43時間 Part19 | cracking-my-ballsのブログ

43時間 Part19

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青山 :WAVE送出センター C3スタジオ


タチバナが、固定電話の内線にもう一本電話が入っているのに気付いた。



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「もう一台電話を持ってこい!」

私の掛け声でマウスが電話をスタッフと一緒に用意した。

「繋げ。」

バロンとカワカミは、何をいまさらという余裕すら見える態度でそれを見ている。

「スピーカーだ。用心しろ!クライム------------」

タチバナがバロンなど気にせずに言った。

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「クライムです。

別のところにかけてまして(笑)  間にあいましたか?」




「ギリギリのタイミングだ。」官僚が別のスピーカーから声を出す。

「電話を変わりますね。」

クライムの後・・・80代の老人の声がスピーカーに流れた。

「オホッ・・・ゴホっ・・・これは、向こうにも聞こえておるのじゃな・・」

「聞こえてます・・・」

老人の後ろでクライムのフォローする声が聞こえた。

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「こちらのWAVEの本社の取締役会も聞こえてます。取締役7人も全員聞いてますよ。」

官僚の声がもうひとつのスピーカーから漏れる。





「徳之助じゃ・・・知っておろうが・・・わしは・・・お前らの会社の株主でもあるが・・・」

バロンとカワカミが身構えるのがわかった。

「わしは・・・お前らの会社の社外取締役でもある。」

カワカミの顔色が変わった。


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WAVE放送局です。作者からのハガキを読みますね。

読者のPSLAMさんに・・・

事業計画書の返信が遅れていてすまん。・・・うん?

公共の電波を使って個人への返答ですかね・・・ジョン?

教えてもらった新しいサイトは見て、感想書いたんだけど、途中で酒飲んで寝ちゃった。そのまま

中途半端に・・・・返信まだになっている・・・ごめんね。

何言ってんですかね。

でわ・・曲です。

マウスさんのリクエストで

 

♪♪♪



「WAVEの本社に、いる取締役ども聞いておるか?」

「はい!」スピカ―が割れそうな声でT社長の返事が返ってきた。

「お前ら・・・定款を読んだことなどあるまい?うん?」

WAVE社の取締役会・・・そしてバロンのいるディレクタールーム・・・全員がその瞬間・・・静寂に包まれた。

バロンは葉巻を口から離した。

「わしは、取締役としての議決権も持っておることを忘れておらんか。」

マウスがYES!と言いながらガッツポーズを作った。

「わしは、解任反対に・・・一票じゃ・・・」

徳之助のしゃがれた声がスピーカーから流れ、WAVE本社の会議室とディレクタールームに流れた。

バロンが葉巻を消した。

ピエールがカワカミに慌てて受け取っていた書類を着き返した。

スピーカー越しにちょっとした歓声が聞こえた。

T社長と放送事業部長と、会議室に詰めかけていたWAVEのスタッフの歓声であった。

官僚が付け加える。

「WAVE社の取締役会は、取締役が現場に行けない場合は、電子的通信システムや電話でも会議に参加できると定款に乗ってます。」

そのあと官僚が続けた。

「社長の定款を見てみろとのヒントが生きましたよ。」


「良くやった。」

タチバナが思わず声を出した。


craking  my  ballsのブログ 「3対3・・・男爵・・・これで、T社長は解任できなくなりました。振り出しに戻りましたね。」

私は笑みを含めてバロンに言った。





バロンは、すでに何本目だか本人も理解していない葉巻に火を点けると・・・いつものように

ふかすのではなく、深く煙を肺に吸い込むようにしてから、髭に交わるかのように大量の煙を吐いた。

「実に惜しい。」


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「実に惜しい。・・・・良い腕を持ってる。・・・敵にするのは・・・惜しいぐらいな腕だよ。君たちは・・・・

