心理学のお勉強(社会心理学)No10 : バイアスのかかった判断No2
心理学のお勉強(社会心理学)No10 : バイアスのかかった判断(Judgement heuristics)No2
今回はバイアスのかかった判断(Judgement heuristics)の第2回目です。人間にはかなり不安定な判断であっても簡便な意思決定をする傾向があります(Fiedler, & Bless, 2001)。
1.情報処理と妥協
心理学のお勉強のNo2(情報処理)
で扱ったように、基本的な人間の情報処理の流れは下記の通りです。(テレビCMなど)刺激→知覚→コード化→記憶→意思決定。この流れでは情報を合理的に判断しバイアスがかかることは想定されていません。(入門段階の)経済学での前提の合理的経済人のモデルと同様です。
しかし、上記のような情報処理は非常に労力がかかるため、多くのケースでは人間は合理性と経済(簡便)性との間で妥協をしています。それがヒューリスティックな判断(Judgement heuristics)です。多くのケースでは経済的だけど妥当な結果をもたらすと思われる経験則にそった判断と考えても構わないと思います(Fiedler, & Bless, 2001)。
2.ヒューリスティックな判断(Judgement heuristics)
(1)係留・調整(Anchoring and adjustment heuristics)(Tversky, & Kahneman, 1974, sited in Fiedler, & Bless, 2001)
定量的な判断は議論の初めの出発点の方向にバイアスがかかるという直感的方法です。例えば、スペインのバルセロナにAさんとBさんが1週間旅行をすることを考えて下さい。Aさんがインターネットで見ると20万円程度が最低価格のようです。多少はお金を使っても楽しみたいAさんは20万円という出発点(Initial anchor)としてそこにホテル・レストランなどのグレードアップにかかる費用を足していきました。一方、Bさんは友人が新婚旅行にバルセロナに行ったのでその時にかかった費用である60万を出発点(Initial anchor)にして不必要なもの(5星ホテルなど)を60万円から引いていきました。皆さんはAさん・Bさんのどちらの費用が高くなると思いますか?Anchoring and adjustment heuristicsの考えではBさんの方が高い費用を見積もることになります。それは出発点(Initial anchor)が高かったからです。
(2)シミュレーション(Simulation heuristics)
心の中でシミュレーションできる方向にバイアスがかかるという直感的方法です。例えば、アルコールを飲んだ後の運転の危険性に対する判断は、飲酒事故をどれだけ心の中でシミュレーションできるかによって異なります。飲酒事故を鮮明に思い描いた人は危険性を高く評価しますが、事故に対してたいして思い描かない人は危険性を低く評価します(Fiedler, & Bless, 2001)。
(3)思い出しやすさ(Ease of recall) (Schwarz, Bless, Strack, Klumpp, Rittenauer-Schatka, & Simons, 1991, sited in Fiedler, & Bless, 2001)
判断は記憶の思い出しやすさに影響を受けます。例えば、BMWをベンツと対比させて、BMWを選ぶ理由を1点思い出させる条件と10点思い出させる条件で比較した有名な研究(Wánke, Bohner, & Jurkowitsch, 1997)があります。当然、1点を考え出す方が10点考え出すよりも簡単でストレスもかかりません。その結果として1点思い出す条件の実験参加者の方がよりBMWをポジティブに評価しました(ANOVAによる比較で統計的に有意)。
《応用》 いくつか質問をしますので皆さんも考えて下さい!!
(1)なぜ私の夫は買い物で他の商品とよく比較しないで、名前の知っているブランド(値段も高い)ばかり買って来るの?
ブランド力の高い商品の方が買い物になれていない男性には思い出しやすいからだと思います。男性の方が、値段が高くない商品等を買う場合は、ヒューリスティックな判断(Judgement heuristics)を使う傾向が高いです(Meyers-Levy, & Sternthal, 1991)。(詳細はこちら
)
(2)株の個人投資家です。ITバブルで(証券)アナリストの意見に従っていたらバブル崩壊時に大怪我をしました。なぜ彼らの予想は外れたのですか?
