座・高円寺1で上演された、丸尾丸一郎作・演出『親愛ならざる人へ』を観てきました。丸尾さん主宰の劇団鹿殺しの作品は、『ランドスライドワールド』を観たのみですが、今回、フライヤーの、「自分以外の人生を書く喜びを知ったはじめてのコメディ」という一文にふと惹かれて、チケットをとりました。

33歳の新婦が主人公の、結婚披露宴を舞台にしたお話しで、所々シニカルだったり、飛躍した演出があったりしながらも、笑った後に温かい気持ちになる、休日の昼下がりによく似合うお芝居だったと思います。


以下、ネタバレありの感想です。これから大阪公演も控えているので、未見の方は自己判断のもと、お読みください!




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2017年3月11日(土)マチネ

座・高円寺1

作・演出 丸尾丸一郎

音楽・オレノグラフティ

出演 奥菜恵 佐伯大地 久世星佳 丸尾丸一郎 鷺沼恵美子 椙山さと美 木村さそり 矢尻真温 浅野康之 オレノグラフティ



劇場に入ると、対面式の客席になっていて、中央には絨毯が敷き詰められた床があり、天井からはシャンデリアが下がっていて、披露宴の会場であることがわかります。

このホテルのカリスマウエディングプランナーの末広寿人(オレノグラフティ)が、過去に一度だけ大失敗をした披露宴について、客席に向かって話はじめました。


33歳、厄年の新婦の本宮華(奥菜恵)は、翌日に結婚式を控えてこのホテルに宿泊しています。華の夢は、結婚式で両親に感動的な手紙を書くこと。それを読む瞬間の輝く自分の姿を夢見て、手紙を書き始めるのですが、感謝の気持ちを書こうとしても、次々に浮かんでくるのは、両親との苦い思い出。

これらは、小学生や中学生時代、そして家を出て東京に向かうまでが回想シーンになって演じられました。


両親が共働きで寂しかったこと。

妹が生まれてからは、自分が妹の面倒をみていたけれど、本当は自分も甘えたかったこと。そんな自分の気持ちをわかってくれなかった両親への恨み。

孤独をまぎらわすために、郷土玩具のきじ馬に空想の中でいつも話しかけていたこと。(このきじ馬、熊本県人吉市の玩具なんですが、着ぐるみで出てきて笑ってしまった)

始めてできた彼氏を連れてきたのに、父親が彼氏と喧嘩をして追い返してしまったこと。

そして、何もない田舎から早く抜け出したかったこと。


子どもって、いつくになっても、親に傷つけられた、と思ったことは覚えていたりしますよね。このへんの、親子の思いのすれ違いや、親子関係についての描写が、とてもリアルだと思いました。


華も、いざ手紙を書こうとしたら、いろいろと親への恨みつらみを思い出してしまい、なかなか筆が進みません。

絵が好きだった華は、東京へ出てきて絵の勉強をしますが、生計を立てるまでにはいたらず、不本意ながら旅行会社の添乗員をしていたのですが、そんな時、添乗先のオランダで知り合った岡島毅(佐伯大地)がとても輝いて見えたのが馴れ初めで、帰国後二人は付き合って、結婚を決めます。


が、ホテルで手紙を書いているところに毅が訪ねてきて、明日の式や披露宴の細かい心配事をあれこれ言い出して、夫になる人の器の小ささに気づいてショックを受けたり。

そんなこんなで、うまく手紙を書けないまま、寝不足でボロボロの状態で結婚式を迎えるのですが・・・


披露宴では、友達や妹の暴走気味の余興やら、バタバタと笑えるシーンが続く中、ついに、両親あての手紙を読む時がやってきます。

その手紙の内容は、恨みに思っていた親の言動の数々も、自分への愛情ゆえだったとわかる、お父さん、お母さん、ありがとう、と感謝を述べるもので、これは華が本当に親の思いをくみ取れたのか、感動を呼ぶために書いたのかは定かではありませんが、思わず私もじ~ん、ときてしまいました。


が、ここで終わらないところがおもしろかった!

華の母(久世星佳)も、自分も手紙を書いてきた、と言いだし、読み始めます。

次には、父(丸尾丸一郎)も。そして新郎の毅まで・・・。


その手紙の内容は、華の書いた感動的な手紙を台無しにするもので、それぞれの黒い本音が炸裂していました。そして、ついに、みんなが本音を言い合って大げんかになってしまい、披露宴はめちゃくちゃに。招待客も怒って帰ってしまいます。

でも、本音を言い合ったことで、華と両親とのわだかまりは少しとけて、親子の関係も修復できそうな様子。


華は、会場から出て行ってしまった毅はもう帰ってこないだろうとあきらめますが、毅は戻ってきて、

自分は華のことを妖精のように思っていたけど、ダークな部分もある“人間”なんだな、とわかった。そして“人間”である二人で、またやっていきたい、と言い、もう一度、プロポーズをします。

お互いのいたらないところも認め合って、でも夢や理想も捨てないで、これから二人ではじめていこう、となって、めでたし、めでたし。


華を演じた奥菜恵さん、心の声である黒い独り言をキレながら言いまくる役で、スレンダーで美しいウエディングドレス姿とのギャップが最高でした。欲を言えば、演技のテンションが一定だったので、もう少し緩急があったらよかった気がします。

この、心の声は、観客だけに聞こえていると見せつつ、実際に声に出ていて他の登場人物にも全部聞こえていた、というオチもついていました(笑)


新郎を演じた佐伯大地さんは、憎めない感じの夫を演じていて、スタイルいいし、奥菜さんと並ぶとすごく華のあるカップルになっていました。

お母さん役の久世さんもよかったし、他の方も癖があって個性的な面々でおもしろかったです。みなさん身体のキレがいいのにびっくり。

狂言廻しのオレノグラフティさんも、物語をしっかり締めていたと思います。生演奏も良かった。


全体的には、途中、ちょっとダレたところがあったような感じもありましたが、最後は完璧なハッピーエンドで、

「悲劇は現実の世界だけで十分だ、最近特にそう思う。劇場を出た時、少しでも人に優しくなりたいと思える劇を作った」という丸尾さんの意図は、十分伝わっていたと思います。