是非・・・次は同じチームで試合がしたいもんだ。

しかし・・・同点になっただけで喜んでいてはゲームには勝てんよ。」

バロンが初めて同じ土俵に立った気がした。

「ところで・・・」

徳之助が続けた。

「男爵とやら・・・おるのか?」

「何でしょうかな?伯楽(はくらく)」

バロンがスピーカーの徳之助の言葉に煙を纏(まと)いながら答えた。

「わしも・・・お前らのけんかに参加しようと思ってな。」


バロンの笑いが消えた。

「ほう。面白い趣向ですな。

ですが・・・お言葉ですが・・・我々はけんかをしているわけではありません。

あくまで・・・ゲーム(交渉)ですよ。」

「わしはな・・・お前のような舶来風をふかせる奴が嫌いでな(笑)

WAVE社の株式買収というゲームにわしも乗らせてもらおうか(笑) カッカッカッ  (笑)」

「それは・・・それは。」

「名誉棄損的な発言はゆゆしき問題ですね。私はあなたの参加は認めたくありませんな。」

カワカミが間髪いれずに返す。

「売国奴の使いっぱしりは黙っておれ!お前に聞いておるのじゃない!」

C3スタジオとスピーカーの先が〝その″徳之助の一喝でドッとわいたのはいうまでもない。

徳之助は続ける。

「男爵・・・あんたの持つ株、そしてWAVE社の経営陣の集めた株式・・・全てわしが買い取ろう。と言っておるんじゃよ。」


「参加するには条件が有ります。」

バロンが視線をスピーカーの中心に注ぎながら言う。

「なんじゃ?」

「伯楽・・・このM&Aに電話で参加される。のですな」

「そうじゃ・・・」

「ならば・・・今から、私と、伯楽と目の前のWAVE社の雇った若造(私のことだ)の発する言葉がすべてであると宣言してもらいたい。」

「つまり・・・書面による契約ではなく・・・これから・・・我々のしゃべる30分かそこらの言葉のやり取りが・・・契約そのもんということじゃな。」

「そうです。我々の交渉に・・・コレからの話し合いに・・・

書面などという無粋なモノは必要ないでしょう。伯楽(笑)

