【予感】 | 不倫で慰謝料請求されてます

【予感】

彼が私の直属の上司になって以来、仕事もだんだんとおもしろく感じるようになり、仕事の話だけでなく、何でも相談できる彼に対して、これまでになかった信頼感と尊敬の念を抱くようになっていました。


ですがそれはあくまでも仕事上での上司としてのこと。


この時はまだ、彼を男性として意識したことは全くありませんでした。


仕事もできて、子煩悩。でも会社では見せない裏の顔も持っていて、今の奥様と結婚してからも、常に外で付き合うオンナには苦労したことがないらしく、つい最近、水商売のオネエチャンと別れたばかりだとかなんとか・・・


そんなコト言うくらいなので、見た目はもちろん悪くなく、どちらかと言うとカッコイイ部類(オバ様に可愛がられるタイプ)の彼。


そんな彼が、オンラインゲーム中毒になってる、引き篭りヲタ一歩手前の私なんかに興味を持つハズはないというおかしな自信もあり、純粋に「いい上司に巡り会えた」と素直に喜んで、彼との仕事帰りの食事を楽しむようになっていました。


彼はいつも、「オマエもオトコつくった方がいいぞ」、「いつまでも過去のオトコや経験にしばられていてもしょうがないだろ」と私に言い、そのあと必ず「んで、会社の中では誰がタイプ?」と中学生のような質問を繰り返していました。


「会社で?ありえねー!」としか言いようのない私。もちろん本気でそう思っていました。


私がいつものように同じこと言うと、彼は「○○君は?△△さんは?」と、会社の同僚達の名前を次々に挙げて、「アイツは子供っぽいからイヤダー」、「○○って、色白いからイヤダー」、「もう、しつこいな~、その質問っ!」という半ばあきれている私の反応をからかうように、彼はその質問を好んで私に投げかけてきました。


今思い返せば、あの日もいつものような会話で始まりました。


去年の2月の終り、いつものように仕事が終わった頃に「メシ行く?」と彼に誘われ、いつものようにそれに応じた私。


仕事が終わった頃と言っても、すでに夜の11時過ぎ。ですが、私達の会社ではこの時間に残業してる人はいくらでもいるので、決して珍しくはなく、むしろ普通のことでした。


その日は会社の近くの居酒屋で、ゴハンを食べてお酒を飲んで、いつものようにバカ話。


すると早速、彼のいつもの質問。


「で、会社で誰がタイプ?誰なら付き合ってもいいと思う?オレが(仲を)取り持ってあげるよ。」


「も~何回同じこと聞けば気が済むのっ!社内はありえないってず~っと言ってるでしょうがっ!」


そのあとも、全く懲りずにいつもと同じ質問を続ける彼。


「○○は?」、「△△さんは?」、「□□君は?」


ですがその日の彼の尋問は、普段になく執拗で、会社の男性の名前を片っ端から挙げて行き、おそらく全社員の名前が言い終えたであろうと思われたその時、いつもと違う質問が彼の口から飛び出しました。


「オレは?」


全く予想だにしていなかったような、もしかしたら心のどこかで、そのうち聞くことになると予感していたような、その言葉。


それまでの彼の態度から、「もしかしたら私のこと好きなのかな?」と思うことは何度かありました。


いくら部下とのコミュニケーションのためとは言え、ここまでしょっちゅう飲みに連れてってくれるのは、よっぽど面倒見がいいのか、よっぽど私の話がおもしろいのか、それとも、もしかしたら私のことをオンナとして少し意識してるのからなのかな?


でも、私の知る彼の性格からして、会社で、しかも自分の部下に手をつけることはないだろう。それ以前に、彼ほどのイイオトコが私なんかに興味を持つハズがないだろう。


それまでは何となくそんなふうに考えていましたが、彼のその言葉を聞いた瞬間、やっぱり彼は私のことを、部下としてではなくオンナとして意識してるんだと直感しました。


「だって、○○さん(彼)結婚してるじゃん、その時点でありえないし~。全くの対象外ですよ~」


「んじゃ、もしオレが結婚してなかったら?」


「う~ん、そうですね~、検討の余地はあるかもですね~」


会社のどの男の名前を言われても「ありえない」「ムリ」としか言わなかった私が、初めてそれら以外の言葉で答えた瞬間でした。


ですが、彼が上司であることや、既婚者であるという立場を考えると、私と彼がそういう関係になることはありえないだろうと、何故だかヘンな自信がありました。


その後彼は、「んじゃもう一杯飲みに行こうか」と店を変える提案をし、2件目のお店へ行くことになりました。


この時すでに夜中の1時過ぎでしたが、彼も私も会社からタクシーで帰っても、さほどおサイフが気にならない距離のところに住んでいたため、いつもあまり時間を気にすることはなく、どちらかが眠くなったら帰るといった感じでした。


先程の「オレは?」という言葉が妙に気になり、なんとも言えないキモチでいる私に構わず、いつもより少しだけお酒のピッチが早い彼。


今思うと、その後に起こる事件を目前に、勢いをつけるかのような飲みっぷリでした。


そして滅多に酔わない、お酒に強い彼が酔っ払ってしまい、「もう帰りましょうか」と私。


彼の意識がハッキリしている間に帰らないと、こんな図体デカいオジサンが潰れちゃったら面倒見切れないと考えた私は、急いで帰り支度をして、店の外に出ました。


そして店を出た瞬間。


彼は私の手を無言で掴み、自分の指を私の指に絡ませ、手を繋いで歩き始めました。


ビックリしすぎて何も言えない私に構わず、半ば強引に歩き続ける彼。


痛いくらいに強く私の手を握り締め、いくら私がその手を振りほどこうとしても、彼は全く気にせず、私を引きずるようにして向かう先は、容易に想像が出来ました。


さすがにヤバいと思った私は、「今日はココでタクシー拾いますね」、「眠いのでそろそろ帰りますね」と、あくまでも上司としての彼に気を使いながら、カドが立たない言い方で彼に言いました。


ですが、それが甘かったのか、まるで何も聞こえていないかのように、彼はある場所に向かって歩き続けました。