配偶者と死別した人を「ボツ(没)イチ」と言う。65歳以上の男性で144万人いる。まだ若い市川海老蔵くんも「ボツイチ」だが、「入院費用を支払いたくない」との記事を見て本当かいな?相変わらず女性週刊誌らしい走り記事だろう?と思った。

  患者がどのような治療法を選択するかは医師と相談して決める。2014年の2月に人間ドッグで乳がんが見つかった段階で脇のリンパ節に転移していた麻央さん。たぶん、この段階でステージⅣだったと思う。

   私の妻も、胸骨と腰骨に転移していてステージⅣbでした。その瞬間、私は余命2年と自己診断した。週刊誌記者として、医学関係の記事も担当していたから、普通の人(海老蔵くん)より、医学知識はあり妻の症状も客観的に診断できたと思う。ステージⅣbとなれば、抗がん剤も効果はなく、ほんの少しだけの延命効果しかない。できるなら、痛みだけでも取り除く治療法を希望した。最終的には、苦痛しかない延命治療も拒否し、緩和ケアで最期を迎えさせてあげよう!と思った。でも、妻と息子は違った。抗がん剤治療を選択した。

    海老蔵くんと麻央さんも、切らずに治す治療法を選び、保健適用外の新薬から、水素水や気功などの民間療法にも傾倒したようだ。気持ちは分かる。妻も、水素水が効果があると友人から聞くと通販で購入していた。誰もが、藁にもすがる思いで「効くのではないか?」と、つい手を出したくなる。痛いほど気持ちは分かる。

   がんと闘う人は、生きられる時間の長さだけでなく、生きられる時間の質が大切に思うようになる。医師の言葉に敏感になり、数値の上がり下がりに一喜一憂する。私は、大学病院に付き添ったが、担当医の説明に表情が激変する妻の顔を何度も見た。二人で、病院玄関にあったスターバックスでよくお茶したが、気分がよい日は食欲もあり饒舌だった。先ほどまで、一時間の抗がん剤点滴の時には、苦痛の表情だったのに…。

   がんも、一人ひとり症状が違うから、医師におまかせする治療もありかもしれない。ただ、今はセカンドオピニオンが普及したから、少しでも疑問を抱いたり医者との対人関係がうまくないのなら納得するまでの医師探しや治療法に拘るのもありだ。妻は、二人の医師に関わった。

   一人目は男性医師だったが「イケメンで目が優しいの」と、楽しそうに語った。途中で病院が移動になり、二人目は独身の女医だった。「美人なのに少し天然なの。物をハッキリ言うのよね」と、苦笑いしてお気に入りだった。

   20年近く、卓球の選手として都大会や全国大会にも出場するスポーツ選手だった妻は、サッパリした人柄が好きで、たまたま担当医には恵まれた。海老蔵くんと麻央さんも、二人で病院と担当医を選び、チームとして乳がんと闘ったのだと思う。結果は分かっていたのだろうが、患者と家族は希望を捨てない。

    最愛の女性(ひと)を亡くした夫の哀しみ辛さは、海老蔵くんと同じくらい分かる。世間には、妻を亡くした後に素晴らしい言葉を残した著名人がいる。

   乳ガンで逝った歌人・河野裕子さんの夫・永田和宏さんは、裕子さんが息が止まる瞬間に「裕子と呼んだか行くな!と叫んだが、私の声に応じるかのように裕子は一度だけ息を吸ってくれた。彼女の耳に最後に届いたのが私の声であったという確信は、これからの私をいろんな場面で救ってくれることになるのだろう」(家族の歌)そして「君に届きし最後の声となりしこと、この後われを救わぬ」と読んだ。

   作家・伊集院静さんは「東京クルージング」なる作品の中で「人と人が別離するのに、その時はあまりにも悲しいことだが、目の前でその人(女性)が死んでしまった別離の方が酷な言い方かもしれないが一層あきらめがつきやすいのでは」と書いている。女優・夏目雅子さんを付ききりで看病した伊集院さんは、死後何年間は仕事もできず酒とギャンブルの日々を過ごし立ち直った。

   海老蔵くんは最期に麻央さんから「愛している」と囁かれた。もうそれで十分じゃないか!一泊5万円の個室病棟で何年間の治療費が3000万円(保険適用と非保険を含む?!)はすごい金額だが、実際は3万円だった!と、本人がブログで語っている。麻央さんの治療費とは比べものにならないが、私の妻は一泊4万円の個室に7日間。その後、緩和ケア病棟の個室(一泊1万円)で10日間過ごして逝った。

  抗がん剤治療も、保険適用でも3〜5万円が一回の治療費で出ていったから、貯金もなくなったが幸せな闘病生活を送らせてあげられたと思う。

    海老蔵くん、愛する麻央さんと死別して悲しみの日々だろう。その辛さから抜け出すには時間しかない。一年かかるかもしれないが、それが「ボツイチ」の宿命なんだ。麻央さんは、今も「愛している」と、あちらの世界で思っています。