ここでの交渉で発した言動は、契約と同一とさせていただきます。


むろん。


後から、そんなことはなかったということはないように・・・それぞれの弁護士が追認していただきましょうかな。」

「ふん。わしの横に・・・顧問の弁護士がおるわ。

返事をしてくれんか真弓ちゃん。」

「近衛家徳之助顧問弁護士の三河真弓です。」

「ほう・・・きれいな声ですね。」

ピエールが余計な言動を挟む。

「口頭による意思の一致(合意)で本争点の株式の売買が成立する旨、

その後の金銭の授受や株券の交付や権利移譲も含め全てが成立すると宣言しましょう。」

バロン側のカワカミが先陣を切って発言した。

そして、徳之助の顧問である真弓弁護士も、少しの間・・・徳之助と相談したのであろう。

こちらには聞こえなかった。

ひそひそ話しの後・・・30秒後ぐらいに

「口頭による意思の一致(合意)で本争点の株式の売買が成立する旨、

その後の金銭の授受や株券の交付や移管も含め全てが成立すると宣言し、

今後一切のなんらの異議も申しません。

以上をここに宣言します。」

ピエールも私の合図で承諾し、宣言した。

「引き返せませんぞ。」カワカミが私を見て・・・言葉を切り出した。

「すげえ・・・展開!」

マウスが思わず口にしてしまった。



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私VSバロンの闘いに参加表明した徳之助は

最初から、ゲームをリードしようと飛ばす。

「男爵・・・わしはあんたが好かんが・・・別にわしの持つ株を売らんと言っているわけでもない。

条件次第では考えてみても良いじゃろう。」

「どんな条件ですかな伯楽。」

「あんたの提示している金額の10倍じゃ・・・」

「それは・・・売る気がないとおっしゃっているのと同義語ですな。」

「そうじゃよ(笑)かっかっか。」

「買取ならば幾らですかな?」

「あんたの言っている額の半額じゃ。」

「それでは、私もお売りできませんな。」

二人でも大変な交渉は3人になり、それぞれの思惑が交差し・・・

泥仕合の呈そうを要してきた。

時計の針だけが無銃に進む。

突然、徳之助が、

「悪いが・・・10分ほど時間をくれんか?」

「ギミックは通用しませんよ。」

「いや、別の電話に出る用事があるんじゃ・・・そちらも急いでおる。」

「なるほど。」

バロンがニヤリと髭の端をあげる。

カワカミと何やらこそこそ話をし、

「良いでしょう。」

「時間がない時こそ・・・楽しめでしょ。」

タイバナが私の顔を見て言った。

「でわ、10分ほど休憩と言うことで・・・」

その声に徳之助は電話を切った。

刹那・・・・

物凄いスピードで宇宙空間を移動する流星の地表面に立っていれば、そこの時間はゆっくりと進む。

誰が見るか

観測者によって

時間の流れは違うのだ。

急いでいる全員が・・・迫るカウントダウンに向けて。

しかし、

だからこそ

その〝間〟は大切となる。

「休憩」の言葉にカワカミはソユーズの部屋を出た。

それにタイバナも続く。

私、バロン、ピエールは出る気配がない。

このまま交渉の詳細を詰める作業に入る。

マウスや他のスタッフも息をのんで・・・ディレクタールームに残る。

この・・・

休憩時間が・・・最後の最後に意味をなす。と知るのは、カウントダウンの終わった来年のことだ。



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渋谷17階:マツイ不動産本社:役員会議室とワークフロア


「良いんですね?」

「構わん。躊躇などいらんからな。良いか・・・言われたことだけを行え。」

渋谷のマツイ不動産のワークフロアに残っていた、青山の送出センターの電源停止を行う実行部隊のリーダー、コンドウにマツイ・トクノリは近寄ると声を大にし、意思を強固に最後の指示を下した。

WAVE放送局のファンの担当者マナベは、「本当によろしいんですか?」と再度聞き直した。

「くどい!」とマツイは一喝するとイチロウのいる会議室に戻ってきた。

実電源停止の実行部隊はエレベーターに乗り込んだ。

「う~ん。社長・・・やっぱり・・・考えを変えてくれないんですね。」

イチロウが、会議室の椅子に不機嫌そうに座るマツイ社長に向けて言う。

「当たり前だ。」

「困ったなぁ・・・」

「突然来て・・・お兄さんと言われても・・・初めて会った他人に〝はいそうですか"と答える奴がどこにいる?」

「たまにはいますよ。」

「連れてこい!」

「そんなにいきり立つと女にもてませんよ♡ お兄さん!」

「・・・・・」

「良い条件だと思ったんですけどね。・・・・徳之助さんの持つ全財産と引き換えですよ。」

「いまさら・・・父親でもないと思っている男の財産など充(あ)てにしてない。」

「本当に?」

「・・・・・」

黙ってマツイ・トクノリは椅子を立ち上がると窓のほうに歩み寄り、渋谷の街を眺めた。

渋谷の街は暗く、いつものように活気あふれる光は少なかった。

大晦日だからか・・・カウントダウンの前の静けさは、新年のバカ騒ぎを心待ちにしているようだった。

「なぜ?お前は・・・この件にそんなに肩入れする?