アナリスト出身の私から見ると多くの証券アナリストは非常に優秀で、企業よりも多くの業界に関する情報を持っていることも珍しくありません(企業は自分の会社以外の情報は意外に手薄など)。それでもITバブルの崩壊時のように市場環境が急激に変化する場合は予想株価や予想業績を適切に修正できないこともあります。これは係留・調整効果が影響していると思います。つまり一旦、株価の予想や業績の予想を立てるとその水準が係留点(Initial anchor)となります。そのため、急激に経済環境が変わってもどうしても当初の水準(Initial anchor)に引っ張られて、株価・業績の予想水準が合理的に考えた場合よりも高止まりになってしまうのだと思います。よって予想株価を650円から500円に上げたのに1ヵ月後には300円まで株価が下がることが生じるのだと思います。
(3)証券会社のマーケティング担当です。海外の新興市場(インドなど)向けの新しいファンドを紹介する新しいCMによって新規顧客を獲得したいです。何をアピールしたCMが好ましいですか?
多くの一般の方は新興市場における市場の伸び率や新興市場投資のパフォーマンスの実績をしらないと思います。よって視聴者が新興市場に投資した際の投資効果のシミュレーションが簡単にできるような内容が相応しいと思います。
(4)三菱自動車は例のリコール問題によって海外市場でもブランド力が落ちているのか?
海外市場でのブランドイメージについての詳細なデータは持っていないので分かりません。ただし、競合の他国の車と比べて日本車には高品質というイメージがあるのは事実です。よって日本車が品質問題と起こしたケースと(例えば)韓国車が品質問題を起こしたケースでは品質の出発点(Initial anchor)が違います。そのため、係留・調整効果を基に考えると海外市場でのブランド力の低下は日本人が思っている程ではないかもしれません。一方、日本市場では状況は異なります。トヨタ・日産・ホンダとの比較になるため、当初の品質の出発点(Initial anchor)がそれ程高くありません。よって一度あのような品質問題を起こすと国内の消費者の信頼を回復させるのは時間がかかると思います。
(5)プレゼンテーションする時のポイントは?
プレゼンのポイントは思い出しやすさ(Ease of recall)だと思います。帰社(帰宅)後にプレゼンのポイントを思い出せれば良い内容だったと聞いていた人は感じる可能性が高いと思います。よって、ポイントを数点に絞ったプレゼンの方が内容を盛りだくさんにしたプレゼンよりも好ましいです。
他にも応用例や身近な事例を思いついたら、お気軽にコメント下さい!!
更新は、本編(時間的切迫下での消費)を明日の夕方、心理学のお勉強(ステレオタイプな偏見)を明日の午前中に行う予定
本編(時間的切迫下での消費)の紹介
衝動買いとも関係のあるテーマですが、衝動買い以外にも非常に面白い非合理的な側面を消費者は見せます。これらの非合理的な消費者の行動を紹介したいと思います。
心理学のお勉強(ステレオタイプな偏見)の紹介
人間にはステレオタイプな偏見によって知覚・記憶・解釈が歪められる傾向があります。例えば、ステレオタイプな偏見によるバイスによって、実際それ程比率は高くないのに、移民と犯罪の相関関係を高く見積もることもあります。
《お願い》
皆さんの実例があると、わかりやすく内容も発展しますので、皆さんの実例やコメントをどんどんお待ちしています!!下記コメント欄からお気軽に書き込んでください。
参考文献
Fiedler,K., & Bless,B. (2001). Social cognition, in Introduction to social psychology: A European Perspective Third edition, (ed) Hewstone,M. & Stroebe,W.
Meyers-Levy,J., & Sternthal,B. (1991), Gender differences in the use of massage cues and judgements. Journal of Marketing Research, February, 84-96.
Wánke,m., Bohner,G., & Jurkowitsch. (1997). There are many reasons to drive a BMW: Does imagined ease of argument generation influence attitudes? Journal of Consumer Research, 24, 170-177.