自民党が、300議席を超える勢いだとのこと。聞いた時は我が耳を疑ったが、どうやら本当らしい。私は自民党支持派でも、アンチ自民でもないが、それでもこの情勢には、いささか動揺してしまった。こんな冷めた空気の中で行われる選挙で、一政党が圧倒的な勝利を収めるなんてことがあったとしたら、なんだか非常に危ういのではないかと思ってしまう。

その昔、郵政民営化を焦点とした「小泉劇場」選挙では、明らかに世間が熱くなっていた。民営化反対派を「抵抗勢力」とメディアがこき下ろし、今までアンチ自民だった人までもが自民党に票を入れ、結果、自民党は歴史的圧勝を飾った。しかし、今回は違う。そんな争点もなければ、演出家もいない。なぜ、解散するの?という空気さえ漂う、どちらかといえば冷ややかな選挙戦である。これで自民が300議席を獲得するとなれば、何かがおかしいとしか、言いようがない。

その「何か」とは、ひも解けば選挙制度の問題なのだろう。事の始まりは、96年に導入された小選挙区制だったのかもしれない。世間では「一票の格差」が問題になっているが、「死票」が多く、現実の支持率と議席数に大きな乖離のある現行制度は、大きなリスクをはらんでいるように思う。大した支持を受けていない者が、あたかも全権委任されたかのように、指揮権を振るってしまう可能性がある。

もちろん、小選挙区制度自体は、そうした目論見をもって導入されたものではない。だが、今回の「自民圧勝」報道を見るにつけ、あるいは96年に導入されたがこの仕組みが、日本の歴史に大きな影を落としてしまいそうな予感すらしている。

そういえば、戦前にも似たようなことがあった。「226事件」の後、事件の首謀者が復活しないようにと定めた「軍部大臣現役武官制」は、結果的に軍部が政治を握り、日本を戦争へ駆り立てる片棒を担いだ。この時、首相だった広田弘毅は戦後、文官として唯一、絞首刑となっている。

小選挙区制を戦時下の施策になぞらえるのは、いくらなんでも恣意的だと反論されてしまうかもしれないが、軍部大臣現役武官制も、導入当初は多くの人が、後にそんなことになるとは思わなかった。その点では共通している。早急にこの仕組みに着手しなければ、日本はあらぬ方向に暴走してしまうのではないか。そんな危惧すら抱いてしまう。