たかがオンボロ放送局の・・・どうでもいい問題だろう。」

「ええ・・」

「じゃぁ・・・なぜ?」

「仕事ですから・・・と言いたいんですが(笑)

・・・・徳之助さんと気が合ったからですかね。」

「あの頑固ジジイとか?」

「あなたも、頑固でしょ♡」

「・・・・・・」

「子供じゃあるまいし・・・自分を捨てたオヤジに・・・復讐なんて・・いつまでも固執していても・・・

カッコ悪くありませんか?」

「ふん!お前に何がわかる?」

「その・・・間の取り方と〝ふん″という息の吐き方がオヤジさんそっくりですよ(笑)」

「・・・・・」

「私も、父親はいないんですよ。」

そういうイチロウの言葉にマツイは窓から向き直り、話に顔を合した。

「正確には、子供のころに両親が離婚をして、いわゆる・・・シングルマザーってヤツですか・・・

母親一人に育てられました。

親の望まぬ・・・こんな私になりましたが・・・昼間のパート・・・夜のスナック勤め・・・

苦労して育ててくれました。

母さんのことは一番好きですが・・・捨てた父親のことを恨んだことなどありませんよ。」

「・・・・それ嘘だろ。」

「バレました♡ 」

「ふざけた野郎だ・・・」

「なぜ・・・そんなに嫌うんですか?」

「誰をだ?オヤジか?」

「いいえ。人を。人全体をあなたは嫌っている・・・・ように思えますが。」

「・・・」

「この世に・・・信用できる奴はいない。って感じですね。なんか。」

「・・・・」

「面白いですか?人生?」

「面白いかどうかで、人生を生きているのではない。人生は辛く・・・苦しいモノだ。」

「そう決めているのは・・・あなたでしょ。」

「・・・・・・」

「いい加減にしろ。

大晦日に・・・若造の愚痴など聞きたくもない。

話はこれで終わりだ。

帰って・・・オヤジに伝えてくれ・・・説得は失敗だったと。」

「良いんですか?・・・オレが席を立って・・そこのドアを出ていくと百億近くの財産が・・パーですよ(笑)」

「構わん。」

「ずいぶんカラ元気!」

「でわ・・・仰せの通りに帰ります。」

イチロウが答え、ドアを開けた途端にイチロウの携帯が鳴った。

イチロウが社長室のドアをもう一度閉め、訝(いぶか)るマツイ・トクノリの顔を見ながら、携帯にでた。

「クライムだ。」

「遅かったじゃないですか。」

「ちょっと官僚に電話をかけていてな(笑)・・・良いか?」

「ギリギリですよ(笑)」

「電話にマツイは出られるか?」

「聞いてみます。」

「兄さん!」

「だから・・・その兄さんはやめろ!」

イチロウは携帯のボタンを押し、スピーカーに切り替えた。よって部屋に電話の相手の声が響いた。

「トクノリ・・・わしじゃ。」

その声にマツイ社長の表情が代わり、ポケットに入れていた手を出し、まゆ毛を顔の中央に寄せると、スピーカーに注目した。


「久しぶりじゃな。」



お前の狙いは最初からこれだったのか・・・という表情でマツイ社長がイチロウを見やる。

イチロウはしてやったりの表情をしてトクノリを見て頬を上げた。

「どちらさまですか?」

「どちらさまじゃなかろう・・・同じ遺伝子を持つ者じゃよ。」

「いまさら・・・父親気どりですか?」

「いつ、父親気どりをした?」

