内田康夫『棄霊島(上・下)』
内田康夫氏の旅情ミステリー作品、というよりは「浅見光彦シリーズ」といった方がわかりやすいでしょうか。
ドラマなどでは沢村一樹氏などの演じる主人公が、殺人事件に巻き込まれ、現地の警察に疑われ、兄の威光に助けられ、推理の過程で旅先の女性といい雰囲気になるけど結局駄目で…という水戸黄門並のお決まりパターンが光るアレです。
浅見光彦シリーズの記念すべき第百作目(!)としても有名で、今年五月の頭に二夜連続で同名ドラマが放送されたので記憶にある方も多いかもしれませんね。
この『棄霊島』のストーリーで中心ともなる重要な舞台、それが長崎県の端島、通称「軍艦島」と呼ばれる島なのですがご存じでしょうか?
煙突や集合住宅の建てられた細長い島のシルエットが、見たまま軍艦に似ているというのが通称の由来です。
かつて海底炭鉱の発見と共に発展し、最盛期の人口密度が83,600人/㎢にもなったり、日本で初めて鉄筋コンクリートで住宅が建てられたりと繁栄を誇りながらも、エネルギー革命などを期に衰退、1970年代後半には無人島になってしまうという、その時代の日本の変遷要素を凝縮したような歴史を持つ島なんです。
作品内でもストーリーのカギを握る女性の、そこで産まれた最後の子という設定が大きく話に関わってきます。
また、話はずれますが、現在荒廃しきった建造物の乱立する軍艦島は廃墟ファンの“聖地”とも言われています。
このように建造物・廃墟としての魅力に、産業遺産としての価値もある軍艦島。その立地や歴史の特殊性から、今回紹介した『棄霊島』に限らず様々な小説や映画の舞台・ロケ地として、また、『SIREN2』というホラーゲームの舞台のモデルとしても取り上げられています。
「端島 Wiki」とでも検索すれば天下のウィキペディアさんがそれらの作品を教えてくれますよ。
ちなみに軍艦島は最近まで一般人の入島が禁じられており、廃墟写真家の方々も地元の漁師さんに依頼するなどし秘密裏に乗り込んでいたらしいのですが、2009年からは我々にも入島が許され、軍艦島ツアーができました。ちょいと値も張り、天候に左右され、立ち入りできるのもほんの一部ですが、島の雰囲気は十分に感じられると思います。
『棄霊島』などを読み、従来のコンテンツ→ツーリングで軍艦島に赴いてみた後は、ウィキペディアなどを参考に、逆にツーリング→コンテンツで軍艦島が舞台の他作品を読んでみるのも面白いかもしれませんね。