43時間 Part17 | cracking-my-ballsのブログ

43時間 Part17

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徳之助の顧問弁護士事務所


東京八重洲の三河弁護士事務所は、東京駅中央出口を出てから歩いて5分のところのビルの4階にある。

一階に銀行が入っており、その他のテナントも会計事務所や他の弁護士事務所がほとんどを占める。

ビルヂングと表記されるような古い建物だ。

東京八重洲周辺や、丸の内に弁護士事務所が多いのは、

当たり前だが、東京地裁と東京高裁、最高裁といった裁判所が近いからだ。

忙しい弁護士にとっては、裁判所との移動時間もバカにならない。

よく契約書の最後に、〝本契約において裁判上の紛争が生じた場合は、東京地方裁判所を第一審の専属的合意管轄裁判所とすることに合意する"なんて文言が入る場合があるが、これは専属的合意管轄というもので、問題があったら、東京で裁判をするよと予め決めておくことだ。

東京同士の会社ならなんら問題ないが、対地方の企業や外国の企業となると、結構、この文言は意味をなす。定形的な文言なので、見過ごしてしまいがちになるが、

例えば、毎回沖縄で裁判となれば、交通費がかかるという以前に、弁護士先生のスケジュールどりや、地方のカルチャーといったことまで、紛争と関係ないことまで抱え込むことになる。

ちなみに米国などは更に、地方色は、州によって大きく違い、州法も含め、「どこで裁判をするか?」は、判決そのものを左右しかねない問題だ。

例えば、デラウェア州なんかは、圧倒的に企業寄りの判決をすることで有名だ。


三河弁護士事務所は、ワンフロアを全部使うといった大きな弁護士事務所とは違い、4階の一角を借りて比較的こじんまりとやっている一匹オオカミ的、いわゆる街弁の事務所だった。

「人生の最初も最後も病院じゃよ。」

徳之助は半ば冗談のように弁護士事務所の古く

一部がほつれたような昭和の匂いのする茶色のソファに腰を浅く掛け、出された

ほうじ茶を飲みながら話し出した。

徳之助の顧問弁護士、三河真弓は、30代の美人弁護士だった。

「どうじゃ、美人の弁護士じゃろ。」

「はい!」イチロウは元気に答える。

「真弓ちゃんのお父さんがわしと会社の顧問の先生だったもんでね。

その縁で、真弓ちゃんにそのまま顧問弁護士になってもらったんじゃ。」

きれいなストレートの黒髪を後ろでまとめ、ブラックのレディススーツにパンツ姿の真弓弁護士は、少し椅子に対して斜めに構えるように座り、背筋を伸ばしたままの気品ある姿勢で軽く頭を下げる仕草を繰り返した。

「お父様の後を継いで、真弓先生も弁護士になられたんですね。」イチロウが質問した。

「はい。」

「真弓先生の美しさは、すでに憲法違反ですよ♡」

イチロウが鼻の下を伸ばしながら、笑いを取ろうとするが、

真弓弁護士は、軽く唇の端をあげた程度で、声は発しなかった。

「問題の経緯は、車中からの電話で話した通りです。」

少ししゃがれた低い声でクライムが説明し出した。

「遺言書の作成と捉えてよろしいのでしょうか?」

「いえ・・・少しニュアンスが違います。」

とクライムが答え、徳之助とイチロウのほうを向き、本当によろしいですねと聞くような視線を送った。

徳之助は黙って顎を下にし、イチロウは「しょうがねぇだろ(笑)」と笑いながら答えた。

「養子縁組をしたいんです。今すぐ。」

やや下げた顔で、目の黒い瞳を鋭く斜め上方に上げるようにしながらクライムがしゃがれた声で発した。
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WAVE放送局です。