「・・・・」

「お前のことは好かん。そういう態度を取るところがな・・・」

「私もあなたの、人の意見を全く聞かない・・・その態度が好きになれません。」

「まぁ・・・良い。いいから・・・棺桶に足を掛けている老人の声でも聞け・・・今宵は、祭りの夜じゃ。」

「・・・・・」

「お前の横にいるイチロウという若造がおるじゃろ・・・ろくでもないやつじゃが・・・」

イチロウは、その声に合わせて笑いながらトクノリの顔を見る。

トクノリは笑っていない。

「わしの新しい息子じゃ。今日・・・昼に顧問の弁護士に養子縁組をさせた。」

「・・・・・・」黙ってトクノリは、徳之助の声に聞き入る。

「お前がどう思おうと・・・条件をのまなければ・・・わしの財産は・・・そこのイチロウに全部譲る。」

「条件は・・・WAVEを助ける。

つまり・・・あんたの愛人の息子を助けることでしょう?」

トクノリが語気を強めながらスピーカーに吐き捨てた。

「愛人の息子? ははは(笑)」

「何が・・・・おかしいんです!・・・捨てた息子の無様な返答が・・・そんなにおかしいんですか」

「何を勘違いしておる。」

「・・・・」イチロウもスピーカーに注目した。

「絹之介(ケンノスケ)が・・・・愛人の息子?・・・ははは

お前は・・・なんにも母さんから聞いておらんのか?」

トクノリはその瞬間・・・目を大きく見開き、イチロウの携帯を握り閉めた。

「どういうことだ!」

「デカイ声を出すな。」

「どういうことだ!・・・オヤジ!」

「オヤジと初めて言ってくれたな。」

「オヤジじゃなければ・・・クソ野郎だ。」

「良いか・・良く聞け、トクノリ。」


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WAVE放送局です。

この物語の最初にかけた曲です。

もう一回・・・

ここでこの曲ですか?・・・・クリス。

そうですね。ジョン。


 ♪♪♪


「母さんが、わしと別れた後に再婚した・・・奴・・・いたな。

いや、わしとは結婚しておらんから、再婚じゃないわな。一応、お前の育ての父親になるんかの?」

「あの人も父親じゃない。あんたと同じだ。一緒に過ごした時間など・・・記憶にない。」

「そうか・・・そうじゃろ。」

「・・・・・」トクノリは、スーツのネクタイを緩めてYシャツのボタンを一つハズした。

「あの男・・・母さんと結婚した俳優・・・何て名前だったけかな・・・」

「〇〇〇〇です。」

「おお・・・そうじゃ・・・その〇〇・・・そいつと母さんとの結婚は偽装じゃよ。」

「のっ!!」

「ほんとに・・・何も聞いておらんようじゃの・・・」

「・・・・・」

「昔は・・・歌謡界・・・今でいう芸能界か・・・ご法度なんじゃよ。わしのような一般人と歌姫が結ばれんのわな。

俳優の〇〇じゃが・・・あいつはホモじゃよ(笑)」

「!!!お!ぐはぁ?」

「びっくりしたか(笑)・・・・育ての父親がホモだと母さんから聞かされてなかったんだな。・・・・ははは」

「私は・・・あなたに捨てられてから・・・ほとんど一人で生きてきましたから・・・オヤジというに値する人はこの世にはいません。〇〇とも・・・2、3度会っただけです。今まででも・・・・」

