「3・11後、初の国政選挙であるにもかかわらず、原発のない社会に向けての議論は不透明のままだ。経済性だけで原子力政策を推進することは国家としての品格を失い、地球倫理上も許されない」こう宣言した滋賀県知事・嘉田由紀子さん(62)の「日本未来の党」を私は支持する。橋下大阪市長と一緒にかっては「卒原発」を提唱していた嘉田知事。ところが「仲間を失ったとの思いが、嘉田さんの背中を押したようだ」と朝日新聞の天声人語。

 政策よりも、選挙に勝つことだけを優先すればどこかを犠牲にしなくてはいけない現実がある。それでも、これだけは譲れないのが政治家として威厳ではないのか。

5月、大阪の財界に脅されると大飯原発の再稼動に賛成し「建前論ばっかり言ってもしょうがない」と言い放った時に、私は橋下市長の本性と限界を見て支持しなくなった。「日本未来の党」発足で、大マスコミやテレビが連日報道続ける自民、民主、日本維新の会だけの流れではなくなった。多くの有権者たちもスッキリして投票できる。


「もったいない」をキヤッチフレーズに行政のムダを追求してきた嘉田知事には実績がある。橋下市長について、嘉田知事はかって「あちらは劇薬、こちらは漢方薬」と表現した。何しろ、漢方薬はじっくりと効いてくる。穏やかな雰囲気の女性だが女傑だ。

さて、出版不況なのに原発関連の本が売れている。大型書店をまわると平積みされているのだ。東京電力福島第一原発は人災だと書いた「国会の事故調査委員会報告書」(徳間書店)は3万5000部。先に出ていた民間調査報告書も10万部売れている。嘉田知事ではないが、昨年の[3・11]から国民の意識が変わったのだ。安全だと信じていたものがことごとく崩壊された。原発だけでなく、自然も家族も大震災の大きな揺れで崩れていくもろいものだという無常観だろうか。「いつ何が起こるか分からない人生なんだ…」ということだ。

 日比谷公園や国会議事堂前の反原発デモに数多くの人たちが集まり、野田政権に対して反対の声をあげた。そこに若い母親たちが参加しだしたときに私はまだこの国は大丈夫かもしれないと思った。思いはただひとつ。

「我が子を放射能に汚染させたくない、守りたい」という母性本能の訴えだからだ。朝日新聞夕刊「ニッポン人・脈・記」で、「子どもたちを放射能から守る全国ネットワーク」には、女性たちによる北海道から沖縄まで約320団体が登録しているのを読んだ。それまで社会活動といえばPTA活動しかしない普通の主婦たちが「子どもが食べ物を通じて知らぬ間に内部被爆するのは何としても避けたい」から給食の放射能チェックをはじめた。やがて区長を説得した「世田谷こども守る会」の主婦たちは強かった。世田谷区長が、革新派の元国会議員でもあった保坂展人さんだったのも幸いした。やはり、政治は人物で左右される。

AERA(12月3日号)では「右傾化する女子」を特集していた。尖閣デモにベビーカーを押しながら参加するグループの写真があった。参加したデモの様子は動画で発信しネツト化していくのも今までにない新しい形体だ。記事の中に子供持ちの女性が「出産のために初診料に3万円、毎回の検診に1万円払った。待合室はいつもいっぱいで3、4時間待ち。少子化で子どもを産めと言うのに、何で出産がこんなに大変なんだ。このままでは、子どもたちが20代、30代になった時、どうなるんだろうと不安。橋下さんぐらいの強引さがないと何も変わらないと思う」これを、女性特有の単純な正義感や本能的な思いだと非難はできない。将来への不安に母性的意味から「国を守れ」と考える右傾化だと思いたい。でも、日本にヒットラーみたいな政治家は必要ありません。

問題は、こうした現実に政治家たちが気付かないのがこの国の悲劇だろう。若いカップルたちも生きるのに精一杯。大学を出ても就職できずアルバイトやパートで生活するフリーターは2010年で約183万人。現在はもっと増えているはず。派遣・契約社員も含めた非正規で働く34歳以下の若者は、同年代の労働者の約3割にも達する。

3年前の選挙のとき、民主党は「最低賃金1千円」と「派遣労働者の雇用の安定」をマニュフエストに入れた。でも、現実には時間給は749円でしかない。公約違反だ。30代の夫婦で非社員だと、二人で月に20万円少しの手取りしかない。子どもを持つことなど夢の世界だ。こうしたワーキングプアーカップルは私の周りにも多い。パート勤務の女性が産休や育休なんて口にしただけでクビだろう。

民主党の「子ども手当」も中途半端。年少扶養控除が廃止されて現実には増税となる。子どもを産まない、いや産めない状況の責任が誰にあるかは明確だ。こんな国にした政治を見つめ、原発問題を考えると答えは出てくる。琵琶湖から流れてくる反原発の風を感じることのできる女性たちに期待したい。民・自・公の拡声器から流れてくる非現実的なウソばかりの公約を打ち消す大きな風になって欲しい。