------違和感がある。

〝粉〟?

段ボールに粉が付いている。微妙だが-------

「中身じゃない・・・・・」

「中身じゃない?」

カワカミの言葉をヨコヤマ副検事が繰り返した。

「そう・・・中身じゃない。この段ボール自体だ。」

「?????」

警視庁のこのマークが付いた段ボール自体が押収されたんだ。乱気流のアジトから。

カワカミは直感した。

サトウ調査官は、カワカミとは視線を意識的に合さないようにしているようだった。

鑑識課長は、まだ後ろで手を組んだまま仁王立ちの状態のまま・・・壁の模様を数えるように見つめていた。


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4        Four


カワカミは自庁に戻ると山梨県警のイナムラ刑事に、連絡を取り・・・詳細な四角い跡の寸法を聞いた。

横幅1500mm 縦幅1120mm の四角い跡-------だとわかった。

警視庁の段ボールの横幅750mm×縦幅560mm×高さ509mm。

750mm×2=1500mm

560mm×2=1120mm



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四つだ!


四つ並んでいた-------------------ピッタリ計算があう。」

「四つ積み重ねられていた?」

質問してくるヨコヤマ副検事にカワカミが答える。

「S署にあった段ボールには、別荘に有ったCN粉末と同じ粉が付着していた。

つまり、押収する際に警視庁の段ボールに入れたのじゃなく・・・最初から別荘に警視庁の段ボールがあったんだ。」

「鑑識課長の〝これだけです〟は・・・あながち嘘じゃなかったと・・・」

「嘘じゃなかった。

押収の際には-----本当に中身がなかった。

しかし・・・別荘にあった時は中身が入っていたはずだ。」

「何がです?」

ヨコヤマ副検事は眼を見開き・・皿のようにするとカワカミ検事を強く見つめた。

「決まっている。・・・警視庁に初めから有ったモノさ・・・・」

「それって・・・・」

「そのまさかだ。」

ヨコヤマ副検事が唾を飲む込むように喉仏を一回動かした。

「何者かが・・・警視庁から〝それ〟を持ちだし、

それを奪回する為に

何者かが別荘に乗り込んだ。


そして、中身の消えた段ボールだけ・・・乱気竜のアジトから発見された・・・・・」



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♪♪♪ (toutube広告入ります注意)


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教皇の教え   The instruction of Pope


カワカミは再度検事長室に呼ばれた。

今回は総務課長のアンドウも検事長の横に立っていた。

教皇は、いつになく険しい表情をし、カワカミを威嚇するような視線で・・・

「悔悛(かいしゅん)の情なしか・・・」

立派な木彫りの装飾が施されている年代物の机・・・それは歴代の検事長が執務を司ってきた・・・東京の正義を・・・いや日本の正義をカタチ創ってきた机だ。

そこに手を置きながら

「君も・・・この机に将来座るものだと思っていたがな。」

検事長室の絨毯は、検事室のモノより深く靴が入り込む、カワカミはどっちの足に体重を掛けて立つか迷った。

「おっしゃる意味がわかりません。」

「この件は、黙って通す。・・そう言ったつもりだったが?・・・私が言い間違ったかね?」

「いえ。」

「個人の一人がってなヒロイズムなど、TVや映画の中の話で・・・本当の成果は上げられないと・・・新人研修の時に教わらなかったかね?」

「はい。」

「調べて・・・真実を見たいか?」

「・・・・・」

「真実がいつも正義だと・・・そう願う・・・・若い頃の気持ちを思い起こしたのかね?」

「いえ。」

「正義が先にあり・・・真実は後に付いてくる。

我々検察官はそうで有らねばならん。」

横で総務課長は、デパートの店員のように腹の前で手を組み来店する常連客を相手に好かのように

二回頷くように顎を下に動かす。


「ことは警察庁のことだけではない。我が庁の威信もかかっている。

・・・・これ以上・・君がこの件に興味を持つことは・・・私も君の将来に興味を持たねばならなくなる。」


教皇は、ありがたい説法を延々続け、カワカミに悔い改めよ。

いにしえから伝わる教会の教えのみを信じなさい。と説いた。



検事長室のドアを閉める際に感じた気持ち・・・


敗北感・・・?

本当の正義?

検察の威信?


どれでも無かった。



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贖宥状                  Indulgence


贖宥状(しょくゆうじょう)とは16世紀、カトリック教会が発行した罪を免除する証明書である。

つまり日本で言う免罪符のことだ。

ラテン語表記は 〝indulgentia〟

元来、キリスト教では洗礼を受けた後に犯した罪は、告白(告解)によって許されるとされていた。

しかし、教皇レオ10世は、サン・ピエトロ大聖堂を建築する際の莫大な資金の捻出の為、この免罪符を乱発する。

当時の裁判は・・・

何のことはない。


教会が行っている。

〝贖宥状を買うことで、煉獄(れんごく)の霊魂の罪の償いが行える〟

つまり、金で有罪も無罪もどうにでもなったということだ。

こんなシュールな世界がいつまでも続くわけはない。

後にマルティン・ルターによって・・・巨大な宗教改革のうねりを引き起こす引き金となる。


現代の贖宥状。


罪を犯しても全て許される免罪符・・・・そんなモノが存在するのだろうか?


それが今回・・・・悪魔・・・ルシファーの手先に渡った。

そういう事件だった。


〝告解〟は、突然訪れた。

永年勤続で、休暇に入ったとする巡査長・・・〝イナバ・サトシ〟と連絡が取ることができた。

最初にオオワダ(破門組)に職務質問をした。とする巡査長だ。

サトウ調査官が、連絡先を教えてくれた。

ヨコヤマ副検事が電話をすると、まるで我々が連絡してくることを知っていたかのように

<お待ちしていました。>

という返答が返ってきた。

低く・・・落ち着いた声のトーンだった。

これは・・・

ミステリー小説ではない。

ある調書をなぞったひとつの出来事を振り返る作業でしかない。

それが・・・

仮に

検察と警察の根幹を揺るがす出来事であってもだ。


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錠前の写真

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眼鏡の男の横顔

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白黒の森の写真全部

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曇り空の街

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富士山の写真

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中古車や

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リアルな死体写真
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赤い写真全部

赤の写真
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