「一人で生きてきた?・・・嘘を付け・・・母さんの雇った家政婦に育てられたんじゃろ。」

「・・・・・そうです。ですが・・・少なくともあんたじゃない。」

「悪いが・・・その家政婦の給料はわしが出しておったよ(笑)」

「・・・・・」トクノリは顔の瞼(まぶた)の辺りを何度も揉むようにこする。

「母さんと有名俳優の〇〇の結婚は、世の中の理想のカップルだったからな。世の中が創り上げた夢の姿じゃよ。

しかし・・・・それは・・・・電波が作った架空の夢じゃ。」

「架空?・・・・母さんの人生は・・・架空と言うのですか」

「そうじゃよ。お前の描いておる母さんの幻想は・・・架空じゃよ。本当の母さんは電波の中にはおらんじゃろ。」

「・・・・・・」

「偽装の結婚じゃからな・・・その後も、わしと母さんは、ずっと変わらん。ホモの俳優のお陰で・・・

ずいぶんと楽に会えるようになったがな・・・(笑)」

「じゃぁ・・・なんで・・・なんで・・母さんを捨てたんですか?」

「捨てた?・・・捨てたことなど一度もない。

わしとの関係を隠し続ける・・・・それが、母さんの・・・・歌姫の生業じゃよ。」

「・・・・・そんなこと・・・私には理解できません。」

「当たり前じゃ・・・お前に理解など・・・求めんからな・・・しかし・・・お前の母さん・・・絹代が愛し続けたのは・・・わしと・・・」

「聞きたくもありません。」

「いいから聞け!」

「・・・・・・・」トクノリは携帯を手から離し机に投げ捨てるように放つ。

それをイチロウが机に立て直す。

スピーカーから徳之助の声は聞こえる。

「もう一度言うぞ・・・・母さんが人生で愛したのは、わしとお前と・・・・絹之介(ケンノスケ)だけじゃよ。」

「愛人の息子ですか?」

ばかもの!・・・創造力の働かん息子じゃの・・・・絹之介・・・はお前の正真正銘の弟だ。」

トクノリは・・・硬直して・・・電源の切れた機械のようにフリーズした。

「言ったじゃろ・・・母さんは偽装結婚した。その相手はホモじゃよ。女に興味はない。

で・・・ずっと母さんはわしと会い続けた。

絹代とわしは、ずっと会い続けた。それが事実じゃ・・・そして・・・

お前の次に生れたのが・・・絹之介じゃ。〝絹之介(ケンノスケ)〟という名前から想像できん方がおかしいじゃろ

(笑)

・・・・・

分かったか。

わしは、絹代を・・・一度も忘れたことも・・・・

・・・人生・・・一度としてないわ。

バカ息子のお前に言われんでもない・・・」

トクノリは、会議室のイチロウの座るテーブルに肘をつき、両手を交差すると一度上を向き、交差した指で鼻を強くさするように撫で、そのまま指を上に動かし額にまで擦りつけた。

目は閉じている。

「わしは、お前のことは好かん。お前もわしのことは好かんじゃろ。

お前は、わしに何を期待しておった。

ふん。ドラマで良く見る父親像か?

父親が必ず息子を愛さなければならんのは幻想じゃ。

親子が憎しみ合っている家族のほうが、世の中多い。

仲がいい親子をメディアが取り上げるのは、それが希少じゃからじゃよ。」

「家族が一緒にいるのが・・・普通の家族です。」

「理想論じゃよ。

少なくとも絹代を取り巻く環境は、一般的な家族を許さなかったということだな。

子供じゃあるまい。

そんなこと・・・とうの昔に理解しておろう?

