新宿FACEで上演された、アガリスクエンターテイメントの『ナイゲン(全国版)』東京公演を観てきました。

高校生の文化祭に関する内容限定会議(ナイゲン)をめぐるシチュエーションコメディ。

再演が繰り返されたこの作品の、私は東京試演会を含めて2ステージのみの観劇となりましたが、

東京試演会の感想はこちら


「観れてよかったなー。」という思いと、

「もっと前から知っていればなー。」という悔しい思いと、

アガリスクエンターテイメントでの上演はこれで最後ということで、

「もう、アガリスクのナイゲンは観れないんだな・・・」という寂しい気持ちで、

もはや、“ナイゲンロス”状態。


でも、最後、新宿FACEの会場にたくさんの笑い声が響いて、その中の一人になれたのは嬉しいです。



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2015年11月14日(土)13時開演

新宿FACE

脚本・演出 冨坂友

出演・淺越岳人 塩原俊之 鹿島ゆきこ 沈ゆうこ 榎並夕起 金原並央 甲田守 さいとう篤史 津和野諒 古屋敷悠 細井寿代 信原久美子 斉藤コータ


東京試演会を観たあと、次は500人くらいのキャパの会場だということで、

声は届くのかしら?

座っている演技が多いので、人物の感情は伝わるのかしら?と勝手に心配していたんですが、杞憂でしたね。

むしろ、会場が大きくなった分、役者のエネルギーが解放された感じで、でも散漫にはならず、作品の持つパワーが大きくなっていた気がします。


また、観客の人数が増えた分、笑い声も増幅されて、台詞と笑いの掛け合いが波のようで、私はその波でサーフィンをしているような心地よさを感じていました。

あと、皆さん、笑い声が台詞にかぶらないように、間を考えて台詞を言っていた気がします。


台本を読みましたが、う~ん、よくできているなあ、と感心。

一人一人の台詞は、奇をてらったものではないのに、それらが合わさるところに笑いがうまれる、その計算と緻密さ。

早い段階から伏線が貼られていて、きちんと回収されていく。

そして、実際に役者が演じると、それぞれのキャラが明確に立ち上がってくる。

群像劇なのに、演出がスマートで無駄がない。


導入部分は、少しゆったりと、状況説明と人物像が示されて、徐々にスピードが上がって中盤は笑いが加速、いったん、大きな展開があり、会場に緊張が走る。そこから、ラストに向けてまた加速していく疾走感。


一人、異を唱えていた「どさまわり」という団体の代表者が、「同意」はせずとも「合意」にいたるラスト。

そう、「同意」することばかり要求するのではなく、「合意」を目指すことが議会の存在価値だよな、と改めて思ったり。


アガリスクエンターテイメントの皆さんは、プロレスが好きで、最後の『ナイゲン』はプロレス会場でお祭りにしたかったとのこと。

私にとっては、多分、最初で最後のプロレス会場でしたが、会場は思ったよりも役者とも近く、見やすかった。

天井も低く、声もよく届きました。全体に、お祭り感もありましたね。

(でも、やっぱり次は普通の劇場がいいな)


役者の皆さんは、まっすぐに、全力投球。熱のこもった演技でした。

最後に、愛すべきナイゲンのメンバーについて思いをはせながら、お別れをしたいと思います。


議長・甲田守さん


最初、大した覚悟もなく議長を引き受けたノンポリな感じがよく出ていて、途中は頼りなく、ぼけキャラのようだけど、実は誠実で粘りがあり、この会議の中で成長したことがよくわかる演技でした。飄々とした感じがよかった。


監査・沈ゆうこさん


規則第一、融通がきかない超まじめな子。それが、冷静な口調で、絶妙な間でつっこむところが笑いを誘う。沈さんのつっこみ大好き。ミニスカサンタのくだりは、女性としては、ちょっと心が痛むわ。脚本的にギリギリだと思う。笑っちゃうんだけど。


文化副委員長・鹿島ゆうこさん


まず、あの姿勢の悪さが素晴らしい。あの姿勢で、あんまり物事に真剣に取り組まない感じが出てる。2年1組「海のYeah!!」の代表者とのキスの再現をさせられる場面は、可愛かった。会議が終わって、海のYeah!!と文化書記が帰るのを見送るときの傷ついた表情、退場時の台詞の中にも女の子のいじらしさがこもってました。


文化書記・金原並央さん


すごく、女子高生っぽい!海のYeah!!とつきあっているのに、その彼が文化副委員長とキスしていたのが発覚してからの豹変ぶりが怖いほどで、活き活きとした女の子らしさがよく出ていました。あと、板書の美しさとスピードが素晴らしかった。