八重洲の敏腕弁護士の真弓ちゃんのリクエストで


 ♪♪♪

真弓弁護士は、少しびっくりしたように、メモをとるペンを止め・・・・目の高さまで上げると、高い鼻を持ちあげるように徳之助のほうを見た。

「徳之助さん・・・も・・・ご了解事項なんですね。」

「もちろんじゃ。」

徳之助は頬の皺をあげらながら答えた。

そして続ける。

「このイチロウに、わしの持つ、近衛家商店の株式、土地、預貯金・・・全財産を相続することも含め、息子にすると決めんたんじゃよ。」

真弓先生は、ペン先をピッと天井のほうに向け、目を少し細め・・・

「徳之助さん・・・それがどういうことか・・・良くご理解してのことですか。」

「もうろくはしておらんよ(笑)」

徳之助は、まるで、印籠を見せた後の水戸黄門のように顎を少し上げならがら

「カッカッカッ」と笑い

「すでに決めたことじゃ。進めて欲しい真弓ちゃん。」

少し戸惑いを隠しながら、真弓先生は、

「分かりました。すぐに書類をご用意します。少しお待ちいただけますでしょうか。」

そういい残すと、応接用のその部屋を出て、書類作成の為、別室に向った。

「本当に良いんですか?」

クライムが徳之助に聞く。

「こうするより、トクノリに会う術(すべ)はなかろう?

ふん。

・・・?しかも、このまま、わしが死ねば・・・法定相続人はおらん。

どうでもよい遠い親戚筋にわしの財産は分配されることになるじゃろう。

そんなもの・・・一つも世間の為にならんわ。」

「今から、お父さんと呼ばせていただきます。徳之助父さん。・・・いや・・・お父様かな(笑)」イチロウ

「まったく・・・まさか・・・こんな冗談みたいな提案に真剣に二人がのってくるとは思いませんでしたよ。」クライム

「あんたらは、真剣じゃ。真剣にわしの蒔(ま)いた問題に向きあった。

当然、わしも真剣にそれに答えなければ・・・最後の後悔が残るというもんじゃろ。」

「ありがとうございます。」

徳之助には聞き取れないぐらいの小さなしゃがれ声でクライムが独り言のように呟くように答えた。



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汚れたダイヤモンド


WAVE心臓部:青山の送出センターC3スタジオ内

「我々の買い取り提示額は、一株当たり、こうなります。」

カワカミが用意していた書面をピエールに差しだした。

それをピエールが私にも見せる。

巨大なガラス越しでは、年末の年越し番組がLIVE(生放送)で続いている。

バロンがスーツの内ポケットから、例のキューバ産の上質な葉巻を取り出し、高い鼻で左から右に回しながら嗅ぐ仕草をした後に長いマッチで火を付けた。

なんとも言えないキューバ産の葉巻のいい香りが部屋に立ちこめる。

「カワカミ先生・・・平行線ですな。幾ら値段を釣り上げても・・・そうでしょう。」

私のほうを向くと少し髭のある頬の端をあげらがら、バロンは席を立ちあがりガラス越しに生放送の様子を見ながら、煙を巻いた。

タチバナも煙草の箱から一本を取りだし、火を灯ける。

「どちらが・・・幾らで買い上げるか・・・この放送が終わるまで分からない。と言うことですか?」

タチバナがバロンの横に並んで立ち、一緒にガラス越しに放送を眺める。


「昔の話です。」


バロンは唐突に話し出した。

「アフリカの南西部のアンゴラと言う国をご存じですかな?」

「詳しくは知りませんが」

タチバナが答える。


「今から10年以上前の話ですがね。」


※この物語は200X年の話なのでバロンの話すことは、現在から数えると20年前となる。


「1975年にポルトガルの植民地から独立したアンゴラは、その後すぐにアンゴラ解放人民運動 (MPLA) 派と、アンゴラ全面独立民族同盟 (UNITA) 派に別れ内戦状態に突入します。」


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葉巻の煙に包まれながらバロンは続ける。

「東西冷戦中は、それぞれの陣営が、自国の有利になる派に武器を無償供給していたのだがね、東西冷戦が終結してしまうと、とくに東側諸国からの武器の供給がストップすることになったのです。

