2010年に放送されたテレビアニメ『それでも町は廻っている』(以下『それ町』)の舞台になってちょこっと有名になった東京都大田区下丸子町は、2万人くらいの住民が淡々と日常生活を送っている極普通の下町である。が、アニメは大胆にも、この町に至福が、至福の店があると言っている。どういうことだろうか。
『それ町』は、町にメイドカフェ(みたいなとこ(笑))を開いた老婆とそこにメイドとして雇われた二人の女子高生の日常を描いているコメディ物である。小さな騒ぎは毎日のようにあるが、大きな事件や幸せ話みたいな事はほとんど起きない。では、至福はどこにあるのか。
『それ町』を作ったシャフトの最近の作品の傾向を見ると、セカイ系などいわゆるトレンドから少し脱線しているのが多い。『それ町』もそのような文脈から読み取ることができる。つまり、とある団長の話(笑)みたいに「私がいなくなったら世界が滅亡する」のではなく、私がいなくなっても、「それでも町は廻っている」ということである。
しかしこれは、それだから自分の存在はどうでも良いということではない。むしろ、その真逆である。私がいなくても町は廻っているということは、いつか私が町を去ったり死んだりしても、そこの人々の記憶の中に私という存在はずっと残るということを意味するからだ。だからこそ私は家族に、友達に、商店街のおっさんたちに、とても大切な存在だと。そして、みんなと過ごす日々の生活こそ至福だと、『それ町』は言っているのだ。
2010年9月、実際に下丸子町を訪れた。「この町には本当にウキさん(メイドカフェの婆さん)みたいな元気なお婆さんが多いですよ!」と自信満々に言う「カフェアルプス」(アニメの舞台となったカフェ、アニメではカフェシーサイド)のオーナーさんとおしゃべりしながら、本当に『それ町』の世界に入ったような気持ちになる。そしてもっと自分を、周りの人との関係を大事にしなきゃと思う。皆さんも、行ってみませんか。至福の店、至福の町へ。