1年1組 団体名「Iは地球をすくう」(縁日でのゲーム)代表者 

さいとう篤史さん


文化祭に燃えていて、上級生にも反抗していく熱い男子だけど、実はクラスメートが全然ついてきていなくて、一人浮いている。『時をかける稽古場』の時とは印象が違って、びっくりしました。試演会の時は、すごく近かったせいか、その熱さに観ていてちょっとひるんだけど、新宿FACEでは演技の大きさがちょうどよく、芝居を牽引していました。


1年2組 団体名「3148」(かき氷・パフェ販売)代表者

榎並夕起さん


気が弱くて、可愛くて、泣いちゃったりして・・・濃いメンバーの中では清涼感さえある。一歩間違うと、女性からは「ケッ」と思われる危険性があるキャラだけど、大丈夫、好感度高し。この会議の中で成長した感じも出ていました。


1年3組 団体名「おばか屋敷」(おばけ屋敷)代表者

古屋敷悠さん


「3148」のことが好きで、一人ワタワタしている。試演会で観たときは、他のメンバーとは演技が異質な気がして、ちょっとウザイ・・けど、ギリギリのところか・・?と思ったんですが、新宿FACEでは、いい感じにカッとんでいて、なんというか、素敵な気持ち悪さ(?)芝居の中のいいアクセントでとてもよかった。


2年1組 団体名「海のYeah!!」(焼きそば販売)代表者

斉藤コータさん


文化書記という彼女がいながら、何人もの生徒、はては教師とまでつきあってしまう浮気者。斉藤さんは、浮気で、軽い男の役が、どうしてこんなにはまるのでしょうか。それでいて憎めない可愛らしさがある。ご本人は、芸人と役者の垣根を越えることを目指す、とおっしゃっていますが、いい感じに芸人っぽさがブレンドされている感じがします。


2年2組 団体名「アイスクリースマス」(アイスクリーム販売)代表者

津和野諒さん


冷徹で屁理屈をこね、相手を追い詰めていくヤツ。でも、最後はおいしいシーンも。前回までは、淺越さんがこの役を演じていたとのこと。淺越さんへのあて書きの役を、津和野さんらしさで上書きした感じ。つっこみや屁理屈も先鋭化していました。津和野さんは、不思議なおもしろさがある役者さんで、ナイロン100℃の大倉孝二さんを思わせます。


2年3組 団体名「ハワイ庵」(ロコモコ販売)代表者


すごく、オアシス。ギスギスした展開の中でも、あの、ほわあ~んとした声を聞くと和む。物語の進行からずれた発言をしたり、理解するまでに時間がかかって笑いを誘うけど、実は自分の意見を持っている人を、独特のテンポで演じていました。「・・・とんち?」が好きでたまりません。


3年1組 団体名「花鳥風月」(演劇)代表者

淺越岳人さん


屁理屈を言わせたら最強の淺越さんが、今回は優しさのある人物像を演じていたのが新鮮。前年度に学校側と対立して敗れた経験があり、醒めてあきらめているところもあるけど、違う意見を受け入れるキャパもある。人物像に、深みが増した演技だったと思います。


3年2組 団体名「道祖神」(演劇)代表者

信原久美子さん


「あー、こういう話し方する子いたなー。」「こういう先輩いたなー。」と思った。ちょっと怖そうで近寄りがたいんだけど、実はあねご肌で頼りがいがある、でも敵に回したらまずい。そんな感じがよく出ていました。劇の途中のツイートも楽しかった。あと、ブロマイドの写真、美しかった!


3年3組 団体名「どさまわり」(演劇)代表者

塩原俊之さん


「学校のことは、自分たち生徒で決める。」という国府台高校原理主義者。

「学校のいいなりになってはならない。」「抵抗しなければならない。」という切実な主張が伝わってくる、説得力と存在感のある演技。でも、全体を見渡せる冷静さもある部分も出ていて、塩原さんが流すどさまわりの涙は、いつも私の胸を刺しました。


あ、今思い出したけど、

私も、かなりの年齢まで、「どさまわり」だったなー、そういえば。

今や、自分に甘く、人にも甘く生きていこうと思っていますが、So What?ってなもんですが、でも、自分の中の芯の部分には、「どさまわり」がいるような気もしますね。


と、ここまで書いてきて、

やっぱり、これで終わりなの・・・?と思うと残念。

私がとやかく言えることではないですが、蜷川幸雄さん演出の『身毒丸』なんて、『身毒丸ファイナル』のあとに『身毒丸復活』、とかやってたよー、なんて思ってしまう。


でも、

今までも、他の劇団や、高校演劇でも上演されたそうですが、この作品は、アガリスクさんの手は離れても、きっと、これからも「継承」されていくだろうな、と思います。

それにふさわしい、「名作」だと思います。


ともあれ、「ナイゲン全国ツアー」完走、おめでとうございます。

また、アガリスクエンターテイメントさんの作品を観に行く日を楽しみに待ちたいと思います!

そして、いつの日にか、私達観客をPARCO劇場に連れて行ってくださいな!