老人力 | 複雑系レトリック~自営業白書~

老人力




春先ということで、みなさんそろそろ本格的にボーっとしてくる季節ですね。私も御多分に漏れずボケーボケーっとしてきます。そして「なんだこれは!」というくらいに眠たくなってきます。
ついでに物忘れもはげしくなってくる季節・・


今日は老人力についてのお話を致します。


老人力というのは赤瀬川 原平さんが書いた本の名前です。この本では、いわゆる老人ボケと言われるものを「それってどうなのさ」という視点で見つめ直すとても意義深いテーマを取り扱っています。

まぁいろいろと書かれていましたが、私が読んだのももうかれこれ5年くらい前だと思いますので記憶はあやふや。その中でも特に印象深かった思想(!)をご紹介いたします。


ボケ老人というと「さっき言ったこともすっかり忘れる」とか「なにを食ったか覚えていないどころか食ったかどうかさえ忘れてしまう」という印象があります。
なんだか忌まわしい、マイナスのイメージです。自分はこうななりたくない、そう思いますね。


しかし、この忌まわしいボケ老人のイメージを払拭して余りあるアイデアが「老人力」には隠されていました。


私たちは物事をなるべく沢山覚えておこうと勤めます。自慢ですが、私はかなり記憶力がいいほうだと思います。
アメリカ人の友人に英語を教わっていたときも「おまえは一つとして忘れることがない。すべて覚えている人間だ」と言われたことがあります。しかし、彼女に教わったことは今ではほとんど覚えていません(褒め損)。

一度で覚えられないものは、反復練習をしてなんとか頭にたたき込もうとします。
私たちが平生行っている努力の大半は、この「覚える」という作業なのだと思うのです。


それでは今日は皆様に、この言葉を覚えて帰って頂きます。

ドルゴルスレン・ダグワドルジ

さあ、是非とも声に出して唱えてみましょう。ドルゴルスレン・ダグワドルジ はい!
あーなんだよこの呪文。おぼえにきぃ
一回ではとても覚えにくい言葉ですね。これは角界を代表する第68代横綱 朝青龍の本名です。
この人はモンゴル人なのでこういう名前。ドルゴルスレン・ダグワドルジです。


覚えて頂けましたでしょうか。ドルゴルスレン・ダグワドルジです(しつこい?)



私達は物事を覚える時に、こうやって何回も何回も繰り返して脳に記憶します




それでは次に、今覚えたこのドルゴルスレン・ダグワドルジを忘れて下さい。


・・・・・



忘れましたよっていうあなた。あなたきっと、覚えていませんでしたね(笑

そう、私たちは忘れるという能力を持っていません
時が経って自然に忘れることはあります。しかし自分から積極的になにかを忘れるという機能がないのです

これって考えてみるととっても不条理だと思うんですよね。辛いことや嫌なこと、すぐ忘れられるようになってればいいのに。
そしたら毎日楽しい人生ですよ。だって嫌なことは一つも残らないんですからね。
でも現実はそうではありません。私たちは嫌なことほど、より鮮明に覚えているものです。

がんばったら覚えられるのに、がんばっても忘れられない。
それどころか忘れようとすればするほど忘れられないというこのモヤモヤ。誰かどうにかして。



ここで老人力!登場!ババーン

さあ、やっと本題!老人力というのは「忘れる」ことを積極的に捉えた一面があります。
老人力とは、忘れる力なのです。


忘れることをマイナスとして捉えているあなた!そうじゃないんです、それは一つの能力なんです。

「今日、お昼ご飯たべたっけ?忘れたよ」
「あなたすごい老人力ですね!」

「そもそも、あんた誰?」
「すばらしい!なんていうとてつもなく大きな老人力なんだ!」

「ねえ、こないだ貸してあげた500円だけどさ・・」
「あなた、私の老人力をみくびらないでくれる?」


日頃物忘れが激しいと嘆くあなた、そうじゃないんですよ。あなたにはものすごく老人力があるんです。


言わずもがな、人間にとって忘れるというのはとても大事なことです。なんでもかんでも覚えていればいいってもんじゃありません。
それどころか、何一つ忘れることが出来ない人生はきっと苦痛にまみれることでしょう。
忘れる能力は生きる知恵です。忘れるから、生きていけるんだと思います。



さきほど申し上げた通り、私は記憶力に結構自信があります。
しかし独立して早2年最近ではめきめきと老人力が付いてきたのを実感しています。
「あら?今日うんこしたっけ?」などということはしょっちゅうあります。まぁそんなわけでこのブログをはじめました。


日々、強力になる私の老人力!
はっきり申し上げて、私このまま自営業続けているとものすごい老人力を獲得する気がしてなりません。


あと5年くらいしたら青色申告もぶっとばせるくらいの老人力がついているかもしれません。 

「青色申告・・・なんそれ?なに県産?」


しかしまだまだ私は半人前。オノレの不甲斐なさを感じる日々です。
そんなわけで、老人力不足のためにこれから税務署にうんこしに行って参ります。




書籍紹介: 「老人力」 赤瀬川 原平  ちくま文庫