一緒に・・同じ屋根の下に暮らさないほうが幸福な家族もある。」

「それこそ自分勝手な理想論でしょ。」

「そうじゃよ・・・理想を持って何が悪い。

母さんのことを好いておる。

死んだ今でもな。

それでけで充分じゃろ。

更にお前のことも愛せと言うのはお前の身勝手な足りない家族愛の理想像じゃろう。」

「絹之助(ケンノスケ)のことは・・・愛しているのですか?」

「お前と同じじゃ・・・」

「どういうことですか?」イチロウが話に口を出した。

「同じ息子として同じように目を掛け、同じように好かん。」

「でわ・・・なぜ?・・・なぜ?・・・オレには絹之介しか・・・父さんは、愛してないように見えます。」

「母さんの思いじゃ。」

「え・・・・」

「絹代の遺言じゃよ。

トクノリは、私が責任を持って面倒を見ます。

絹之介は、その分あなたが・・・最後まで育ててください。とな。

わしに似たお前は母さんに。

母さんに似た絹之介はわしに・・・育てられたと言うことじゃ。」

「母さんの言葉・・・」

「お前は、商売の才がある。わしに似たんじゃろう。

似ているからこそ・・・だから・・絹代にかわいがられたんじゃよ。

しかし、絹之介は、母さんに似た。

母さんに似て、〝歌″に才を持った。

不思議なもんじゃ。人生とはな。

お前はわしと一緒じゃ。

つまり・・・一人でも生きていける。」

「トクノリさんは徳之助さんに、もう一人の息子さん(絹之介)は絹代さんに・・・似た。

親子の因果ですかね・・・」イチロウが言う。

「あんたの夢はなんだい?」

クライムが徳之助のしゃべる電話口から口を挟んだ。

「夢」


「不動産業で成功することか?・・・それともオヤジを越えることか?・・・それとも他人の夢を潰すことか?」

「他人の夢を潰す?」

トクノリが眼球を下におろしてすぐに上に上げる。

「今・・・お前のやっていることは、絹代さんと絹之介の夢を潰す作業だろ。」

クライムが返す。


「絹之介が・・・・母さんの分身・・・だから・・・愛せというのですか?」

トクノリが聞く。

「悪いか?」

徳之助が返す。

「・・・・」

「母さんの夢を継ぐものを応援して・・・何が悪い。」

「なんで・・なんで・・・父さんは、私の事が・・・・嫌い・・・なんですか?」

小さく、聞こえないような音量でトクノリはスピーカーに向かって話した。


そっくりじゃからじゃよ。

携帯のスピーカーから徳之助のしゃがれた声が聞こえる。更にもう一度聞こえた。

そっくりじゃからじゃよ。わしと・・・お前がそっくりじゃからだ。」

「夢に向かう姿、未来に進む姿・・・まるで・・・40年前の母さんと一緒に駄菓子屋を始めた時を思い出すわい。」

「・・・・」

「お前の夢とやら・・・・

臨界副都心のタワー・・・か・・・

今日の昼間に見てきた。ふん。

今、お前の横におるもんと、わしの横におる者が、無理やり・・・わしに見せに・・・連れて行きおった。

ふん。チンケな夢を見せられたワイ。

しかし・・・

・・・・まだまだじゃが・・・家族が一緒に・・・幸福に住めるような夢じゃな。


母さんが見たら・・・家族で住みたいと言ったじゃろう。」


「息子・・・社長・・・男・・・夢を実現する者・・・立場はそれぞれ違うが・・・道は同じ。」クライムが言う。

「夢を描く者・・・それが、絹代さんと徳之助さんの道・・・・」

イチロウがクライムの後を追うように言う。

「家族とは何ですか?」

トクノリが徳之助に聞く。

「それは、お前が家族を持った時・・・・お前が決めることじゃよ。」

「・・・・」

徳之助は人生の・・・人生の最後の力を出すように・・・内心から振り絞るように声を出した。

「トクノリ・・・夢はな。夢に向かう道にこそ・・・夢はある。」

「夢に向かう道に夢はある・・・・?」

「母さんの言葉じゃ。」

「お前は・・・愛されておったよ一番な・・・母さんに。

だからわしは・・・・・お前が嫌いなんじゃよ(笑)」

「わしは長くない。

じゃが・・・母さんへの愛は永遠じゃ。

お前よりな。・・・母さんが一番。二番などない。一人の女を愛し続けた。

それがわし流の家族愛じゃ・・・・

この世の中に、一人の女の為に生き、そして死ぬ男がおっても良かろう・・・・

ふん。」

トクノリの目が冷たさから・・・温かみに変わる様子をイチロウは観ていた。

クライムは、徳之助の小さな背中を見つめながら・・・小さく頷いた。


「トクノリさん。徳之助さんの意思って・・・

絹代さんの意思って思いませんか?」

クライムが徳之助の後ろでトクノリにしゃべりかける。


「意地を張らずに・・・近衛家商店を継いだらどうです。それも絹代さんの夢?じゃないかな?」

イチロウがトクノリの横で口元を少し上げて言った。




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前ページ(Part18)の写真

文字数の都合上ここえ。
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夕焼けのビル群

http://www.flickr.com/photos/yugoroyd/3135188870/sizes/z/in/photostream/



電通本社ビルの写真元(日本人の人らしいな)いい写真だ。

http://www.flickr.com/photos/39057811@N00/2420430032/sizes/z/in/photostream/



冒頭の夜景の写真

http://www.flickr.com/photos/yugoroyd/

電話


http://www.flickr.com/photos/incomedream/5550100708/sizes/l/in/photostream/