武器の供給が止まった反政府組織はやむなく、武器商人から調達せざる得なくなりました。

武器商人は無償で武器を譲ってくれることなどありません。

よって、反政府組織は、武器を買うための資金を得るため、ダイヤモンドの採掘をする宝石鉱山を占領するようになったのですな。」

「紛争ダイヤモンド・・・ですね。」

私が言う。

「その通り・・・別名 war diamond ともいいますな。」

バロンはゆっくりと話を続ける。


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「私は、当時、貿易商を営んでおりましてね。

ある話が舞い込みました。

そのアンゴラからダイヤモンドを買い付ける仕事です。

英国の金融業で財をなした名のある名家からの、たっての頼みでして、お断りできない仕事です。」

あそこか?その名家って・・・と思ったが口には出さなかった。

バロンは、葉巻を右手の人さし指と親指でつまむように持ち、左手をその右手の肘にあて、部屋を歩数を数えるようにゆっくりと歩みながら話を続けた。

「英国の名家の方は、世界の鉱物資源をリードされている方々でして、今般の内戦にも憂慮を示されておりました。

しかし、そこのご子息のお一人が、この紛争を元にひと儲けしようと考えたのです。

ある程度のお歳になられたそのご子息は、いよいよ、その名家での手柄を立て、自身の地位確立の功績としたかったのでしょう。」

弁護士のカワカミもピエールもコーヒーのカップを置きバロンの話に耳を傾けている。

「地元の反政府組織MPLAから不正に採掘されたダイヤモンドを現金で買い叩き、すぐに空路、英国に戻る。

そんな簡単なシナリオでしてたよ。」


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葉巻に溜まった灰をバロンは部屋の隅に置いてある灰皿を手に取り、左手で持ち

そこに優雅に落とした。

「当時、私はポルトガル語を話せましたので、通訳も兼ねて、そのご子息のひと儲けに同行するように、その名家の最高指導者から命じられました。」

「断ることは、貿易、特にヨーロッパを中心にしたビジネスでの死を意味します。」

ご存じでしょうと言うような表情でバロンは私を見る。

「空路、アンゴラに向い、首尾よく反政府組織MPLAとの交渉も済ませ、我々は帰路につくため、大量のダイヤモンドをトラックに積み込み、その反政府組織の護衛の元、ルワンダ国際空港に着きました。」

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WAVE放送局です。

次は、英国のご子息からのリクエストでこの曲をお送りします。

 ♪♪♪


「その光景を観て、私は愕然としました。

ルワンダ国際空港は、他の反政府組織UNITAの攻撃でほとんど壊滅状態になっていました。

その時、護衛をしてくれていたMPLAの兵士はUNITAの兵士に見つかり、攻撃を受けました。

最初のロケット弾で兵士が多数のっていたトラックが大破。

続いて打たれたロケット弾は私の乗っていた車をかすめて、10m先の空港施設に当たりました。

物凄い勢いで施設の破片が私達の車にぶつかり、車の運転手はフロントウインドウを貫いた破片で大けがをしました。

助手席の者がすぐに運転席に座り、我々はすぐに道を引き返し、空港から10マイルほど過ぎてやっと命があることに気付きました。


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助かったのは、ご子息、私、破片を受け傷ついた兵士、私どもが金で雇った傭兵2人です。」

私は、その話に聞き入りながら煙草に火を灯ける。

「続けてください。」

ピエールが言った。

「空路で英国に帰る方法は断たれましたのでね。残る道は、陸路です。」

「陸路?どこまでです。」

私が聞く。

「アンゴラから国境を接するコンゴ共和国を抜け、カメルーンのヤウンデ・ンシマレン国際空港まで、約1200マイル(1920km)の移動ですよ。」

ピエールが手を広げオーマイガっと下手なジェスチャーと下手な英語でバロンの話に返した。

「ダイヤモンドは、ありがたいことに無事だったトラックの一台に残っていました。我々が乗るランドクルーザーとダイヤモンドを積んだトラック・・・・1200マイルの旅が始まりました。

道はその傷ついた地元の兵士しか知りません。

その兵士の道案内の元、砂漠と草原とジャングルを越えました。


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出発して数日後、傭兵の一人が言った言葉にご子息と私はまたも愕然とします。

まるで、我々が空港に来ることを知っていたような・・・待ち伏せられたのだとオレは思うぜ。」

もう一人の傭兵も

「その通りだ。アレは完全に情報が漏れていた。」

「後で分かったことですが、ご子息の別の兄弟が、そのご子息の手柄を立てさせるのを妨害・・・できれば、そのご子息をこの機会に亡き者としようとして、情報を流していたのです。」

