「MU、短編演劇のあゆみとビジュアル展」のAプログラムを観た翌日に、Bプログラムのパフォーマンス、『MY SWEET BOOTREG』を観てきました。
これはうわさ通りに“濃厚”で、笑いと痛みが入り交じる、混沌としたおもしろさがありました。
以下、ネタバレありの感想です。
2016年5月1日(日)14時
東京芸術劇場 アトリエイースト
作・演出 ハセガワアユム
出演 古屋敷悠 成川知也 モリサキミキ 蒻崎今日子 太田守信 小崎愛美理
漫画家の室田(古屋敷悠)は、硬派な時代劇漫画を描いていますが、自分が描く漫画には、社会の矛盾に対して立ち向かう思想があると自負しています。そんな彼が忌み嫌っているのが、原作の登場人物を使って作る、二次創作のBL(ボーイズラブ)同人誌。
ところが、あろうことか、室田の行きつけの喫茶店に勤めるオタク女子の尾山(蒻崎今日子)と、その友人のオタク女子の佐々木ミカエル(モリサキミキ)、そして腐女子ならぬ腐男子(妻子あり、ゲイではないけれどBLが好き)の白鳥(太田守信)の3人組に、自分の漫画を同人誌にされてしまいます。
そして同人誌は人気が出てしまう。
自分の漫画の主人公と、そのライバルを勝手に恋愛関係にした彼らに、怒り心頭の室田。喫茶店のマスター(成川知也)は、無視すればよい、と言いますが、室田はそうすることができません。
ついに、BLのネタにされるのに耐えきれず、最後はライバルが主人公の仲間になる予定だったのですが、途中でライバルを拷問死させてしまいます。
原作でライバルが死ねば、もう、BLは作れまい、と思うのですが、同人誌のメンバーは、拷問で舌を抜かれて死んだシーンは、キスで舌を抜かれるのを防いだことにして、ライバルは死なず、主人公の仲間になることにしてしまいます。
それを聞いた室田の中で何かが壊れ、同人誌のアイディアを自分にくれ、と言います。そして、ライバルを殺してしまった原作の方は行き詰まり、ついには、自分の漫画は打ち切りになってしまいます。
オタク女子の佐々木には、大学生の妹の結花(小崎愛美理)がいて、とても可愛い。同人誌のメンバーが、結花にコスプレを頼み、結花が喫茶店に来たときに室田と出会います。
室田は結花を好きになり、結花もまんざらではないのですが、室田は積極的な行動に出ようとはしない・・。
実は、室田は、結花そっくりの元カノにこっぴどくふられていて、その後、ゲイのマスターとつきあっていました。
マスターも、まだ室田への想いがある様子で、ぼろぼろになってしまった室田を見て心を痛めています。
結花も、毎週国会前のデモに行っているのですが、そこには元の不倫相手も来ている。デモに行くのは、元の相手に会いたいからかもしれない。
さらには、今まで男性経験のなかった結花の姉も、妻子ある腐男子の白鳥と不倫関係になってしまいます。
と、こんな風に、恋愛関係もカオスに。
そしてついに、コミケの前に、何者かに、オタク女子二人が襲われる事件が起こる。
その犯人は・・・・。
このお話しでは、
原作と二次創作、
“萌え”と“好き”、
ジェンダー、
男女間の恋と同性同士の恋、
既婚者との恋、
などの、境界が溶けたあとの混沌を描いていると思いました。
ボーダレスの後には、混乱が起こることもある、と。
前半の、室田対同人誌のメンバーのやりとりは、コミカルに進んで、たくさん笑いました。
私はBLはわかりませんが、二次元萌えはわかります(!)
「NARUTO」のカカシ先生、
「ムーミン」のスナフキン、
「サイボーグ009」の島村ジョー、
「カムイ外伝」のカムイ、
・・・古いですね(笑)
と、私にも多少のオタク属性はあると思われ、オタク用語を駆使する台詞がおもしろかった。そして、室田とのかみ合わないやりとりも。
“萌え”と“好き”の違いはわかりませんが、「~に萌える」という時は、何となくテンションがあがるし。
などと、楽しく観ているうちに、室田がボロボロになり、後半は笑っていられない展開に・・・。
マスターと、結花が、室田に、「無視すればよかったのに。」という台詞が出てくるんですが、これ、大事なのだろうなあ、と思いました。
結花は、デモに行くうちに、政治的信念で行っているのか、元カレに会いたくて行っているのかわからなくなったけど、お互い距離をおいて「無視」するようにした、と。
それは室田のことを大事に思うから、と室田に言いますが、室田はこの想いに応えない。
自分とは違う価値観をもつ人や事柄に対して、「理解して、認める」ことはできなくても、善悪の判断で裁くのではなく、大人の態度で「無視」することはできる。
そうするには自分の強さも必要だけど、「無視」と「共存」は、相反するようでいて、実は、結果的には共存につながることもあるのかなあ、などと思いました。
こちらの作品も、俳優さん達が活き活きとしていて、とても良かった!
『戦争に行ってきた』と、この、『MY SWEET BOOTREG』を観ると、スッキリとしたカタルシスを与えてくれる感じはなく、観客は、余韻の中に取り残される感じもします。
好みが別れるところかもしれませんが、そこが、魅力ともいえるのかも。
MUの作品は、辛辣な視点もあり、油断がならない感じもある。
いい意味でつかみどころがない感じもしますし、また次の作品も観てみたいな、と思いました。
あと、今回、特典として、WEB戯曲がついていて、3編の戯曲を読むことができて、嬉しかったです。