「兄弟同士で・・・名家の当主争いも大変だな」

タチバナが顔を斜めにしながら言った。

バロンは話を続ける。

「旅は、ご子息の兄弟が流した情報をもとに我々の運ぶダイヤモンドを略奪しようとする一派と

コンゴの別の反政府組織・・・コンゴ共和国も内線中でしたからな。

どちらかと言えば、コンゴ共和国のほうが、酷い有様でしたよ。

通る村、通る村・・・焼けただれた家々と死体の山・・・

言葉には誰もできんでしょう・・・あの光景は。


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出発から5日後。

道案内の兵士は破片の傷がもとで死にました。

死体は、傭兵が二人がかりで背丈の短い草の茂る草原に穴を掘って埋めました。

手にその兵士の報酬分のダイヤモンドを握らしながら。

それから二日後、我々はカメルーンに着きました。

ヤウンデ・ンシマレン国際空港には、そのご子息の名家の方がチャーターした自家用機が待機していました。

辿り着いたのは、ご子息、私、傭兵の4人です。

英国に着いたご子息は持ちかえった大量のダイヤモンドで莫大な利益を得ました。

数年後、そのご子息は名家のご当主となりました。

そして、私はバロン(男爵)の称号をいただいたのです。

そのご子息が

「Z」だ。

と・・・

私は直感した。

間違いない・・・・

我々はえらいやつらを敵に回したもんだ。タチバナのほうを見ると同じ気持ちだったのだろう

頷いた。


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近衛家イチロウ


イチロウは、マツイ不動産の本社ビルに行くと社長室のある17階でエレベーターを降りた。

大晦日の午後8時過ぎだ。受付なんかいない。

勝手に本社のドアを開け

「すいませ~ん。どなたかいませんかぁ・・・・」

何度か声をあげると、社員らしき男が小走りで近ずいて来て、

「あのう・・・本日は、業務はすでに終了しておりまして・・・何の御用でしょうか?」

「社長のマツイさんに会いに来たんですが・・・」

はぁ?という表情でイチロウの顔を再度、社員は見据えた。

「あの・・・社長は・・・」

「いるの知ってますよ(笑)」

「ええ・・・」

「会いたいと伝えてもらいます。」

「あの・・・アポイントメントは?」

「ないです♡」

「でわ・・・ちょっと・・・」

「近衛家イチロウが会いに来たと伝えてください。」

「近衛家さんですか?」

「そう・・・近衛家徳之助の息子が会いに来たと♡」

「は・・・はい。・・・・・少々・・・少々お待ちいただけますでしょうか・・・?」

「来年まで・・・お待ちしてますよ(笑)」

社員は小走りで、長い廊下を抜け奥の社長室らしき部屋の扉をノックした。

2分後・・・

イチロウは

「どうぞ・・・こちらに」

という小走り社員の案内で、重役専用の応接室に通された。

通された後、1分もしないうちにマツイトクノリは現れた。

「変な・・・冗談でしたら・・・警察をお呼びしますよ。」

いきなりのマツイ・トクノリは喧嘩腰で部屋に入ってきた。

そのトクノリの目の高さにイチロウは一枚の紙を掲げた。

その書面をマツイ・トクノリが読むと・・・

「なるほど・・・近衛家イチロウさんですね。お座り下さい。」

書面は例の真弓弁護士が作った養子縁組とその財産の全てをイチロウに相続させると書いた書面だった。

「で・・・その近衛家イチロウさんが何しにいらしたのですか?ここへ・・・」

「やっとお会いできて光栄ですマツイ社長。トクノリさんでもいいですか?言わば・・・我々は兄弟ってことでしょうし♡」

あからさまにマツイトクノリは、嫌な顔をして

「私は近衛家徳之助のことは、父親だとは思っていませんね。」とだけ答えた。

「下らない親子喧嘩が原因で迷惑を被っている会社が有りまして。」

「WAVE社の方ですか・・・?」

「いいえ。でもWAVE社の救世主になろうかと・・・」

「そういう話でしたら・・・お帰りいただきますかな。」

そう言うとトクノリは席を立ちあがり、応接室を足早に出ようとした。

「トクノリさん。私は近衛家徳之助さんの全ての財産と権限を相続する権利を持った者です。

で・・・

あなたとビジネスの話をしに来たんですよ♡」

トクノリは足を止めイチロウのほうを振り向いた。

イチロウはテーブルに両肘をつき指を交差させて

「近衛家徳之助さんの全財産とWAVE社の電源ストップ・・・考え直してくれたら・・・交換しても良いかなぁ・・・と♡思っちゃたりして・・・♡」

顔つきを変えたトクノリは口を大きく開けて、しばらく唖然としてから・・・

テーブルに着いた。

「お前・・何もんだ?」

「ですから・・・いったじゃないですか救世主だって・・・WAVEとあなたの(笑)」



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WAVE放送局です。

小走りの社員さんのリクエストで



 ♪♪♪



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アフリカ

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ダイヤモンド集落

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